主砲発射!
「ふぅ……ごちそうさまでした、久し振りにお腹いっぱい食べちゃいました……。でも良かったんですかね? あんなに頂いちゃって……」
「いーのいーの、たまにしか来ないお客さんだからね、なに? ミナちゃんここの料理が気に入った? 良かったらこのままこの艦に乗って一緒に行く?」
「いやいや、そんな……って書状! 私書状を届けに来たのに! 艦長さんはまだ起きてないんですかね?? 長官に急ぎだって言われてたのにいいぃ!」
取り乱すミナの様子にステラの顔に疑問符が浮かぶ。
「ってか、この通信技術が発展した時代に何で書状? 大戦時代じゃあるまいし……」
「長官曰く『通信繋いでもすぐ切られるし何言ってるか分からなくて怖い』って……それでアトラス総司令からの案で書状にしたらしいんです……」
ミナが鞄から束ねられた金属プレートを差し出す、封が成され内容は定かでは無いが、その光沢からただの金属では無いことが伺える。
「書状って割には金属製ね……まあ、何でかは予想はつくけど」
「簡単に破けないようにって事らしいんですが……ここだけの話、これ、神性金属で出来てるらしいです」
「んなっ!? 宇宙一丈夫な金属ってあれ!? この厚みがあれば一生遊んで暮らせるわよ……。ねぇ? ミナちゃん、ものは相談なんだけど……」
「……っ!! 嫌ですよ私! こんな若い身空でお尋ね者なんかなりたくないです!」
あからさまな猫なで声を出すステラにミナが吼える。当然である、軍の超重要機密書類、しかも総司令直々の機密文書を持ち逃げなど命がいくつあっても足りないに決まっている。
「……ッチ……やだなぁ冗談よ冗談、さて、お腹も一杯になったとこで艦橋に戻りますか」
「……今舌打ちしませんでした? ……そうですね、艦長さん目を覚まされていればいいんですが……」
艦内を早足に歩き再び艦橋の扉の前に立つミナとステラ、大きく深呼吸をし開閉スイッチを起動したミナが中から響いた怒声にその場にへなへなとへたり込む。
「だ~か~ら撃たせろっつってんだ!!」
「はい、畏まりました、タウロス艦長」
「だからリサさん渡しちゃ駄目だってば!!」
艦橋の様子は先程の再生を見ているかのよう、ただ一つ違うことはタウロスが鎖で球体になるほどにぐるぐる巻きにされているところであろうか? まるで達磨のような状態のタウロスを見下ろし、ステラが再度盛大な溜息をつく。
「ま~だ頭冷えてないの? いい加減毎回毎回主砲撃たせろって騒ぐのやめてよね、主砲のクールタイムに敵に襲われたらどーすんのよ?」
「そりゃそん時考えりゃいいだろうがよ! とにかく俺ぁ今主砲が撃ちたいの! 邪魔すんなら……!!」
タウロスが顔を真っ赤にして全身に力を込める、ざわめく艦員達の前でミシミシメキメキと金属の軋む音が響いたと思いきや幾重にもタウロスを縛っていた鎖が四方八方へ弾け飛ぶ。
「ガハハハハハ! よっし、リサ! スイッチをよこせ!」
「畏まりました、タウロス艦長」
「よ~し、えっと……あれだ……なんだ……ま、マルゲリータ式超新宿オフサイドキャノン! 発射!!」
「名前全然違……!」
思わず口をついて出たミナの突っ込みを掻き消すように艦内に衝撃波が走り抜け、前方にあった惑星群を丸ごと消し飛ばし、巨大なレーザーが闇を焦がし遙か彼方まで放射される。
想像を遥かに上回る主砲の威力に完全に腰が抜けたミナが無意識にズリズリと後退る中、ミナの存在に気付いたタウロスが髭を弄りつつミナの顔を覗き込む。
「ふぅ……スッキリしたぁ~!! ……? ってかこのガキは誰だ? こんな奴艦に居たか?」
「そちらは技術開発局からいらっしゃったミナ・トードー様です、タウロス艦長に書状を届けにいらっしゃったらしいです」
リサの説明を聞いたタウロスが血走ったギョロリとした目でミナの顔を再度覗き込む、その迫力に圧され座り込んだまま尚も後退るミナを追い、タウロスがドシドシと大股に距離を詰めてゆく。
「書状っつったな? 一体誰からだ?」
「ひっ……ひゃ……ひゃい、こちらになります……こちらがアトラス総司令からの書状になります、必ず目を通すようにとの言伝で……」
「なぁにぃ?? アトちゃんからだぁ?」
ミナから金属プレートの束を受け取ったタウロスがアトラスの名が出た途端に表情を歪め、プレートの束を持つ手を震わせる。
「こんなもんよこしやがって! 誰が読むか馬鹿野郎!」
「でっ……ですが目を通して頂かないと! 最悪軍法会議ものに……!」
「軍法会議でも漢方薬局でも何でも来いやぁ! 話がしたけりゃ自分で来いっつーんだよ!!」
タウロスが金属プレートをぐしゃぐしゃと丸め床に叩き付け、ピンポン球程の大きさになった書状が深々と床にめり込む、慌てたステラが床に爪を立てるが、自己修復ナノマシンにより修復される床に金属球がそのままズブズブと呑み込まれてゆく……。
「んなっ!? え……? おっ……神性金属で出来た……ふぇ? へ? ふえええぇぇ!?」
目の前で起きた信じられない事象から逃げるように後退るミナの背がカツンと音を立て壁に当たる、それを追い詰めるかのように覗き込むタウロスの表情は逆光で見えないが、肩から陽炎のような物が立ち上り怒りに燃えているのがよく分かる。
「いいかぁ! アトちゃんに伝えとけ! てめぇが直接来て謝るまで俺はぜってぇ話はしねぇからなってな! 以上!」
「はっ! はひいぃいい!!」
間近に感じるタウロスの迫力に涙目のミナが壁にめり込みそうなほどに仰け反る。言うだけ言って気が済んだのかくるりと背を向けたタウロスを見、自らの尻の下に広がる生暖かい感覚を感じながらミナの意識は闇に落ちていった。