めざめ
朝っぱらから、ルーベンスさん達の用意してくれた、豪華な料理がテーブルに並ぶ。
チキンや串焼き、カナッペ、何故かケーキまである。
これほどの物をどうやって用意したのか聞くのが怖い。
なので深くは考えず、特別な日を堪能する事にした。
皆がまだ日が高いと言うのに、数々の料理を口に運び、何度も乾杯を繰り返す。
「エルさん、今日から成人なら、一杯やってみるか?」
クリストファーさんがそう言いながら、エールが注がれたグラスを挙げるが、丁寧にお断りをしておいた。
だってそんな事をすると、全員と乾杯せざるおえなくなる、でしょ?
テーブルを隅に寄せ、簡単に作ったステージでは、みんなが歌ったり、一発芸を披露してくれたり、とても賑やかで楽しい。
それからジョンさんが、どこからかバイオリンを持ってきて、”聖なる夜に”を演奏してくれた時はとても驚いた。
こんな特技が有るなんて、思ってもいなかったから。
みんないい人達だ、こんなに大騒ぎしたのは一体いつぶりだろう。
気が付けばすでに日は沈み、外は暗くなっていた。
騒ぎすぎて少し熱くなった私は、体を冷やしがてら、外に出て星を眺める。
今日もまた空気は澄み、底知れない夜空はたくさんの星を映し出す。
「エル、疲れたのか?朝から騒ぎづめだからな」
「ジョンさん。ええ、楽しくて興奮しすぎたのか、ちょっと熱くなっったから一休みです」
「そうか?風邪をひくなよ」
私の隣に座ったジョンさんの手が、いきなり額に当てられる。
「熱はないようだな」
「大丈夫ですよぉ、心配性ですね」
いや、ジョンさんはいつも私を見ていてくれる。
そして気にかけてくれている。
きっと今だって、私がいない事に気が付いて、探しに来てくれたのだ。
「プレゼント、近いうちに、ちゃんと受け取ってもらえる物を送るから」
「ジョンさんの気持ちは十分いただきましたから気にしないで下さい。それよりさっきのバイオリン、とても感激しました」
「そうか…ありがとう。下手の横好きでやっているだけだが、ここにいる奴らに聞かせたところで、誰も喜んでくれないからな」
「そうなんですか?あんなに素敵なのに」
その言葉を聞いたジョンさんは、本当に嬉しそうに微笑んだ。
「あの…もし良ければもう少し聞いてくれないか?」
「ええ、ぜひ」
ジョンさんが家から持って来たバイオリンが、美しい音を奏でる。
今まで音楽を楽しむ暇なんてなかった。
でも今は、最高の舞台で、心の底からそのメロディーを堪能する。
『エレン……めよ。………から、それを………』
「かあ…さま……?」
空の高い所から懐かしい声が、雪と共に降ってくる。
「風花か……どうしたんだエル?」
ジョンさんが心配してくれているようだけど、それに耳を貸す事が出来なかった。
『その力を使ったらだめよ。大事な人や苦しんでいる人を見たら、助けてあげたいと言うエレオノーラの気持ちはとても立派だし、よく分かるわ。でもね、その力は大きくなるまで使ってはダメ』
”なぜ?おうじさまは、いたくなくなったってよろこんでくださったわ。わたしとてもうれしかったのに”
『エレオノーラはまだ小さいから分からないかもしれないけれど、人には良い人と悪い人がいるの。その悪い人があなたの力を知ってしまったなら、この前みたいに、あなたをどこかに連れて行ってしまうかもしれない』
”つれてかれたらどうなるの?”
『きっと悪い人は、自分の利益……お金が沢山ほしくて、あなたを無理やり働かせる。それにあなたが何処かに連れて行かれれば、もう母様達と会えなくなる。そうしたら母様はとても悲しいわ』
”わたしも!わたしそんなのいや!ずっとかあさまたちといっしょにいる!”
『母様もよ。いつまでもエレオノーラと一緒にいたい。だからね、これから母様はエレオノーラにおまじないを掛けます』
”おまじない?”
『ええ、いいですかエレオノーラ。あなたはお母さまが掛けたおまじないで、自分が魔法を使える事忘れます。そして大人になって、この事を思い出すまで、魔法を使う事を禁じます』
”きんじます?”
『魔法を使ってはいけませんっていう事よ』
”わかった、まほうをぜったいにつかいません”
『でもそれは人を助けたり、立派な事が出来る力なの。だからこの事を思い出したなら、それをどうするかは自分で決めなさい。もしその時、必要が無いと思ったならば、それを封じなさい』
”どうしておとなになってからなの?どうしていいことなのにしてはいけないの?どうしてふうじるの?どうして?どうして?”
そこで私の記憶は途切れた。
いつだったか忘れたけれど、あの時も確か私の誕生日だった気がする。
私には治癒?できる力があった。
今は思い出せないけれど、それ以外にもいろいろな事が出来た。
でもあまりにも幼い私を、私欲のために利用しようとする人がいたのは確かだ。
だから母様は、私のその力を封印したんだ。
遥かな高みから、その記憶がストンと降りてきて、私の中に納まった気がする。
今、分かった、思い出した。
「…ル、しっかりしろエル!」
気が付けばジョンさんが私の肩を掴み、凄く心配そうな顔で私を呼んでいた。
「ジョンさん…、私思い出しちゃった…………」
「一体どうしたんだエル」
「あのね、母様が…」
この事は話してもいいのだろうか。
私は小さい頃、己の力のために誰かに攫われかけた。
そしてこの人も、その事を知ったなら………。
いや、ジョンさんはとてもやさしい人だ、私にはそれが分かる。
「雪も降ってきた事だし、取り敢えず中に入ろう。話はそれからだ」
ジョンさんに手を引かれ、中へと戻る。
家の中や皆の暖かさは、先ほどと何ら変わってはいない。
だけど部屋の中は、さっきまで大騒ぎしていたとは思えないように静かで、皆の心配している様子が私に向けられていた。
「ちょっとエルと話をしてくる。それまで待っていてくれ」
ジョンさんは私を部屋に連れて行き、ソファに座らせた。
それからルーベンスさんの持ってきてくれた、暖かいお茶を一口いただき、ようやく人心地着いた。
「大丈夫かエル?」
心配そうに、ジョンさんが私の顔を覗き込んだ。
「きっと、何か気がかりな事が有るんだろう。だが無理にとは言わないが、もし何かあったのならば話してほしい」
この人はなぜこうも優しいのだろう。
自分だって大変な事が沢山有るだろうに、こうして他の人の力になろうと心を砕いてくれる。
この人ならば、きっと私の事も分かってくれるに違いない。
だから私は、今蘇ったばかりの記憶の事を話した。
深い所は端折って。
小さい頃、魔法が使えたため誘拐されたかけた事。
それを心配した母親が、私が大人になるまで記憶と力を封印した事。
だから今日まで、自分が魔法を使えるなんて、全然知らなかったこと。
「なるほどな。だがそうなると、お前はかなり高位の爵位を持つか、その血を引いていると言う事になるが……まあいい、そんなみみっちい事なんて関係ないさ。大事なのはエルはエルだと言う事だ」
ジョンさんの言葉の意味がよく分からない。
元々私には魔力が無いと思っていたから、魔力の事には興味がなかったからでしょうか。
ジョンさん曰く、魔法を使える人は、それを駆使し地位や富を築いていった。
今一番高位の魔法を使えるのは王家と言う事になっている。
実際は違うのだろうが、王家より強い者が、国のトップになりたいと反乱を起こせば、戦乱の絶えない国になってしまうため、そういう事にしてあるらしい。
しかしそれを良しとしない者もいる。
魔法が使える者は、金と引き換えに魔法を施す。
魔力は金を生み、その金は人を引き付ける。
だから人は魔力を欲する。
金や魔力が多いほど、国はその者を他国に取られないよう高い爵位を与え国に縛ろうとする。
つまり欲の悪循環だ。
爵位を持った者は、王から領地を与えられ、税を徴収できる。
だが、領地を与えられれと言う事は、その領土を管理し、領民の幸せを守らねばならないと言う義務が発生する。
それを実行しない貴族は、最低な家柄とレッテルを張られ、改善されないようならば、いずれ爵位を剝奪される。
尤もこれは表面上の規約だけど。
「もしかしたらお前は…いや、エルの持つ魔法は治癒魔法だけなのか?」
「良く分からない。人のケガは直した事が有るけれど、もっと他にも出来た気がするの」
「そうか…覚えていないものは仕方がない。そのうち思い出すかもしれないしな。俺達だって似たようなものだし、いや、何でもない。後、母親がその能力を封印していたと言っていたが、それは本当か?」
「ええ、先ほどの記憶が正しければ、母様が私が成人するまで、この能力を封印したんだと思うの。尤も本当に魔法が使えるかどうかなんて、やってみなければ分からないけどね」
ジョンさんが、何だったらやってみるか?そう言ってナイフを取り出し、自分の腕を切ろうとしたから慌てて止めた。
私が魔法を使えなかったら非常に困るから!
「後、他に思い出した事や、話したい事はあるか?今まで秘密にしていた事とか、この際俺たちに話しておきたい事が有れば、今のうちに話しておけ」
確かに秘密と言うか、話していない事は有るけれど、それを言うと面倒だし、それ以外に言っていない事……?
「あっ………実は私、なた遣いの達人なんです!」
薪割は皆がやってくれていたから黙っていましたが、ぜひそのなたさばきを皆さんにご披露したいです。
「あぁ……、そのうち見せてもらおうか一度だけ。で、他は?」
「プライベートで話したくない事は、言わなくてもいいんですよね」
「そうだ」
「ならば別に、これ以上は有りません」
「……………分かった。で、確認したい事が有るのだが、この話を皆にしてもいいだろうか。多分ドアの外で心配していると思うんだ」
そう言えば、さっきみんなの様子がおかしかったっけ。
きっと何かを感じ取って、私の事心配してくれたんだろうな。




