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狙われる理由

「そうか……あいつらは今そんな所に居るのか……」


 広々とした執務室、古い資料と端末に埋もれた机から顔を上げ、アトラスが椅子に深く身を沈め天を仰いで眉間を押さえる。

 その様子を窺いつつ資料をめくり、秘書らしき女性は報告を続けた。


「報告によると予想された航路から逸脱はしているもののまだギリギリ観測の範囲内だと……」


「ふぅ……そうは言えども距離が距離だ、次の瞬間に消えてしまっていてもおかしくはない」


「ワープ通信でもあの距離だと数日は掛かってしまいますからねぇ、まぁ、報告ですとワープ機構に渡すエネルギーを主砲に繋いでいる様なので通常航行のみなのが助かる所ですね」


「なぁ、サリー、やはり私が直接出向いてだな……」


 アトラスが表情を窺うように口を開く、が、サリーはアトラスをジト目で睨み大きなため息をつく。


「軍の総司令官が現場を離れてウロウロしていては駄目ですよ、それに総司令はただタウロス准将と仲直りしたいだけでしょ? 書状も言付けましたし怒りが冷めるのを待ちましょうよ」


「お前はなんにも分かってない!! あいつはへそ曲げたらいつまでも根に持つんだよ! 早い内に仲直りしときたいの! 制御不能のまま宇宙をふらふらされる私の身になってみろ!」


「まぁ、今まで惑星間外交問題に発展してないのがおかしいくらいですからね……あ、あと、猫族の母星を消し飛ばしたと報告にありましたので地球の猫族にはくれぐれも気取られないようにと……」


「早速ヤバいことになってるんじゃないか……」


 頭を抱え再度机に突っ伏するアトラス……表情は見えずとも膨大な情報を脳内で高速処理しているのが頭から上がる煙に見て取れる。


「あと、別件で『宇宙連盟』なる組織から脅迫が」


「……あれか……。全く……一体何故こんな辺境の後進惑星に固執してくるのか……。資源争いというにはしつこすぎる上に理不尽だ、現に我々は輸送面の問題から太陽系圏外ではほぼ採掘や調査が行えていない、まさか犬や猫のように『ちゅーる』を求めてとか言わないだろうな?」


「それが目的なら製法を奪うなり手がある筈です、何か先方の気に障る事象があったんでしょう」


「それを伏せた上で『我々に従え』『宇宙進出をやめろ』はなんとも理不尽な話だ、人類の知的探究心を抑える方法などありはしない。……特に、あいつらみたいな傍若無人な奴等にはな」




……




「『宇宙連盟』? 何ですか? それ」


 畑の水路横の芝生に腰掛け、お弁当のおにぎりを頬張りながらミナが尋ねる。


「ご存じない? あ~、そういえば地球の皆様が宇宙進出なさるはるか前ですからなぁ、結成したのは」


 ミナの横で背中を掻いて貰いながら気持ちよさそうにしていたパグが意外そうにミナを見上げ、そういえばといった風にかぶりを振る。


「私も初耳だわ、一体どういう組織なの? それ」


 ハスキーを枕に昼寝して居たように見えたステラが興味深そうに上体を起こす、と、一瞬の隙をついて開放されたハスキーが一目散に畑へと逃げてゆく。


「まぁ、この団体の設立には諸説ありましてな、同時期に宇宙進出を果たした星同士の争いから和平を経て設立された。また別の話では、宇宙征服を目論む集団が暗躍し気が付けば星間を跨ぐ巨大組織に。または惑星間の商業を支配していた巨大商業ギルドのなれの果てなんという話もあります……。まぁ、設立が何百万年、何千万年も前になりますので今となっては正しい情報が分からぬのです」


「それで、何で私達がそんな組織に狙われているんです?」


「まず、地球が連盟への非加盟惑星であること、そして連盟による支配を拒否した事が原因にあるでしょうな」


「何で非加盟なのかしら? 加盟のリスクとかそういうのが何かあるの?」


「まず第一には税の高さ、特にこれに関しては星外開発の進んでいない地球は厳しいものがあったでしょうな、言ってみれば地球の資源を根こそぎよこせと言われているようなものです、いきなりそのような要求を突き付けられて首を縦に振る者はおりますまい」


「またえらく欲の皮が突っ張った集団も居たもんね……」


 溜息をつくステラを見てパグが眉間に皺を寄せ苦笑する。


「まぁ、仕方ないと言えば仕方ないのです、基準自体が数千万年も前に惑星間交流を果たした者達の定めた基準、資源となると惑星単位で取引されるのが常ですからな」


「豪気な話ですねぇ、あとは、支配というのは?」


「ここ数万年で定められた法らしいのですが、税の払えぬ惑星に置いては連盟で実効支配する事により分割で税を納めさせる、というやり方ですな。新法といえどもなんとも旧態依然とした決まり事です」


「それで地球のお偉方は怒ってそれを突っぱねた……と?」


「左様でございますな、幸いというかなんというか、地球の存在にいち早く気付いていた我々は既に移住を果たしており、秘密裏に技術開発に協力することで今日まで抵抗を続けることが出来ております」


「そんなことして大丈夫なんです? 何かペナルティとかは……」


「あやつらに支配されたら何を取引するにもとんでもない税がかかりますからな……ちゅーるを安定供給するためには致し方ないことです」


「ちゅーる……」


 ちゅーるによりかろうじて守られている地球の命運、なんとも呆れた話だがパグの瞳は真剣である。


「とりあえず敵が何なのかは分かりましたけど、母星が攻撃受けてないのに私達が狙われ続けてるのはどうも納得がいかないですね……」


「宇宙全体で見ても連盟に従う者ばかりではございませんからな、その連盟に対し正面切って突っぱねた地球には水面下で好意的に協力している者も割と居るのですよ」


「犬族もその一つって訳ね……ってかそんな大変な事になってんのにウチの艦長は暢気なものよね、あっちにフラフラこっちにフラフラ、気の向くままに遊んでるだけだし」


「おや? この艦は何か地球から密命を受けての旅をしておるのではないのですかな? 最新鋭の宇宙有数の力を持つ艦を遊ばせておく事はありますまい?」


「そういうのだと燃えるんですけどね~、生憎私は艦を返せって伝令係でここに来たんですよ」


「あの艦長が大人しくそういう事聞くタマじゃないしね~、ってか元々この艦は月面基地襲撃して強奪したのだし」


「あっ、そこ認めちゃうんです?」


「艦長は『貰った』って言い張ってるけどね……まぁ、本気で取り戻す気なら艦隊派遣して取り戻してるでしょ?」


「容赦なく主砲で薙ぎ払う画しか見えないんですが……」


 眉間を押さえて天を仰ぐミナがふと考え込んだ表情のパグに気付く。


「? どうされました?」


「……? あぁ、少々考え事を、ですが、贅沢なものですな……軍の最新鋭の戦艦を宇宙旅行に使うとは……。まぁ、成り行きとはいえ同乗している我々もそうですか」


「でも何時まであちこちうろうろする気なんですかね? 艦長の目的って一体何なんでしょ?」


「さぁ? 案外アトラス司令を困らせたくてわざと逃げてるとかね?」


「あははははは、そんなこと流石に……いや……ありうる……」


 思えばアトラスとタウロスは旧知の仲、そういった馴れ合いもありえる……? ミナが真剣な顔で考え込む中突如室内に警報が鳴り響き、遅れて衝撃波が突き抜けてゆく。


「あ~っ! また撃った! ……放送が無いってことは敵じゃあないか……戻って早く整備しないと……」


「もうちょっとゆっくりしてけば~?」


「ゆっくりしたいのはやまやまですが最近ピーターさん怖いんですよ! サボるばっかりしてたら怒られちゃう!」


 慌てて部屋を出て行くミナを見送り、ステラが大きく伸びをして芝生に寝転がる、寝息を立て始めたステラを見やりパグが窓の外を流れてゆく星の欠片を見やり、一つ溜息をついてその場に丸くなった。

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