おまわりさーん
見下ろしたその先には、ほんの少し肉が増えた絶壁が………。
そしてそこに、いきなりクライマーが出現。
それはジョンさんの手のひらでした。
ペタ。
「ほら、他はまだガリガリだけど、この胸筋は意外と育ってるよな」
モミモミモミ。
「ひっ」
「でもずいぶんと柔らかい胸筋だな」
モミモミ。
「キッ」
「……………」
モミ……。
「キャーーーー!」
「ビルト~~~!」
ジョンさんが慌てて部屋を飛び出していく。
私は開け放された扉を思い切り閉め、その前にへたり込んだ。
「はーっ、はーっ、はーっ」
ジョンさん酷い!変態!!
しかし扉の向こうも大騒ぎだった。
「ビルト、胸、胸が、あいつに胸が有った!」
「そりゃあ誰にでも胸は有りますぜ」
「…もしかしてお頭、あの子が女だと気づいていませんでした?」
「お頭がぐいぐい行くから、てっきりお頭にも来たとおもったのになぁ」
「な、何がだ!」
「遅い初恋が」
「違う!いや違くはないが、しかし!しかし俺はあいつの事を男だと思っていたんだ」
「ああ、だから初めて会った日、お頭変だったんですか。えっ?じゃああいつの事を男だと思って口説いていたんですか?」
「そ…それは……。お、俺だってすごく悩んだんだ!しかし好きになっちまったんだから開き直るしかないだろう!!」
あっ、ジョンさん私の事、男だと思ってたんだ。
まあ、この髪と服なら間違えるか。
悪い事しちゃったな。
「お前らは気が付いていたのか?」
「あたりまえでしょう」
「…どうして…分かったんだ?」
「顔ですね」
「骨格」
「雰囲気や仕草」
「お頭、鈍すぎますって。賭けにもなりませんでしたよ」
「グッ……」
なるほど、他の人は私が女だって気が付いていたのか。
「まあまあお頭、まずやらなければならない事があるでしょう。嬢ちゃんが中で震えてますよ」
「あっ!」
確かに、お金も着替えも流されちゃったし、現在濡れ鼠状態で寒いです。
すると、どたどたと駆け寄る足音がして、
「すまない坊主、じゃない、お嬢さん。今すぐ湯を運んでくるから毛布をかぶって、どこかに隠れていてくれないか?」
そうか、私濡れているうえに、上半身ほぼ裸だった。
了解しました。
それから間もなくしてノックをする音、私は言いつけ通りに毛布をかぶり、ベッドの向こうで丸くなった。
そしてジョンさんとビルトおじいさんが、大きなタライを運んでくる。
「すまなかったな。この湯で少しでも温まってくれ。それと着古しで悪いが、この部屋にある服を適当に着てもらえないか?」
「あ、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます……」
お湯で温まってから、ついでに洗った下着を、タオルに包んでから絞って、何とか湿った程度にした。
さすがにジョンさんの下着を借りる訳にはいかないから、これで我慢するしかない。
それからジョンさんの衣装箱を開けさせてもらい、一番小さそうなシャツとズボンを引っ張り出した。
それの裾を折ったり結んだりして、何とか体から落ちないようにする。
”コンコン”
ノックの音。
「開けてもいいか?」
「はい!」
「……腹が減ったんじゃないかと思って食い物を持ってきた。口に合わないかもしれないが食べてくれ」
いや、昨日も一昨日もいただきましたが、とても美味しかったですよ?
何か川に落ちてから、ジョンさんの対応がとてもジェントルマンです。
ジョンさん手ずから上げ膳据え膳されて、私が自分でやると言っても、 反って世話をやかれてしまう始末。
今日は色々あったから、ジョンさんは気を使ってくれてるんだろうな、悪い事しちゃった……。
「明日は早くから起きて、みんなの朝ごはんの支度をしよう!」
私は一人になった部屋で、こぶしを握り締めて誓う。
皆に迷惑かけた分、明日からは皆の為に頑張らなくちゃあ。
また手伝うのを断られちゃうかもしれない、でも私が先に始めて主導権を取ればいいよね。
朝ごはん何を作ろうかなぁ。
そう言えば、近くに百々茸とエニシ菜も生えてたな。
それとハムを少し分けてもらってスープにしよう。
そういえばアジトの横の山郭樹の実が食べごろだったっけ。
早めに起きて取りに行けば間に合うね。
そんな事を考えていたら、いつのまにか私はぐっすりと寝こんじゃったみたいです。
「やばい!」
今朝はやらなければならない事があったんだ。
幸いにしてお日様はまだ山の向こうに隠れていて、外は薄明るい状態。
横を見ると、ベッドにはジョンさんの姿が無い。
変だなぁ、ここはジョンさんの部屋でありベッドだから、ジョンさんは夕べみたいにここで寝るはずだよね。
それとももう起きたのかな?
でも見つかるとうるさいから、いなくて正解。
私はなるべく音をたてないように素早く身支度をする。
「………なんかデジャブ…」
最近同じ事があった気がするけど…いや、細かい事は気にしない方が賢明だ。
部屋を抜け出す時も、目を覚ます人がいなかったのはラッキーだった。
私は台所の片隅に有ったバスケットを腕にかけ、足早に森に向かった。
「よし、次はエニシ菜だ。どれぐらいあるかな」
朽ちた木から生えていた百々茸をつみ、よっこらしょと立ち上がる。
「待て坊主!じゃない…お嬢さん」
静かな森に声が響き、いきなり腕を掴まれる。
「ジョンさん?」
まずい、起こしちゃったんだ。
気まずい思いをしながらジョンさんに振り向くと、いきなり抱きしめられた。
「やはり出ていくのか?俺の傍は嫌なのか?」
「嫌ではありません…よ?」
「それならどうして出ていく」
いや、いずれは出て行かせていただきますが、今その話をしていると、みんなの朝ごはんが遅くなります。
「あのジョンさん、その話は後でもいいですか?今はあの丘のエニシ菜を採りに行きたいんです。それから山郭樹の実を採らなくちゃ」
「エニシ菜?」
「ええ、朝ごはんのおかずです」
そう言いながら、ジョンさんにバスケットの中の百々茸を見せた。
「ハ?ハ…ハハハハハハ、ハァ~~」
そう笑いながら?ジョンさんはへなへなとしゃがみ込んだ。
私が何も言わないで出たから、心配して探しに来てくれたのかな?ごめんね。
「馬鹿かお前は!」
「ひっ!」
「こんな暗いうちから一人で森をうろうろして、お前は女なんだぞ、それもこんなにかよわい……」
そう言いながら、ジョンさんは腕は引き寄せ、もう一度私を抱きしめた。
確かに今はガリガリかもしれないけど、いずれボン・キュッ・ボンの筋肉質な立派な体に……なりたいな。
「お前の自立心は立派だが、もう少し人を頼る事を覚えろ」
それは私の主義に反する!
でも…
「だから、それもひっくるめて話は後で聞きます!今はエニシ菜の方が大事です!」
そう言い残し、たじろいでいるジョンさんを置き去りにして丘に向かった。
もちろんジョンさんは慌てて追いかけてきて、食材集めを手伝ってくれました。
「旨かったぜ嬢ちゃん」
「あぁ、お頭が許してくれるなら、毎日作ってもらいてえなぁ」
そんな、ルーベンスさんの作る料理の方が、ずっと美味しいじゃないですか。
でも、皆さんのお口に合って、とても嬉しいです。
「そうだ、坊主でも嬢ちゃんでもどちらでも良いですけど、私の名前はエレオノーラです」




