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主砲の弱点、互いの弱点

「っ! ちっくしょうめぇ!!」


 ミナ、スティーブ、ステラの三人が勢い良く艦橋に飛び込むと同時に、凄まじい怒声が耳をつんざきその場から動けなくなる。

 

「うぇっ? なんで艦長そんなに不機嫌なんです?」


「さっき撃ったってことは相手さん撃沈したんだろ? さっさとサルベージしようぜ! ってか、まさか手違いで丸ごと吹き飛ばしたとかじゃねーよな?」


「嘘でしょ!? 貴重な食糧が……! ってか正面に居るあの真っ黒いのは何?」


 ステラの言葉に目を凝らしてみると、確かに漆黒の宇宙空間の中にぽっかりと穴が開いたかのような不気味な影が見える。戦艦の形をしたその影はこちらの様子を窺うように不気味に佇んでいる……。


「あれが今回の敵艦です、命中はしたはずですが……何かの方法で回避したかそれとも……」


 問いに対するリサの返事も歯切れが悪い、まさかイカロスの主砲を受けて平穏無事に済む戦艦などあろうはずは……。


『@##&∵∀&&&∵∵@≡』


「敵艦から通信、翻訳します『憎きイカロスの乗員諸君……我等が開発したビーム吸収反射装甲はいかがかな?』」


『@≡≡#∀&∵@#∀∀∀』


「『……投降するなら悪いようにはしない……すぐに武装解除をして艦を受け渡したまえ』だそうです」


「まっ……まさか主砲が通じないんですか? そんなのどうやって倒したら……!」


「でも威嚇でもなんでも攻撃してこないのは気にかかるわね? 何かねらいがあるのかしら?」


「この艦の主砲が目的かもな、あっちからしてみても手に入るものなら喉から手が出るほど欲しいだろ」


 スティーブの言葉も尤も、この広い宇宙において、イカロスの主砲は非常にイレギュラーな存在となっている、


「通信の際のノイズの解析完了『火災発生……火が消えない』『弾薬庫……危険』『神様……神様……』」


「……まぁ、あのビームに長時間晒されたら熱だけでもそうなるわな」


 皆が一様に頷くが、ミナがあることに気付き真っ青な顔で悲鳴を上げる。


「あああぁぁぁぁぁあ! ってか中身燃えちゃったら食糧調達できないじゃないですか!」


「やっば! でもどうすんのよ! 相手が反撃してこないでも燃えてる艦からどうやって食糧回収するの!?」


「あ゛~っ! くっそ! 艦長! どうする!? ……? 艦長? っ! あのおっさん何処行った!?」


「艦長ならあちらですね」


 リサが宇宙空間の一点を指差す、言われて目を凝らして見てみれば敵艦に向かい進む一機の作業用ポッドが……。


「はっ? 作業用ポッドで……戦艦に……?」


「はあああぁぁぁあ……何考えてんだあのおっさん……」


「あんなのレーザーどころか実包が一発掠っただけで御陀仏よ……流石に今回は……」


「大丈夫です、そうならぬ為に私が居ます、艦長、相手が気付きました、衝撃と振動に供えて下さい」


 いつもの様に壁の配管の中に身を沈めたリサが力強く呼びかける、が……。


『グルルルル……メシ……メシ……グッ……グッ……グルルオアアァァァァア!!』


「……完っ全に正気失ってるわね」


「あんな状態で本当に大丈夫か?」


「まぁ……多分大丈夫ですよ、艦長は普段から正気と言える精神状態じゃないですから……きっと誤差の範囲内です」


「……ミナ、お前たまにほんっとひっどいな……」


 接近するタウロスの作業ポッドに気付いた敵艦の砲撃、雨の如く降り注ぐそれをリサの操る銃砲がことごとく撃ち落とす、シャッターを開いた砲台から順に潰され、気が付いた時にはタウロスの駆る作業ポッドは悠々と敵艦の背に降り立っていた。


「おぉっ! リサさん凄い! 相手の艦砲ほぼ無力化しましたよ!」


「ってか艦長無茶しやがんなぁ……おっ……作業用ポッドで……あれ装甲剥がしてるのか?」


「映像を拡大表示しますね」


 拡大された映像には作業用ポッドが様々な工具の付いた腕を伸ばし、敵艦の解体に取り掛かっている様子が映し出される、多腕を駆使し四苦八苦しながら装甲の継ぎ目を剥がそうとしているのが細部までよく見て取れる。


「ドリルで削って……溶断して……ってか艦長割とこういうの器用に使うよな」


「繊細さとは無縁な感じですけど……あっ、そういや箸は器用に使いますよね」


「あれの扱いを食器と同列に扱うのはどうかと思うけどね……八腕同時操作とか、中で一体何やってんのよ……」


 作業用ポッドから出た八本の腕が器用に装甲の継ぎ目を見つけて解体を進めていく……が、順調に作業を進めていたその手が止まり、ハッチを開けてタウロスが作業用ポッドの外に現れる。


「? 艦長外に出てきたぞ? 故障でもしたのか?」


「いや、ポッドの反応からは故障のアラームは検出されていません、燃料も特に問題ないですね」


 顔を見合わせる皆が再びモニターに目を移すと同時に絶句する、おもむろに作業ポッドの横にしゃがんだタウロスが、先程出来た隙間に指を突っ込み一息に力任せに戦艦の装甲を引き剥がす。


「はっ!? え? っはあぁ!?」


「流石ですね艦長、作業ポッドでは力不足だから実力行使に出るとは……」


「いやっ? へっ? 戦艦の装甲ですよ!? お菓子のパッケージ剥がすのとは訳が違いますって!!」


 ミナの言葉は至極もっとも、だがタウロスに限っては常識などあって無いような物である、次から次へと魚の鱗でも剥がすかのように装甲が剥がされ、空いた穴から空気が、資材が、乗員が、宇宙空間へと吸い出されてゆく……。


「あ~……うん、ご愁傷様としか言い様がないな……」


「うわぁ……宇宙空間に投げ出されたら生き物ってこんな風に死ぬんですね……うっぷ……」


「とりあえず映像確認して目的の物が放り出されてないか確認しなきゃ……」


「あの様子ですと内部は鎮火済みで抵抗もできないでしょう、接舷して物資の回収をしましょうか」


 敵艦に向かい警戒を解かず、イカロスがゆっくりゆっくりと近づいてゆく、時折飛んでくる剥がれた装甲や何かのコンテナ等を回収しつつ、抵抗もないままに艦を繋ぐ。


「さて、後は艦長と食糧を回収して脱出しますか」


「中に入るのちょっと怖いんですけど……何も起きませんよね?」


「とりあえず内部の生体反応は一つだけです、危険は無いとは思いますが気を付けて下さい」


「その一つの生体反応が一番危険で怖いんだがな……」


 生命の反応の無くなった艦内を食糧を探して連絡を取り合い探索するメンバー。内部の隔壁も外装がほぼ剥がされていては無意味であったのだろう、火災の跡だけを残した無人の艦内を探索する事1時間、難なく食糧庫を探し当て目的を達成することが出来た。


『あ~、こちらスティーブ、食糧庫発見、さっさと頂いてこっから出ようぜ』


『どこらへんの区画? あ~、第三区画ね、すぐ向かうわ』


『了解です! すぐに向かい……うわっ! きゃあっ! バキィン! ガゴッ!!』


『ミナ、どうしましたか? 無事ですか?』


『うわぁ……どうしよ……あっ、だっ、大丈夫です! ちょ……そう! ちょっと躓いただけです!』


『あちこち障害物だらけで危ないから気を付けろよ? それに艦長が艦内をウロウロしてんだ、虎の巣に居るみたいなもんだからな?』


『あ~、艦長、艦長が……うん、気を付けてそっちに向かいます!』


 敵艦の残骸から食糧と資材を回収し、イカロスはまた当て所ない宇宙の旅を続ける……。尚、食糧資材の回収後に艦内で後頭部を骨折して気を失った艦長をリサが発見、心配されていた抵抗もなくスムーズに回収を行うことが出来た。

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