厄介事
ピーポちゃん達は腕を組んで仲睦まじく。
サラさんとハルちゃんは二人並んで、さながら仲のいい姉妹が、話に花を咲かせているように。
そして私はリンデンさんと隣り合い、人が整え整備した町の説明を聞きながら街の中を歩いていた。
当初周りの人達の反応は……まあトルディアと同じような感じ。
慌てて駆け付けたお偉いさんが、私達の前で跪く…前に先手を切って挨拶して、どうか私達の事は見て見ぬふりをして下さいとお願いし、了承してもらった。
しかし了承してもらった私達の周りには、やはり遠巻きに人だかりができている。
まあ仕方が無い事だけどね。
だから向こうに見て見ないふりをしてくれと言っても、実際は私達が見て見ないふりをするしかなかった。
それから一応護衛と言う名の十名ほどの騎士が、私達に付いて回ったけれど、それって何の意味が有るのだろう?
こちらにはリンデンさんをはじめとして、人間より頼りになる仲間がいてくれるし、私達に手を出してくる人など、いるとは思えないんだけど(その原因の中心は、お前だけどな)
小さい頃の記憶とはかけ離れた景色。
それでも自然を生かしつつも、変化を遂げたその新しい世界には目を奪われた。
そして私達は、港を一望できるカフェでお茶をいただきながら、それぞれ雑談をする。
「あの岩場を生かして桟橋を作ったのね」
『うん、アレクシス殿下の考えや専門家の設計でね。港はここと、隣のカゼインに分散して作ったんだ。あそこは小さな半島のようになっているからちょうど良かったみたい』
「あっ」
そう言えば私の元々の目的って、カゼインになんちゃって聖地を作る事だったんだ。
すっかり忘れていたよ。
それにしても、アレクシス様。
何か用が有ったはずなんだけどな……。
アレクシス様…アレクシス様。
ん~~思い出せないな。
とにかく今は、カゼインだ。
「ねえリンデンさん、私達カゼインにも聖地を作ろうと思っていたんだけど……」
『それは必要ないだろう。既にこの地やエレオノーラ山が聖地となっておる』
「その名前はやめて下さい」
『お主がそう騒いだところで、既にその名は人の中に浸透しておるからな。今更変える事は無理じゃろう。それにわざわざカゼインに紛い物の聖地を作ったところで、同じ理由で浸透はせんじゃろうて。早々に諦める事じゃな』
リンデンさんがそう言うならそう言う事なんだろう。
仕方が無い………いや、山の名前の変更は提案だけでもしてみよう。
『そう言えば大地の神がお前を呼んでおったな』
えっ、そんな大事な事を、なぜ早く言わないんですか!
「えっ、どうして!?確かに近いうちに伺う気だったけれど、そう仰っているなら、
何を置いてもまず最初に伺わなくちゃいけないのに!」
緑の御方はきっと救われたと思う。
そうで無ければ、私達がいくら頑張ろうと、この自然はメチャクチャのままだったはずだ。
でもそれはこちらの憶測。
それを確かめるためにも大地の神様達に会いたい。
そして大地の神と緑の御方にお礼を言いたいのだ。
こんなバカな事を仕出かした人間を見捨てず、助けてくれた事に。
「すぐ行こう、今行こう!」
私は慌てて立ち上がり、神様達の下に向かおうとした。
『まあ待て、行く前に説明しなければならない事が有る。お主が眠りについた時…最後の記憶はどこまで残っておるのだ?』
「え~~?確か…リンデンさんに助けられて、緑の御方と大地の神様の声を聞いた?」
ような気がする。
ありがとうと言う言葉を。
『なるほど、ならば肝心な事は知らぬのじゃな。さて、覚悟は良いか?』
覚悟?覚悟って何?なんか怖い。
『実はお主が眠りについた時、本当は死んでもいいほど衰弱していたのだ』
「そうなの?」
それが本当ならば、私ってとても運が良かったんだね。
『だがその時、お前を失うのは惜しいと思った神が、お前に新たな名を授けたのだ』
「ふーん」
『驚かぬのか?』
「驚くと言うか、神様はなぜそんな事をしたんだろうと言う疑問?」
それを聞いていたリンデンさん達一同が、ふ~とため息を吐く。
えっ、どうしたんですか?私何か間違えました?
『姉さんそりゃないぜ』
『そうよ。私達に名前を付けたのはあんたでしょう?』
はい、確かに皆に名前を付けたのは私です。
それが何か?
『主よ、そのために私達があなたの眷属となった事は自覚しておりますか?』
「眷属って言うか、私は皆と友達、仲間になったって思っているよ?」
『主がそう思って下さるのは大変光栄では有りますが、今お尋ねしているのは、その表現方法では有りません』
『そうだよ。ご主人様が名前を付けてくれたからこそ、あたしたちはご主人様の眷属になって、今まで以上の力を手に入れたんだよ?』
え~~と……?
『まだ分からぬのか?死を目前としたお主が、神に名を貰い』
「結果、この命を長らえる事が出来たと」
『ようやく理解したか。賢いではないか』
バカにしているんかい。
でもその理屈だと、私ってば大地の神の眷属となったって事ーーー!
今まで以上の力を手に入れたって事ーーー!!
「冗談…」
『ではないな』
そうかー、やっぱり事実なんだー。
ただでさえこんな力のために厄介事ばかりなのに、勝手に何やっちゃってくれるんですか神様。
とは言え、私の命を救うためにしてくれた事なんだもの。
文句を言えば、ばちが当たる。
「で、私の主となった大地の神様が私に用が有るんだね」
『あぁ、そのようだ』
仕方が無い。
面倒な事は先に済ませておこうか。