話し合い
私は少しの間だけ…と、ジョンさん達と共に生活をしていた。
「エルさん、ここのボタンが取れたんだけどさ」
「分かった付けとく」
「エルさん、この前のスープが食いたいなぁ」
「了解、じゃあ百々茸取ってくるね」
「いや、それは俺たちが取ってくるから」
「そう?じゃあその間に洗濯物しちゃうから、有ったら出していってね」
「あぁ、ドクとランドも手伝うからよろしく頼むよ」
「おーいエルさん、このリュックエルさんのじゃねえ?下流の岩に引っかかってたぜ」
「あー私のだ!ありがとうカイルさん」
毎日が楽しい。
それに最近は、みんなが私の事を頼ってくれる。
簡単で細かい仕事ではあるけれど、頻繁に頼まれる。
だからここを出ていくって、なかなか言い出せない。
でも仕事を頼まれる事は、それだけ私の価値を認めてもらっていると言う事。
それが反って嬉しい。
みんな私に、敬意を持って大事にしてくれているのがとても嬉しい。
ジョンさんの部屋は、いつの間にか私専用の部屋となり、ジョンさんは皆と一緒にごろ寝をしているらしい。
掃除もみんなが自発的にやるようになって、埃っぽかったアジトは綺麗になっているし、隙間風が吹き込んでいた建物も、いつの間にか手直しをして、とても過ごしやすくなっていた。
ルーベンスさんの料理も相変わらず美味しいし、その手伝いも今では私の仕事だ。
まともに取れる食事、隙間風が吹き込まない家、暖かい布団。
みんな優しくて私の事を頼ってくれる。
つまり今のここは、私に取ってとても居心地がいいんだ。
おかげでズルズルと、もう1月以上もここにいる。
まずいな……でもなかなか踏ん切りがつかないんだよ。
「エル、雪が降って来たぞ」
「えっ本当?」
思わず駆け出し、外に出てみる。
ふわふわの大きい雪が、クルクルと回りながら舞い降りてくる。
「わあぁーー」
手を大きく広げ、落ちてくる雪を受け止めようとする。
肩に落ちた雪が、暫くそこに留まり、やがてスッと水に変わる。
「雪か…まずいな……いやかえって…………」
降る雪の中で空を見つめ、考え込んでいるジョンさん。
イケメンはどんな時でも絵になる。
「エル風邪をひく、そろそろ中に入れ」
「ジョンさん、綺麗だね。ひらひらだね。私、もう少ししたら入るから先に入っていて」
そう言い、あちこち走り回る。
木の葉に積もり始めた雪を払ったり、水に落ちる様を眺めたり。
そして一度中に入ったジョンさんが、再び私の傍に寄ってきて、肩に暖かな物を掛けてくれた。
「以前の戦利ひ……いや、掃除した時に見つけたやつだ。寒いからこれを掛けていろ」
真っ白いふかふかのショール。
ジョンさんが言い掛けたのは、以前の戦利品…だよね?
まあしょうがないか。
でも………。
「ねえジョンさん、お仕事って……してるの?」
そう言えば最近、みんな仕事(盗賊)に出ていないよね。
その代わり、家の手直しをしたり、獲物を狩りに行ったり食べれそうな植物を探しに行っているようだ。
いい事ではあるけど、収入的に大丈夫かな。
「ああ、ちょっと考える事が有ってな。しばらくの貯え……は有るから心配はするな」
お金は仕事で貯めてあるって事でいいのかな?
「お前の書置きの事をちょっと考えていたんだ。もう少し待ってくれるか?」
「うん」
書置き?
「さあ、ほんとに冷える、もう中に入るんだ」
「はーい」
その日の雪はすぐに溶けてしまったけれど、ここが雪に閉ざされるのも、もうじきらしい。
「と言う訳で、俺はここを抜けようと思う。勝手を言って本当にすまない」
ある日の晩、ジョンさんはみんなの前で頭を下げた。
「そんな、お頭、俺達を見捨てるんですかい?」
「いや、今までの稼ぎは全て置いて行く。分配はお前達で相談をして分けてくれ」
「そういう問題じゃないんですよ」
「そうです、お頭が俺達を置いて行く行為の事を言っているんですよ」
「自分勝手だと十分承知している。その上での頼みだ。だがどうか俺の我儘を聞いてほしい」
ジョンさんが独り立ち?独立?をしたいと言っている。
確かに、今まで率いてきた仲間を置き去りにするのは、我儘かもしれない。
でも、今まであんなに仲良くしていた仲間を置いて出ていくと言うのだ。
彼だって、かなりの覚悟をしているはずだ。
それを周りの皆が、それぞれの考えを押し付けるのは、ジョンさんが可哀そうだよ。
「だめだよ皆!ジョンさんにはジョンさんの考えや人生が有るの!そんな事を言って、ジョンさんを責めないで!私たちは笑ってジョンさんを送り出してあげようよ!!」
「………………」
「………………」
あれ?私の言っている事は間違ってる?
無理を言って、ジョンさんをここに繋ぎ留めておく方が正解なの?
「エルさんや?少々話がずれているような気が……」
はて………?
私は首をかしげる。
「エル、お前はここに残ってくれるのか?それならそれで俺も…」
「いえいえ、先日説明をした通り、私は死んだ友達の故郷を探し当てなければなりません。その為には、いつまでもここに留まる訳にはいきません」
と言いつつ、既に1月以上たちましたが…。
「だよな、だから俺も雪が積もる前にここを出て行こうと……」
「雪ですか?それもそうですね。なるほど雪が積もる前に私はここを出た方がいいんですね。で、私が出ていくのを機会に、ジョンさんも同時期にここを出ようと言う考えですか。納得しました」
でも私は取りあえずバスクの兄さまを頼るつもりですが、ジョンさんはどこに行くのでしょうか。
「エルさん、そりゃあお頭が可哀そうだ」
可哀そう?見れば確かにジョンさんは深く肩を落としている。
どうしました?私何か悪い事言いました?
「あの、一人が寂しいなら、途中まで一緒について行ってあげましょうか?」
「ちがぁううぅ!!」
ど、どうしましたジョンさん!? ドウドウ、落ち着いて。
「エルさん、この周辺、バスクまではとても危険です。知っていますよね?」
「はい」
「お頭はあなたの事をとても大事に思っている、当然あなたを危険にさらしたくない。分かってますか?」
「あ~、はい…」
「お頭はあなたと同時期でははなく、同時にここを出るつもりです。どうしてか分かりますか?」
「え………と?」
それって………。
「エル、はっきり言う。俺はお前と会った瞬間にお前に惚れた。もちろんそれは俺の一方的な押し付けだ。だがどうか分かってほしい。何が有ってもお前を守りたい。お前の力になりたい。だからどうか、お前の望みが叶うよう、俺がいつもお前の傍にいて、力を貸す事を許してくれ」
つまり出ていく私に付いていきたいから、それを了承しろと言う事だよね。
「お断りします」
ガ~~ン
「それって、私の力になりたいから、ここにいる皆さんを捨てて付いてくると言う事ですよね。たかが1月前に拾った娘一人と、長年付き合った大勢の人。どちらが大事か優先すべきかも分からないんですか」
「いや、だからこいつらには申し訳ないと頭を下げて…」
「謝れば済むと言う話ではありません。これは責任の問題です。とにかく私はジョンさんの申し入れを受け入れる事は出来ません」
ガ~ン ガ~ン ガ~ン




