女上司と青春のやり直し
今日は初めて苺が俺の部屋に遊びに来ていた。
1K風呂トイレ別ロフト付きアパートだ。いつ遊びに来てもいいようにこの1週間は特にしっかり掃除をしておいた。
「おじゃましまーす。わっ、凄い片付いている!」
「片付いている事に驚くってどういうことだよ」
「だって兄さん昔からよく散らかしていたじゃん」
うん、過去の俺が悪かった。
部屋の中できょろきょろとあたりを見回す苺は一度帰宅しておりラフな格好で遊びに来ている。
「ロフト見てもいい?」
「見てもいいけど寝床くらいしかないよ」
「ちょっと転がって匂いかぎたい」
「なんか恥ずかしいからやめろ」
えーっと不満そうにぶーたれる苺はちょっと真面目な話があるんだけどと切り出した。
「ねえ兄さん。私は兄さんがずーっと好きだったの。誰かさんは自己評価低くて私を振ってたけど」
「それに関してはもう残りの人生全部やるから許してくれ」
「穴埋めはそれだけじゃ足りないのよ。あのね?甘酸っぱくイチャイチャしたいの!」
それは結婚とはどう違うんだ?苺は不満気に話を続ける。
「小学校の時、私は兄さんと手を繋ぐだけでドキドキしていた。中学になってもう手を繋いでくれなくて凄く悲しかった」
「触れ合いが欲しいってことか?」
「違います。ドキドキするような触れ合いをしたいって言っているの。ねえ兄さん?私が振られていた間に消えた青春を返して?あるでしょ?私に本当はしたかったこととか…」
「青春なぁ…昔、内心苺にしたかったこと…」
苺が優秀で昔の俺は自分が釣り合うわけなんてないとコンプレックスを抱えていた。
だから苺に告白されてもずっと振っていたけど…もし、本当に付き合えるならと当時どんな想像をしていたっけ?小学校高学年から25歳までずーっと告白し続けてくれた苺にしたかったこと…
部屋の中に立つ苺の顔、ほっぺたを両手で軽くつまむ。びくっと震える苺。
俺は手をむーに、むーに。優しく動かして癒される。そして俺の手はぺしっと払われる。
「で?今のはいつ頃やりたいと思っていたこと?」
「中学の時にギリギリ小学生だった苺にしたかった」
「もう少し上の年齢でしたかったことを思い出してくれる?」
まったくもう、とちょっと顔を赤らめてしまった。
もう少し上…俺が高校生で苺が中学生だった頃に付き合えたらしたかったこと…
めちゃくちゃコンプレックスが強くなっていた時期で押し倒したいとか思ってたのは墓場まで持っていこう。
俺が大学生で高校生の苺にしたかったこと…
「…苺。キスしてもいいか?」
「う、うん!? い、いいけど…」
苺に近寄り、唇をだんだん顔へ近づけていく。
苺の右頬にキス。
「ひゃっ」
「苺は凄い」
なるべく優しく声をかけながら左の頬へキス。
「いつも頑張っていて偉い」
「う、うん?」
最後におでこにキス。
「きっと才能もあるけど、頑張り屋の苺が俺は好きだよ」
「う、ぁ…ねぇ、なんか滅茶苦茶恥ずかしかったんだけどこれ何?」
「高校の時に作文で総理大臣賞取ったことがあったろ?あの時はおめでとうしか言えなかったけどもし付き合えていたらこうしたかったんだ」
「口にキスされるって覚悟してたら不意打ちでとても良かったよ兄さん。恥ずかしかったけどすごく良かった。こういうのあったらどんどんやってこう!」
ポニーテールを揺らしながら上機嫌の苺と墓場まで持っていきたい物以外色々とした。
一つやるごとにだんだん当時の記憶が蘇り、やるネタは尽きなかった。
俺たちがずっとお互いに、どれだけ好きだったのかよく実感できて幸せだった。