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誰?

「どうかお願いします。何とかアレクシス様にご尽力を」


この男は何を言っているのだろう。


「私共はそちらの指示通り、あの方にお声を掛けしました。エレオノーラが死んだのはあなたのせいでは無いと、気にしないでくれと。これ以上、私達に何をしろと言うのですか!」


たとえ私の本心では無いとはいえ、そう言わざるを得ない圧力があったのは事実だ。


「エレオノーラ様の弔いが済んだばかりと言う事も重々承知しております。しかしこのままではアレクシス様が………」

「アレクシス様がどうかなさったの?エレオノーラは死んだのですよ」


それを聞いたこの使者は、ぐうの音も出ないようだった。

それでも自分の主のため、意を決して食い下がる。


「心無いお願いだと分かっております。しかしこのままでは、殿下はエレオノーラ様の後を追い兼ねません、何とか今一度、殿下とお会いしていただけないでしょうか」

「それはそれは、で、会って私達にどうしろと仰るのですか?あなたのお話では、どうやら殿下は自害しかねない様子、では殿下が自害すればエレオノーラが悲しむ、どうかエレオノーラのために自害しないでくれと言えばいいのですか?それでは私たちは?あなたは娘を亡くした家族の事を考えた事は有るのですか!」


歯を噛み締め、顔色の悪い従者は、多分その事も重々承知しているのだろう。

つまり彼も、王家と私たちの板挟みとなった被害者なのだ。

それを承知した上でも、私の気は収まらない。


「もしやあなたは、私達がアレクシス様に、もう一度話をすれば彼の気持ちが変わるとでもお思いですか?あなたは殿下がエレオノーラの後を追い兼ねないと言ったのに、私達の言葉でアレクシス様が考えを変えると?エレオノーラの命も随分と安く見られたものですね。もっとも、殿下が自害したとしても、エレオノーラと同じ場所に行くとも限りません。どうか殿下に、追うだけ無駄だとお伝えください」


不敬極まりない発言だとは分かっているが、ほんの少し嫌味を言ってもいいだろう。

まあ言う相手は使者様であり、直接王室に言わない私達は、結局は反抗できない意気地無しなのだが。

それから使者殿は、ようやく私達がアレクシス様に会う気が無いのだと諦めたのだろう、がっくりと肩を落とし帰っていった。



「ジャクリーン」

「何?エル」

「本当に放っておいて良いのだろうか」

「確かに酷い仕打ちだと分かっているわ。でも私の気持ちはこんなものでは収まらないの」

「まぁ気持ちは分かる。だが、もしアレクシス様が早まった事をしてしまったなら…」

「するのはアレクシス様の勝手、私達に何の関係ないわ。と言っても優しいエレオノーラなら、きっとそんな事になってもらいたくないわよね……」



エレオノーラを連れ帰って数日後、辺境に出稼ぎに行っているイカルスも戻って来た。

イカルスもシルベスタと同様に、かなりショックを受けてた。

それから二人は部屋に戻り、何やら話をしているようだ。

きっとエレオノーラの思い出話でもしているのだろう。



私もようやく現実を受け取れるようになり、正面からエレオノーラの死に向かう事が出来た。

そしてある事に気が付いた。

それは、エレオノーラを迎えに行った時から感じて違和感だ。

だがそれはエルも同じだったらしい。


「ジャクリーン……今さらこんな時のこう言うのも何だが、…………オノーラの身長が少し縮んでいるような気がする……のだが?」


私も同じ事を考えていたの。

だけど火災にあったのだから、この場合こういうものなのだろうか?と、これが普通なのかと思い込もうとした。

だけどエルも同じ事を感じていたのか。


「そう…なのよね……」


彼女は今、薄い水色の総刺繍のヴェールが掛けられ、顔は綺麗な小花模様の布で覆われている。

出来れば素敵なドレスを着せてあげたかったが、あの子には送り出すのに相応しいドレスが無かった。

仕方なく私の持っている中で、一番上等のドレスを着せてあげたのだが、いつもはかなり寸足らずになってしまうドレスの裾が、今は何の違和感も無い寸法なのだ。


「それに…ね、さっき気が付いたのだけど、ほら此処に……」


そういいながら、握りしめていたエレオノーラの指をほどく。

火災の時、握りしめていたせいなのか、そこは他の部分と違いきれいなままの状態を保っていた。


「あっ……」

「気が付いた?」


そう、エレオノーラの左手の中心ほどには、生まれた時から少し目立つぐらいのほくろが有った。

それが今は、まるでそれが無かったかのように綺麗な状態なのだ。

エルはその手のひらを必死にこすったり、水で浸した布で拭いたりしながら、首をかしげていた。

やがて、諦めたように呆然と私の顔を見つめた。


「この子はエレオノーラではないのか?」

「そんなこと私に聞かれても……でも私も同じ、多分この子はエレオノーラでは無いと思うの」


そう、多分この子はエレオノーラでは無のだろう。

エレオノーラと比べれば比べるほど、本人とは違うところが明らかになってくる。

外見の特徴は無理としても、身長をはじめとして、指の長さなどが明らかに違う。


でも、この子がエレオノーラでは無いとして、それならあの子は今どこにいるの?

この子は一体誰なの?

どうしてエレオノーラのハンカチを持っていたの?

後から後から疑問が湧き上がってくる。


「とにかく、この子がエレオノーラで無くとも、あのハンカチを持っていた以上エレオノーラとの接点が有った事は確か。無下には出来ないわ」

「そうだな。取り敢えずこのまま安置して、すぐにサバストに人違いだったと報告をしなくては」

「でもサバストでは、ほとんどの被害者の身元が判明し、身元の分からない遺体は一体だけだと聞いたわ。まだ細々と調査は続けるものの、その遺体も身元不明者として埋葬したそうよ。今連絡をしたところで、きっとこの子も同じように埋葬されてしまうわ」


それは嫌だ。

エレオノーラと同じ年頃の娘が、ただ一人寂しく、誰にも惜しまれずに埋葬されるだなんて悲しすぎる。


「これも何かの縁だ。この子の家族が見つかるまでは、我が家で手厚く弔ってあげよう」

「ありがとうエル」




「イカロス、シルベスタ、少し話が有るのだが………」

「実はね、ずいぶんとお騒がせしちゃったけれど………」


二人の兄を食堂に呼び、あの子がエレオノーラでは無かったと伝え、一連の事を話した。

あの子達に事情を説明せず放っておけば、何を仕出かすか分からないから。

どうやら口には出さないものの、エルも復讐を許可したみたいだし。


「まったく!今までの俺の気持ちはどうしてくれる!」

「俺もだよ。心臓が潰れるかと思ったよ。エレオノーラが見つかったなら、こっぴどくお説教だな!」

「あぁ、とにかくまずはエレオノーラを見つけ出さなければ」

「そうだよ。じきにあの子の誕生日だもの。せっかくプレゼントを用意したんだからな」

「何だ、お前もか」


今回の騒動は、一概にエレオノーラが悪いとは言い切れなのだけれど……。


しかし先ほどとは打って変わった態度もどうかと思う。

確かに人一人死んでいるのだから。

まあ妹が死んだと絶望の底にいたんだもの、少しぐらいなら大目に見てもいいだろう。

あの子たちはとても強くて優しい子たちだもの。

その証拠に、エレオノーラの部屋に眠っている子の枕元には、小さな箱が二つ、ひっそりと置かれていた。


たとえエレオノーラでは無いとしても、この子をそのままにしては置けないと、葬儀を執り行う事になった。

それに関して、王家から援助や婚約者としての立場だからと埋葬する場所などの申し出があったが、それはきっぱりと断った。

仮にこの子がエレオノーラだとしても、そんな事をしてもらう気はさらさら無い。


葬儀は全て家族だけで執り行い、ガルディア家の墓地に埋葬した。

一つの魂が天に召されるのだもの、やるのが当たり前。

どうか安らかに眠ってちょうだいね。


ただ、この子は家族に帰さねばならない身。

せめて少しでも状態を保てるようにと、あの紫の魔石を棺の四隅に設置した。

こうしておけば、一定期間腐敗を防げる。

少々痛い出費だったが、そんな事を気にしている訳にはいかないもの。

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