ごめんね
一体どこまでこの自然を直せたのか分からない。
まだダメージがどれほど残っているのか分からない。
ただ今は地道にやって行くしかないのだろう。
とは言え、あとどれほどの時間が残されているかすら分からないのだ。
仕方が無い。
私は現状を確認をするため、残された魔力を振り絞り、辺りが見渡せるほどの上空まで登った。
「良かった……」
見れば、人の立ち入らない山深い場所は、あまり崩壊が進んでいないようだ。
逆を返せば、人が手を付けた所ほど被害が酷かったようで、そのほとんどは私や皆がある程度修復し終わているようだ。
これならあと少し頑張れば、きっと緑の御方は助かるに違いない。
そして後の整備は人間達がゆっくりやって行けばいい。
「おっしゃーー!」
皆がこれ以上疲れない為にも、この私が残りを引き受けようじゃないか。
そう思い、油断し切っていたエレオノーラです。
「ようっし!そこ!!」
そう叫びながら、崩れた崖を、元の姿であっただろう山肌へと形作る。
「次っ、そこ!」
深い亀裂の入った所を、引っ張る要領でつなぎ合わせる。
「それからそこ!」
上から流れて出ていた大量の土砂を、広く平らに均す。
うん、なかなかいいじゃない。
そうだ、今均した所一面に小麦を植えよう。
きっと初夏になれば、見渡す限りの小麦が風になびき、とても素敵な景色になるだろう。
そしてそれを収穫すれば一石二鳥。
実用性も考えているエレオノーラですぅ。
ならばそこに続く道もつけなくちゃな、そう思った時、私の限界が来たようだ。
まず最初に考えた事。
あぁ、空がとっても青くて綺麗だ。
スピードを増し落ちていくのに、のんびりとそんな事を感じた。
まだまだやりたい事が有ったんだけどな。
あちらこちらに私の大好きなチューリップも植えたかったな。
そう言えば小麦もまだ手を付けていない。
私の我儘に突き合せちゃった皆は疲れているだろうな。
ごめんね。
私はまた眠る事になるのかな。
いや、落下している状態なら多分助からないだろう。
向こうでまたミシェルにこっぴどく怒られるだろうな。
絶交されたら嫌だな。
私がいなくなったら、悲しむ人は少なからずいると思う。
母様、父様、イカルス兄様、シルベスタ兄様、ごめんなさい。
私を助けてくれた人達みんなも。
それからこれを途中で投げ出す事になってしまってごめんなさい。
どうか私がいなくなっても、皆で力を合わせ、この地を素晴らしいものにして下さい。
そして私の心の中にずっと居て、それでも恥ずかしくて目を背け続けていたアレクシス様。
せっかく告白しようと決心したけれど、結局できなかったな……。
今となってはそれで良かったと思う。
どうかアレクシス様、今度こそは本当に好きな人と巡り会って、幸せになって下さい。
リンデンさん、ピーポちゃん、ハルちゃん、そして短い付き合いだったけれどサラちゃん。
わたしから解放されても私の事を忘れないでいてくれるかなぁ。
ありがとう。
感謝してもし切れないよ。
気が薄れかけ、落ちていくわずかな時間の間に、ありとあらゆる事が頭の中を駆け巡って行った。
今はまるであの天変地異が無かったようなこの地。
私の心には、人々の恨むような気持は何一つ伝わってこない。
皆この自然を蔑ろにしてしまったことを後悔し、元の姿を取り戻そうと必死になっている。
そんな心をねぎらうように、海は、空は、地は、光り輝き穏やかな風が吹き渡って行いった。
きっと緑の御方は助かったのだろう。
そうで無ければ世界はこんなに素晴らしい訳がない……。
『この愚か者が!』
ゴォッと風が吹き、気が付けば私はリンデンさんの掌の中でした。
『お主は何度同じ事を繰り返すのだ。もう少し周りの者の気を思いやったらどうだ!』
うん、確かにそうだね。
だけど後悔はしちゃった後に思う事なんだよ。
何かを夢中になってやっている時には気が付かないものなのだよ。
指一本動かせず、声の一言も発せない状態でも、反論だけは考えられるんだな。
わたし。
でもリンデンさん、あんただって人の事言えない状態でしょう?
とても飛んでいるとは言えない、ほとんど自由落下に近い状況で、私達はあの山の頂上に降り立った。
取り敢えず外傷は免れたけれど、このまま助かるようにはとても思えない。
しだいに暗闇に落ちていくような中で、私はかすかな声を聴いた。
”礼を言う人の子よ”
”後の事は私達に任せて下さい”
地の神、緑の御方、良かった、本当に良かった。
お礼を言うのは私の方だよ。
この世界を壊さないでくれてありがとう。
人間達を見捨てないでくれてありがとう。