俺の女上司に何してんだ
「別所課長、良ければ今晩一緒に食事に行きませんか?」
「嫌です。二度と誘わないでください」
誘ったのは俺じゃない。主任の1人井上、一言で言えば30代前半のナンパ野郎だ。
社外に問題こそ出ていないものの女遊びが激しくて社内の男からは嫌われている。社内の女子からも半分以上嫌われているんじゃないだろうか。
苺がきちっと断っているのを見て少しだけ安心したが、あのナンパ野郎がまだ狙っているのではと考えるとムカムカしてくる。ちょっと嫌な予感がするので今日の合流は早めよう。
退社後。いつもなら現地集合なのだが今日は会社の入り口が見える場所で待機していた。
苺が出てきたのでさっさと合流することにする。
が、会社を出てすぐに後ろからナンパ野郎が苺に声をかけた。
距離があって何を話しているのかは分からないけどしっしと手で追い払っているのは分かった。
よし突撃だ。俺の嫁予定になにしてんだナンパ野郎が。
「おい井上。断られてんだからすぐ諦めろよ」
「さんを付けろ。俺の方が年上だぞ助川」
うっせぇバーカ。俺は今、虫の居所が悪いんだ。
「タチの悪いナンパ男なんて呼び捨てで十分だ。別所課長、今日は俺とデートでもしませんか?」
「よし。今日は助川主任とデートするか。じゃあな井上主任、二度と社外で声をかけてくるんじゃないぞ」
俺が誘えば苺は二つ返事だ。なんなら誘わなくたって九州から東京まで来る。あまりにもテンポよく、釣れなかった大きな魚が目の前で自分から釣られに行ったのを見て呆然としていたのかナンパ野郎は追ってこなかった。
今日の所は俺の家に泊めてしまおう。時々泊りに来ているから着替えもあるし。
念のために周囲を確認しながら帰ったがナンパ野郎はついてきていないようだった、だぶん。
家の中に入り、ふぅと気を抜く。さてもうひと仕事だ。
「災難だったな苺。今から報復してやるから見とけよ」
「報復って何をする気?」
『おい佐藤、今日井上のナンパ野郎が別所課長をナンパしていたのは覚えているな?あのあと別所課長が社外に出るのに合わせてまたしつこくナンパしていたんだよ。念のために様子を見ていた俺が助け出したからいいけどお前も困ったらすぐ俺に相談しろ。今日の所は別所課長の身の安全のために俺の家に泊めていく。俺が結婚を考えている例の彼女も一緒だから手を出すとかは無いぞ安心してくれ。嘘だと思ったら結婚式で追及してくれていいぞ。じゃあな、お前も井上には気を付けるんだぞ。それ以外でもなにかあったらすぐ相談してくれ』
「よし、これを会社のSNSから佐藤に送るフリをしてグループ全体に誤爆するぞ」
我が社には重要な話こそセキュリティ対策の関係でしないが。社員同士で交流するための緩いSNSグループがある。佐藤の個人アカウントに送るフリをして『優秀な課長を俺の家に泊めないといけないくらいの危険をナンパ男から感じました』と晒上げてやるのだ。
やりすぎかもと少しだけ思ったが仕事中に誘って1アウト、断られたのに退勤後に追いかけてきて2アウト、俺の苺に手を出したので3アウトだ。
「エグすぎない?あと偉い人に怒られそうな…」
「なーに、後でちょっと怒られるかもしれないけど苺を守れるなら安いもんだ」
「怒られそうだったら庇うからね?」
後日、俺は女社長から『送り先を間違えるとは社会人として何事だ』と叱られ。
一緒に呼び出されていた苺から『ご安心ください。彼は狙ってやりました』とフォローが入り。
女社長から『ならば良し!実に的確な潰し方だった』と豪胆に笑って褒められた。
少しだけやりすぎたかもと危惧していたのにどうして女社長はこんなに褒めてくれるんだろうか?
同日。ナンパ野郎の方はこの機に乗じて女性社員達から複数のタレコミが入り、懲戒免職になった。
懲戒免職って何やってたんだよあいつ…まあ、そんなヤバい奴相手に守れて本当に良かった。