9話 ホームを調べよう
ーー第二階層。
扉の先に広がっていたのは、薄暗いジャングルのような木々に囲まれた景色だった。
第一階層の入り口付近も自然に溢れていたが、あれは草原といった感じだ。ここは遠くが見えないほど木が生い茂っている。
そして、相変わらずダンジョン内だというのに空には月が輝いていた。
ダンジョンは外から見たら一つの大きな建造物だったが、内部は明らかに外で見たより高さも面積も大きいようだ。
どんな原理かはわからないけどダンジョン内は異空間とでも思った方が良いかもしれない。
これからどうしようか?
イキッて第二階層になんて来てしまったが、ダンジョンに入ってから寝ずにもう二日目だ。
体力もそろそろ限界だし、今は魔物にだけは会いたくない。
自然に囲まれた周囲を見渡して途方に暮れていると、
『第二階層へようこそ。これから二十四時間、第一階層への扉をロックします。また、セントール撃破の特典として座標114.194にカトウさん専用のホームが送られましたので、ご確認お願いします。それでは、引き続きステキなダンジョンライフをお過ごし下さい!」
聞きなれた音声が脳内に響いた。
ああ、たしか特典の三つ目でこの階層にホームがもらえるって話だったな。単語から推測すると、そのまんま家がもらえるって事か?
さっそく俺はホームを探そうと辺りを見渡した。
しかし、どの方角を見ても目に映るのは木と木と木。座標とやらを教えてもらっても、樹海のようなこの場所ではどちらに行くのが正解かまるでわからない。
そんな中、
「そういえば今日の日替りスキルは《透視》だったな」
日付が変わってさっき得たばかりのスキルを思い出した。
服を透かすくらいしか用途の思いつかないダメスキルだと思っていたが、この状況では有用そうだ。どんなスキルにだって使える場所はあるって事か。
『日替りスキル』の日替りという仕様上、変わったばかりのスキルになかなか慣れないのが難点だが。
早速、俺は瞳に力を入れて《透視》能力を発動した。透視の対象はもちろん木だ。
すると、今まで木しか見えなかった視界が一気に広がった。周囲にあった木々の色が瞬く間に薄くなる。
見通しの良くなったところで、ぐるりと回りを見渡す。スキルのおかげで木が見えなくなった代わりに、今まで木に隠れていて気がつかなかった物に気がついた。
まず俺の正面数十メートル先に犬のようなシルエットが二つ。ダンジョン内にいるんだし、おそらく魔物だろう。
真っ直ぐに進んでいたら危なかったが、これだけ周囲が見えていれば魔物を避けて動く事もできそうだ。
そこから視線を右に向けると数キロほど離れた先に小さな家のシルエットを見つけた。遠くて良く見えないが形からして間違いなくあれがホームだ。
ホームを見つけた喜びで疲れた体など気にせずに、俺は反射的に動く足を抑えきれず一直線にホームへと向かった。
◇
ただただ重いだけのセントールの槍なんて乱雑に地面に引きずりながら、ようやく家の前までたどり着いた。
きっとセントールが見たら泣いて悲しむくらいに、俺が持った槍は土で汚れてボロボロだ。
でも、家がもらえると聞いたら槍なんてもはやゴミのようなもの。
今俺の目の前には一つの家がある。少しだけ開けた場所にある家のサイズは中々に大きく、四部屋二階建てのアパートくらい。外観は洋風の佇まい。実際に買うとしたらこの家だけで三、四千万円くらいはするだろう。
家の周りは木々が立ち並び、まさに隠れ家といった雰囲気だ。緑色の屋根は保護色の効果もあって、この家が第二階層に入ってきた冒険者に見つけられる可能性も低いはずだ。
「ここに住んでいいんだよな?」
今まで家賃四万円のオンボロのアパート暮らしだった俺にとって、夢のまた夢だったマイホーム。
例え危険のあるダンジョン内に建った家だとしても、これほど嬉しいものはない。
ワクワクする気持ちを抑えきれず、俺は玄関のドアを開けた。
家の中を見ると広々とした空間が一つ。それと、広い部屋の隅にドアが数個。玄関の近くには二階への階段もある。
一先ず、持っていた槍を入り口に立てかけて家の中を回ってみた。
家の中を回りながら俺はある違和感を感じた。
家に入ってぐるりと一通り、全部の部屋を見渡したはずなのに、家具一つみつからないのだ。
豪華な外観とは裏腹に、玄関には絨毯はおろか灯りを灯す道具すらない。
他の部屋も同様だ。《透視》能力でも、家中全てを見てみたがどの部屋にも物が一つも置いていない。キッチンやお風呂、さらにはトイレすらもない。
「特典のホームって、まじで家だけなのか……」
少しだけ期待を裏切られた俺は心が折れて、何もない部屋で横になった。
床から漂う新しい木の良い匂いを鼻に感じて、今まで忘れていた眠気が強くなる。
ぐったりと床に寝そべりながら、月の光だけが差し込む暗い室内で静かに目を閉じた。
確かに今は何もない家だけど、それもまた悪くはないか。
俺は微睡む頭のまま、ポケットに入れていたクシャクシャのお金を思い出して考えを改めた。
数時間のモンスター討伐で稼いだ二十七万円。
そうだ、俺のスキルを持ってすればダンジョン内でできる金策は無限にだってある。
家に何にもないんだったら、お金を集めて買えばいいんだ。何もないこの家を自分好みにゼロから作っていくのも楽しみだ。
この家を拠点にして、素敵なダンジョンライフとやらを満喫させてもらうとしよう。
そうだな、次目を覚ましたらすぐ探索にでも出かけよう。透視のスキルがあれば宝探しだって簡単だ。もっとも、こんなに疲れてたんじゃ、今日中に起きられるかは怪しいけど……。
様々な期待を思い浮かべながら俺の疲労はついに限界に達して、意識は深い眠りに落ちていった。
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