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主砲が撃ちたい

 瞬く星々が浮かぶ宇宙の中に人類が資源を求め進出して幾星霜、人類の持つ業の深さか……いや、生物の持つ本能がそれを求めるのか……他星系に存在した知的生命体達と人類は資源を巡り醜い争いを繰り広げていた……。

 当初圧倒的な科学力の差により劣勢を強いられ、資源採掘どころか母星の安全さえ危ぶまれていた人類だが、敵性知的生命体から鹵獲した戦闘艦からもたらされた技術革新、それにより製造された新型宇宙戦艦イカロス。これにより人類はようやく反撃の狼煙を上げる事となる。

 大いなる力は神の福音か悪魔の囁きか……人類の命運はこの広大な宇宙の中で、たった一隻の戦艦に託されたのである。

 ……尚、イカロスを駆る当の本人達にその自覚は無い、確実に無い。



「あのぅ……申し訳ありません、私地球連邦技術開発局所属のミナ・トードーと申します、こちらの艦長さんにお目通り願えますでしょうか?」


 発着ドックから館内への入口の守衛に向け、眼鏡とポニーテールが印象的な小柄な女性が深々と頭を下げている。守衛の男は帽子を脱ぎ豊かな金髪を掻き毟り、渡された身分証を眺めミナと見比べると、スックと立ち上がり敬礼をして人懐っこい笑顔でニカッと笑った。


「いらっしゃい、遠いとこからわざわざお疲れ様! 俺はトーマス、トムでいいよ! ワープ酔いとかはしてない? いや~、こんな可愛い子が来るならいつでも大歓迎! どう? 今度一緒に食事でも……」


「はへっ!? あ……いや……その……」


 しどろもどろになるミナに詰め寄るトーマス、ぐいぐい迫るトーマスの圧力にミナが目を回しそうになる中、トーマスの頭上に端末機の角が振り下ろされる。

 頭を押さえ蹲ったトーマスの背後から、今し方振り下ろされた端末で肩を叩きながら不機嫌そうな表情の女性が姿を現した。燃え盛るような印象のウェーブのかかった赤い髪、強い光の宿った瞳に厚めの唇、一瞬呆気にとられたミナが女性と自分のプロポーションを見比べ、ささやかな自らの胸に手を当てて謎の敗北感に打ちのめされて表情を暗く沈ませる……。


「こ~ら、その女の子と見ると片っ端から口説くのやめなさい、ってかまだ子供じゃない、なに? そこまで見境無くなったの?」


「ってーな! なにすんだよステラ! 馬鹿になっちまったらどーすんだ! それに彼女は立派に成人してるよ! ほれ身分証!」


「心配しないでもそれ以上馬鹿にはならないわよ、あら……本当に成人してるのね、ごめんなさい気を悪くしないでね、でも、アジアの人は童顔だって言うけど本当なのねぇ、羨ましいわぁ……」


 緊張からか混乱からか、目を回しそうになっているミナの頬を艶めかしい手付きでステラが撫でる、背筋を奔る冷気とも電撃とも似た感覚を受けミナの肩が思わず跳ね上がった。


「ステラ、お前も見境無くちょっかいかけるのやめろよ? んで、ミナちゃんはうちに何の御用で?」


「あ……は、はい! 軍最高司令アトラス将軍からこちらの艦長タウロス様に書状を預かって参りました! ですので艦長にお目通り願いたいのですがよろしいでしょうか!」


 ミナの言葉を受けてトーマスとステラが顔を見合わせ溜息をつく、その溜息の真意が分からず、ミナが二人の様子を伺い身動きが取れなくなる。


「う~ん……まあしゃーないわな、ステラ、艦橋にミナちゃんを案内したげて、あっ……あとミナちゃん、ミナちゃんのふねだけど今整備とかでドック一杯だから外に繋ぐことになるけどいいかな?」


「あっ! だ、大丈夫ですっ! よろしくお願いします!」


「さ、じゃあミナちゃんの艦はあいつに任せて艦長の所に行きましょうか」


 ステラの案内でミナは艦内を進んでゆく、事前に辞令を受けた際に都市伝説じみた脅しの上で上司に遺書まで書かされたが、艦内は清掃が行き届いており艦員の人当たりも(今の所は)いい。逆に警戒しすぎていた自分を恥じる程に順調な任務に、ミナは若干拍子抜けしていた。


(行った人間が戻って来ないとか、恐ろしい怪物が潜んでいるとか脅されたけど、むしろ本部より綺麗だしなんか美味しそうな匂いがするし……きっとからかわれたんだろうな……)


「さ、ここが艦橋ブリッジよ、艦長は今の時間ここにいるはず……」


 ステラが指し示す大きな扉を見てミナがカチコチに固まり背筋をピンと伸ばす。だが、ステラがいぶかしげに見つめるドアの先では何か揉めているのだろうか? ドタバタと走り回るような音と共に怒鳴り声が飛び交っている。


「入るわよ~? 艦長お客さ……はぁ……、どうしたのよ、また発作?」


「ステラ! 丁度いいとこに来た! ちょっと手伝ってくれ!」


 ミナがステラの肩越しに覗く艦橋では、艦長帽を被った壮年の男性を屈強な艦員達が五人がかりで押さえつけている最中さなか。ミナが何事かと目を白黒させる前で、押さえつけられている男性が大きく息を吸い込むと全身に力を込め、四肢を抑える屈強な男達を纏めて宙に跳ね上げた。


「だ~か~らぁ! 撃たせろっつってんだろーが!!」


「はぁ……艦長またダダ捏ねてんの? ちょっとは落ち着いてよ」


 溜息をつきつつ近付くステラに艦長と呼ばれた男性が詰め寄る。


「なんだぁ!? ステラ! おめぇも俺にあ~、あれだ、その、あの……」


「タウロス艦長、マルグリッド誘導式超電磁ジェノサイドキャノン、発射準備完了です」


「そう! それだ! あのヴァーッってなってビカビカってなってドーン!! ってなるやつ! あれ撃たせろっつってんだよ! なぁ! 全くどいつもこいつも分かってねぇ! リサ! おめぇはその点よく分かってやがるなぁ! ガハハハハ!」


 リサと呼ばれた秘書らしき金髪の女性がタウロスにうやうやしく礼をし、黒と黄色の縞々模様が縁取りされたスイッチを手渡す。タウロスが上機嫌にそれを受け取り、意気揚々とスイッチを押そうとした瞬間、風切り音を立てる端末の角がタウロスの頭部に深々とめり込んだ。


「だから撃つなっつってんだろボケ老人!! リサも簡単に艦長の言うこと聞かない! 誰か手当てしてやって! 鎖で縛るの忘れないようにね!」


「私は艦長の望みを叶える為にここに居ます、ステラの願いは私の行動理念に合致しません。……? ステラ、そちらのお子さんは? 迷子ですか?」


「い……いや、私は技術開発局の者でして……今日はそちらの艦長さんにお話が……」


 リサがその美しい長い髪をかき上げながらミナの顔を覗き込む、子供扱いされるのは非常に不本意、だが、そのプロポーションと自らのささやかな体の起伏を見比べるとぐうの音も出ない……またも打ちのめされたミナが何とか言葉を絞り出し用件を告げる。

 が、当の艦長は先程のステラの一撃で頭から血を噴き出しながら伸びている。伸びている艦長と助けを媚うようなミナの視線を見比べ、ステラがやってしまったとばかりに頭を掻いた。


「ま、まあ、艦長はお昼寝するみたいだからさ! その間ちょっと艦内の案内しようか! ね、そうしましょ! リサ、艦長が目を覚ましたら連絡して!」


 ステラに促され艦橋を後にするミナ、閉まるドアの隙間から流れ出す血溜まりに、果たして命ある艦長と面会できるのか? と、ミナの心を不安が満たしていた……。

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