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女上司は秘密を明かす



 年末が近づいてきて寒くなってきたある日の業務が終わる頃。俺は部下たちを飲みに誘った。



「山田、佐藤。お前ら今夜ちょっと飲みにいかないか?」

「珍しいっすね助川さんが誘うなんて。行けますよ」

「私も大丈夫です!」



 よし。言質は取ったぞ。



「よし。じゃあメンツはこの班の3人。俺と、山田、佐藤に加えて別所課長な」

「「はっ?」」



 いやいや冗談でしょう?と言う部下2名に本当だと返すもなかなか信じてもらえない。お前たちの中では苺はどういう扱いなんだ?



「めちゃくちゃ優秀な方ですけどすぐに帰るし、安全な助川さんとしか遊びに行かないプライベートが謎の上司ですかね」

「時々怖いけどすごく優しい課長さんで…山田先輩と被りますけど助川先輩以外は女性社員ともどこにも行かなくてプライベートが謎です」



 それは会社の外の苺を独占している男がいるからだよ。







 苺と再会して初めて来た居酒屋。ここに来たのは別所課長が就任した日以来だ。


 居酒屋が入っているビルの入り口で待機し苺を待つ。苺が結婚を近いうちにしたいって考えになってきたので今日の目的は会社の人がそれを知ったらどんな反応をするのか…もとい、仲のいい部下に紹介してびっくりさせてみようという会だ。

 


 しばらくするとまだ別所課長の顔をしている苺がやってきた。



「待たせたか?助川主任、山田くん、佐藤さん」

「いえ、数分程度でしたので誤差みたいなものですよ」



 俺の後ろからボソボソと『本当に課長来た!?』『混ざっていいんですかね私達!?』と声が聞こえる。驚け驚け、今のうちから驚くことに慣れておかないとこの後心臓が止まるぞ。


 面子が揃ったので店内へ、今回も案内されたのは6人個室の座敷。俺と苺が隣り合って、向かい側に山田と佐藤が座る。さて今日は隠す気はないので…情報を小出しにしてどこで気づくか見てみよう。



「じゃあ適当に注文して軽くだけ仕事の話したら後はプライベートの時間な。山田と佐藤はなんにする?酒以外なら奢るぞ。別所課長はどうします?」

「いつものでお願い、()()

「はい、マグロの煮つけですね」



 ピシッと音が鳴るように山田は固まって俺を見ているけど気にしない。

 佐藤の方は奢りに喜んでメニューを見てはしゃいでいる。これが2年目と新卒の差だ。


 一通り注文して軽く仕事の話。



「まず山田くんは周囲が良く見えているわね。どんな時でも慌てずに冷静に周囲を観察して考えられるのはいいことだわ。将来はそういう度胸のいる交渉役や気配りのできる接待役が向いているかもね。さっきも()()()()みたいだし」

「恐縮です。あのー課長?あれってやっぱり?」


「後で話すわ。今日の本題はそれだし。次に佐藤さんはまだ1年目で経験は不足しているけど上司との飲み会で委縮せずに楽しめるのは良い度胸しているわね。どんな職場でもムードメーカーとしてやっていけそうだわ」

「ありがとうございます!でもまだ助川先輩と山田先輩から学びたいのでこの班にいたいです!」

「ほんと上の人間に好かれるタイプよね佐藤さん…じゃあ真面目な話はこの辺にして後はプライベートよー。お酒頼んじゃいましょう」



 一区切りついたので追加注文でちょっと高い日本酒を頼む。

 それと山田は少し勘づいているので助け船を出してやる。



「無礼講だ。気になることがあったらなんでも聞いていいぞ」



 そう言うと聞くべきか悩んでいる山田…より先に佐藤が動いた。



「じゃあこの際聞いちゃうんですけど…助川先輩が井上主任を懲戒免職に追い込んだアレって本当に誤爆だったんですか?」


 それを聞かれるとは思っていなかった。


「懲戒免職は俺じゃなくて女性社員のタレコミがトドメな。切っ掛けになった誤爆のことならあれはまぎれもなくうっかりした誤爆だってのが公式発表だ。察しろ」

「あ、はい。 …ちなみにあの件で女性社員たちの間で助川先輩の株が上がっているの気づいてます?まだ結婚していないならワンチャンあるとか言ってる人もいました…け…ど…」


「へぇーー……」



 佐藤の声が消えていったのは実に簡単な理由だ。俺の隣から圧が凄い、たった一言の相槌がとても怖い。向かいに居る佐藤は震えていて山田は完全に察している。その山田がこの空気の中質問してきた。



「ところで助川さんの結婚を考えている恋人さんですけど…どこで出会われたんですか?」

「故郷の近所に住んでいた2歳下の女の子だよ。幼馴染みたいなものかな?」

「へー!?幼馴染だったんですか!」



 山田はびっくりして俺と苺を往復するように見てくる。

 佐藤は先ほどの怯えをケロリと忘れて目をキラキラさせながら聞いてる。まだ気づいていないようだ。



「え、じゃあ助川さんはずーっと恋人がいたのに1人遊びばかりしていたんですか?」

「いや、そのな…あまりにも彼女が優秀だったんでずっと釣り合わないと思っていて…付き合い始めたのも今年に入ってからで…」

「一念発起して助川先輩から告白してOKもらえたんですか!?」



 うわぁ…情けなくて言いたくねぇ…苺?ちょっと助け船…うわニヤニヤしながら見てくる。そうだな俺が悪かったから禊の意味も込めて言うか…



「…優秀な彼女の方から10数年ずーっとアタックされ続けて、挙句の果てに職場にまで乗り込まれて…こんなに愛されているならもう素直になろうって…」

「ああーそういう!彼女さんが職場に乗り込んできた日凄かったですよね。みんな注目してましたし」

「ええっ!?そんな面白イベントあったんですか!?私が有休使ってた日ですか!?」



 もういいかネタバラシだ。



「いや、その日は佐藤もいたし見てただろ?あの日に付き合い始めたんだよ」

「ありましたっけそんな事!?ええー…先輩、ヒントください。彼女さんどんな人ですか?」


「そうだな。助川主任から彼女がどんな人物か聞いてみたいな」

「そうですね。聞かせてください助川さん」



 佐藤の疑問にここぞとばかりに乗っかってくる苺と山田は楽しそうに俺を見てくる。楽しいだろうなお前らは…



「どんな人って…ああもう、こんな人だよ…」



 隣の苺の肩へ手を回して引き寄せる。

 笑う山田、固まる佐藤、慌てながらも仕方ないなぁと課長としての顔を捨て柔らかく微笑む苺。



「ほら佐藤、分かったか?俺の幼馴染で結婚を考えている…俺が愛している女性だ」

「えええええっ!?別所課長の事だったんですか!?わわっ、あんなに顔緩んで笑っている別所課長初めて見た!」



 あまりの反応の良さに俺と苺はふふっと笑ってしまった。



「佐藤さん。良かったら苺って下の名前で呼んでくれないかしら?」

「苺課長…いえ苺さん?」

「うん、プライベートではそう呼んでくれると嬉しいかな…遠くないうちに苗字は変わっちゃうだろうから」


 キャーっと盛り上がる女性陣。苺はもう佐藤相手でも素の笑顔で笑っていた。



「そんなわけだ。そのうち結婚するから山田もよろしくな」

「おかげで結婚式で驚かずにすみましたよ」


 教えてみたらどんな反応するかなと思ったけど2人ともいい反応をしてくれてよかった。苺も今の会社で素で話せる相手もできたし段々職場でもプライベートの話ができる相手も増えていくだろう。


 なんせ今までは退勤したら直行で俺のところへ来ていたし。少人数での飲み会は俺との関係を秘密にしていたから俺がボディガードのように参加する事も出来なかったので不参加だったし地味に孤立してたんだよな。プライベートは謎扱いだったし。


 山田と佐藤に教えても自然体でいられるし、もう結婚の意思も固めたから近いうちに職場でぶちまけちゃうかもなぁ。







 後日、会社の忘年会。

 まだ俺と苺の関係を公表していなかったため俺は苺の傍にいなかった。周囲は女性社員で固まっているみたいだし変にアタックしたり酔わせようとするやつはいないだろうと油断をしていた。油断しきって他の部署などに挨拶をしていると、社長に挨拶が終わったタイミングで俺を慌てて呼びに来たのが佐藤。



「助川先輩大変です!苺さんが酔っぱらって大変なことになっています!」



 なにがどう大変なのか慌てて苺の元へ行くとそこでみた光景は――



「あ、裕也ぁ!ほらみんな私の旦那様だよー!」

「助川主任!結婚を考えている彼女って最初から別所課長の事だったんですか!?」

「故郷の幼馴染で助川主任を追ってウチに来たって本当ですか!?」

「助川主任ずっと振ってたヘタレで結婚式までキスお預けのクソヘタレなんですか!?」



 地獄絵図だった。酔った苺は暴露し周囲もその場の空気や酔いでノリノリで俺を問い詰めてくる。………もうノるしか無い




「クソヘタレの助川主任です!今度別所課長と結婚するのでよろしくお願いしますっ!!」

「「「ヘタレよろしくーっ!!」」」


 この瞬間。俺は苺の隣にいることが女性社員たちに認められたのだった。あと淡い期待をしていた男性社員たちの心を折った。

 


 後日、俺のあだ名はヘタレ主任になったけど。代わりに苺はめっちゃ会社の女性社員たちと馴染んでいた。それは喜ばしいけどホットな話題が『ヘタレはちゃんと結婚式でファーストキスができるのか?』なのはやめて欲しい。


 まあ、堂々と結婚できるしいいか。



 俺は今、朝から晩まで一緒に苺と暮らしている。式はまだだけど籍は入れた。

 苺の用意してくれた朝ご飯を食べ、一緒に出社するために玄関へ行き。お互いに行ってきますのハグをする。



「式を挙げるまでキスは待つけど…挙げたら毎朝キスしようね!あなた♪」


 結婚した年下の女上司と一緒に家を出た。

読んでくださりありがとうございました!

今作は短編を作らずに、プロットから直で連載を作りました。そうしたら途中で苦戦すること苦戦すること…でも完結して良かったです(投稿開始時に6話までしか書けていなかった)


「年下の女上司が裏で甘えてくる!」だけから8話までよく膨らませたと思います。この調子でいつか長編を書けるようになりたいのでまた本作の経験を生かして連載はそのうちチャレンジするつもりです。


でも最近趣味丸出しの短編を書いていなかったのでしばらくはそういうのを書くと思います。見かけたらよろしくお願いしまーす! ではまたどこかでノシ

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