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宇宙戦艦イカロス、発進!

「ついに完成か……この艦が人類の希望になればいいのだがな……」


 月面基地の宇宙船ドックに係留されている新造艦を眺め、豊かな髭をいじりながら厳めしい顔つきの壮年の男が感慨深げに呟く。

 背後に整列した一糸乱れぬほど統率の取れた兵達、胸に輝くいくつもの勲章、それらから彼がひとかどの人物であることが見てとれる。


「最新式のエンジンに異星のテクノロジーを利用した艦砲、特に主砲は敵味方含めこれまで使用されていた兵器とは一線を画す威力です」


隣で資料をめくる秘書らしき女性の言葉に男が口角を僅かに引き上げ、そして引き締め直し大きく息を吐く。


「このふねが勝利をもたらす女神となるか……はたまた破滅を誘う悪魔となるか……」


「大丈夫ですアトラス閣下、この艦がきっとこの戦況を覆す鍵になるはずです、その為に我等は厳しい訓練を……!?」


 と、突如部屋に緊急事態を示す警報が鳴り響き、整列していた兵達が何事かと浮き足立つ。


「何だ! 何があった!!」


『新造艦ドックに侵入者です、人数は十数名、隔壁を破壊し艦の中に侵入、現在侵入者は一直線に艦橋ブリッジに向かっています』


 室内に響く無機質なAIの音声を聞き、怒り心頭の様子のアトラスが兵達に指示を出す。


「すぐに艦内への侵入者を排除しろ! 生死は問わん! あの艦は人類の希望なのだ! 決して奪われては……!?」


『あ~……テスッテスッ! おお、繋がったな、よ~うアトちゃん久し振りだな!』


 突如目の前の空間に映し出されたモニターを見て、アトラスがあんぐりと口を開けて静止する、モニターの向こう側では傷だらけの顔にもみあげに繋がる口髭を蓄えた壮年の男が玩具を見つけた子供のように嬉しそうに笑っていた。


「なっ……! タウ……タウロス!? お前が何でここに居る!」


『いや~、うちの艦が故障しちまってな、最寄りの基地がここで……んでよ! 来てみたらい~もん置いてあんじゃねぇか! なあ! っつー事でこのふね俺らが貰うな!』


「ちょっとまて! その艦は全人類の希望を背負った最新式の……」


 アトラスの声を遮るようにぶつんっと乱暴な音を立てモニターが消える、それと同時に再び鳴り響く警報と共に、ドックを見下ろす窓にシャッターが下り始めた。


『艦のエンジンの起動を確認、安全確保のため隔壁を閉じます、衝撃に備え、窓から離れて下さい』


「ま……待て! 行かせてはならん! 人類の……人類の希望が!!」


 慌てふためきシャッターの下りた窓に縋るアトラスにそれを止める兵達、混乱が包む部屋の中に轟音と共に衝撃波が突き抜け、部屋の端から端へアトラス達が吹き飛ばされる。

 壁に背中をしこたま打ち付け、陸に上がった金魚のように口をパクパクさせているアトラス達の前で再びブン……と音を立てモニターが起動する。


『あ~、すまん、発進ボタンと間違えて主砲撃っちまった、っつーかいい艦だな! 壊れるまで俺が責任持って大事に乗ってやるよ! そうだ! この艦に名前つけてやんなきゃな……んじゃ……イカロス! イカロスってなんか神話で空飛んだやつなんだろ? 縁起がいいからイカロスに決定! そんじゃいい艦ありがとな! じゃーな!』


「ま……まて……イカロスは神に近付こうとして転落死した男だ……え……縁起でも無い名前をつけ……」


 アトラスの声が届く前にまたもやぶつんっと乱暴な音を立て通信が切れる、それと同時に再び部屋の中を轟音と共に衝撃波が突き抜け、保護シャッターが開いた時には月面を抉る破壊の痕跡だけを残して宇宙戦艦イカロスは姿を消していた……。

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