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神はうどんをつくりたもうた

「毎日毎日よく飽きないわね~」


 呆れたようにステラが見下ろす先にはうどんを啜るミナの姿、イカロスに乗ってからこちら、ミナがうどんを食べない日は無い。


「別にいいじゃないですか! お米だってパンだって毎日皆さん食べてるでしょ? うどんだって主食です! 問題ないでしょ?」


「だって……こないだ珍しくハンバーガー食べてるって思ったら……」


「うどんバーガーですね、うどんのかき揚げが挟んである香川の津田の松原サービスエリア発祥の二百年以上の歴史がある伝統のバーガーです!」


「炒飯食べてるって思ってみたら……」


「ぴっぴ飯ですよ? 刻んだうどんやタクアンをご飯に混ぜて炒めた郷土料理です!」


「こないだ貰ったカレーパン……」


「ノンノン! カレーうどんパンです! 二百年以上の歴史あるパン屋さんが開発した偉大な……」


 目を輝かせ説明するミナと対照的にステラが頭を抱え机に臥せる、理解したい、理解したいのだが頭がそれを拒否している……。なぜ、何故それ程までにうどんを加えたがるのか……国民性? 地域性? それともミナだから? 考えれば考えるほど理解から遠のきステラの頭から煙が立ち上る。


「あっ……でも今日は何か別の物も食べてんのね、えっと……フライドポテトかしら?」


「『揚げぴっぴ』です! うどんを揚げて塩や砂糖をかけたお菓子ですね、美味しいですよ?」


 ステラが頭を抱え、机に突っ伏す後ろで食事を受け取ったスティーブがミナの食事を覗き溜息をつく。


「相変わらずよく分からん食生活してんな~、そこら辺にしとけよ、ステラの脳がパンクしちまう」


 朗らかに揚げぴっぴを頬張るミナの頭を配膳用のトレイで軽く叩き、スティーブが隣の席に着席する。

 わざとらしく頭をさすりながら不機嫌そうに見上げるミナが、スティーブのトレイを眺めお返しとばかりに大きな溜息をついた。


「人のこととやかく言う前に自分の朝食もおかしいって気付きましょうよ! 先輩!」


「ん? 別におかしいとこなんかねーだろ?」


「おかしいもおかしくないも何ですかそのキラキラしたクリーム山盛りのパンケーキは! チョコソースにメープルシロップ滝みたいにかけて……よく起き抜けにそんな物食べれますね!」


「別に甘いもん好きなんだからいーだろが! それにメープルシロップだけじゃないぞ? 蜂蜜もかけてる!」


「胸を張って言うことですか! そんなんだと虫歯一直線ですよ!」


「糖尿病一直線な食生活してるお前に言われたかないわ!」


「やぁかましいぃ! 黙ってさっさと食え!!」


 今にも取っ組み合いを始めんばかりに肉迫する二人をタウロスが一喝して黙らせる、一瞬で血の気が引き青い顔で着席する二人だが、机の下では尚も足を踏み合い攻防を繰り返す。


「はぁ、先輩のせいで怒られたじゃないですか。それにしても……艦長食事の時はえらく静かなんですね、意外です」


昔気質(むかしかたぎ)ってか、頑固親父ってやつね、何百年前の人間よって感じだけど……」


「それにテーブルマナー云々って前ちょっと言ってましたけど、お箸の持ち方も綺麗ですし食べ方も凄く上手ですよ?」


 見ればタウロスがアジの干物の骨を綺麗に外し、器用に箸を使い食事を続ける、背筋を正し黙々と食べ進めるその姿は普段の姿とは全く違い気品すら伺える。


「なぜか和食の時はああなのよね~、でも箸はあんだけ上手に扱えるのにナイフとフォークはからっきしなのよ」


「えぇっ? 箸の方が難しくないですか?」


「艦長に『普通』は通じないだろ……。例えば、俺が着艦したときに艦長がチーズケーキ食ってたんだけどな、なぜかチーズケーキが爆発して皿とフォークの破片が散弾みたいに……」


 当時の体験を思い出したのだろうか? 青い顔で自らの肩を抱き子鹿のように震えるスティーブに料理長が温かい紅茶を差し出す。紅茶に口を付けようやく気持ちが落ちいたのか、スティーブが再びパンケーキに向き直りゆっくりと噛み締めるように食べ進めてゆく。


「そもそもチーズケーキがどうやったら爆発するんですか……? 甘味料にニトロでも使ったんです??」


「ニトロ使っても普通は爆発はしないわよ、まあ、艦長だったら何が起きても驚かないわ、艦長だし」


「確かに、艦長ですからね」


 『艦長だから』なんとも投げやりで乱暴な言葉だが、これが何よりも説得力のある表現というのも泣かせるはなしである。


「そういえば艦長で思ったんですけど、リサさんって基本いつも艦長と一緒に居ますよね、あのスペックのアンドロイドが艦長にあれだけ従順って……かなり危険だと思うんですが、一体誰がリサさんを作ったんですか?」


「? 艦長よ?」


「へぇ……案外艦長って色々出来……はあああああぁぁぁぁぁぁぁあ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げ立ち上がったミナが再びタウロスに睨まれ、曖昧に笑いながら着席する、食事を終え退出していくタウロスを見送り、ヒソヒソ声でステラに抗議する。


「ちょっ、ステラさん変な冗談言わないで下さいよ! びっくりするじゃないですか!」


「いや、冗談じゃないらしいぞ? ピーターも言ってたけど、なんか何十年も前に艦長がジャンク品の山から掘り出したんだとさ。まぁ、作ったっちゃあ語弊があるが、修理は艦長が一人でやったらしいぞ?」


「えぇ……? あっ! ならなら! そのジャンク品に埋もれてたのが例えば軍の機密に関わるような凄い品物だった……! とか!?」


「う~ん、なんだっけ? あれよあれ……博物館とかに飾ってある目の大きい生っ白い……あのリトルグレイみたいな……」


「……もしかして……Pepper?」


「そう! それよそれ! ペッパー! いや~、小骨が引っかかったみたいで気持ち悪いのスッキリしたわぁ」


「ぺ……ペッパー!? あのスペックと見た目で素体がペッパー!? あれですよね? あの……通信会社が開発した……股間に中華キャノンとかいう兵器を装着してる……」


「……なんか変なの混ざってないか?」


「まあ、経緯は知らないけど、ゴミ捨て場でリサを回収してそこらへんにあったメモリやらなんやら適当に繋いで、最後に頭を叩いたら動き出したんですって」


「……それでそこから自分を改造し続けてああなるって……よっぽど嬉しかったんでしょうね……」


「まあ、リサにとっては命の恩人みたいなもんだしね、ああなるのも少しは頷けるでしょ?」


「まあ……でも危険な事には変わりはないですよね?」


「「まあ、確かに」」


 二人の声が上手く揃ったところで轟音と共に衝撃波が食堂を突き抜け、にわかに艦内が騒がしくなる。


「っとお! また撃ちやがったかあのおっさん!」


「あ~あ、この時間だといつもの発作じゃないから敵艦が来たのかしら?」


「うわああぁん! 髪がメープルシロップだらけぇ! ちょっ! 先輩どうしてくれるんですか! あ~っ! 逃げるな!!」


『おい! お前ぇら艦橋へすぐ来い! 面白ぇぞぉ! あとガキとスティーブはさっさと主砲撃てるようにしやがれよ! あんだけ的あんだから遊ばなきゃつまんねぇ!』


「あ~っ! もう! ガキじゃなくってミナだっての! シャワー浴びたいのにもう面倒くさい!」


 人も機械も環境に馴染むもの、リサが自らを改造することを意外に感じていたミナだが、ミナ自身も今正にイカロスに合わせてカスタマイズされているという事を……本人はまだ気付いていないのである……。

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