8話 第二階層へ行こう
日間ローファンタジーランキング65位→34位→14位達成しました!
あと一歩で扉に触れられる距離まできた俺は、後ろを振り返ると階段から下を見下ろす。
数多の冒険者が俺を見上げる中、俺は口を開いた。
「俺のスキルはすべてを消し去る《消滅》のスキルだ。お前達もついさっきに、このスキルでボスが消えていくのを見てただろ?」
フロア内にいる全員に聞こえるように、俺は声を張り上げた。
「その気になれば誰だって簡単に消せるんだ。それを知っていて、それでも俺に向かってくる奴に俺は容赦しない」
もちろん、日付が変わった今はそんな事はできないんだけど。
俺が言い終わると同時に、それまで騒がしかったフロア内がシンとなる。今まで暴言を吐いていた奴も、青ざめた顔で大人しくしている。
こうして脅しておけば、今後俺を襲おうなんて奴は現れないだろう。
俺は下にいる冒険者達の様子に満足して、再び階段を上がろうと後ろを向いた。その時だった。
「ちょっと待てや!」
静まり返ったフロアに響く突然の大声に、全員の視線が声のした方を向く。そこには髪の赤い男が一人。
「なんで、なんでそんな強いスキルがあるのに俺達を助けなかったんや!」
「助けなかった?」
俺に向かって吐かれた言葉に思わず問い返す。
「そうやろが! 自分はボスを簡単に倒せるスキルを持っとったやないか! 最初から俺らと一緒にボスと戦っとれば、バンドウはんの仲間はこんなに死なずにすんだんやろが! 得意気にカッコつけとらんで、さっさと死んだ仲間と俺達へ地面にアタマ着けて謝らんかい!」
赤髪は俺を睨みつけて声を荒げた。どこかのアニメで聞いたようなセリフだが、発された言葉は至極当然のようにも聞こえる。
しかし、ここに来る前の事を思い返すと、そうも言っていられない。
自然と俺の頬が緩み、口から笑い声が漏れる。
「くくく、ははははははは!」
「な、なにがおかしいんや!」
「俺がお前らと一緒に戦ってたら、だって? そんな言葉よく言えたもんだ」
怒りながらも不思議そうな顔をする赤髪に、俺は続けた。
「俺は最初に酒場で言ったはずだ、『ボス討伐のパーティに入れてくれ』って。それを笑いながら断ったのは誰だった?」
それを聞いて赤髪はハッとしたような表情を見せた。
そう、俺との協力を最初に拒んだのはコイツらだ。そこを非難されるいわれは無い。
「俺を無職だとかクズだとか言ってバカにして、仲間外れにしたのはお前達だよな? それを俺がボスを倒した途端に、掌返しするなんて都合が良すぎだろ」
「……ッ!」
痛い所を突かれたのか、赤髪はそれ以上なにも言い返してこなかった。
少々言いすぎたかもしれないが、コイツらが俺にした行為だけでなく、今までの会社で溜まっていたストレスも爆発したようだ。
赤髪と同じく何も言えない冒険者達の悔しそうな顔に俺は満足して、再び前を向き直した。
俺の目の前には光輝く扉がある。その先に第二階層とやらがあるらしい。
まだ誰も見た事がない第二階層。最初に見える景色はどんなものだろうか。
担いだ槍の重さも忘れるほど逸る気持ちを抑えきれずに、自然と心臓の鼓動が速くなる。
もしかしたら、新種の鉱石とか植物を見つけて大金を得られるかもしれない。
会社をクビになった時はこれからの生活をどうしようか悩んでいたが、ダンジョン内は宝の山だ。散策のしがいは十分ある。
今回は成り行きでボスを倒してしまったが、ダンジョンの攻略なんて正直俺には興味ない。
ダンジョン内でお金を稼いで普通に生活をして、人並みの人生が送れればそれでいい。
そうだな、当面の目標はお金稼ぎとしておこうか。
もちろん、俺が活動するのは《日替りスキル》の調子がいいときだけだがな。
ハズレスキルの日には第一階層の街にでも行って適当にブラブラしよう。
俺は今後の考えをまとめて扉に手を当てる。
そして、扉についた手を強く押し込むと、扉がゆっくりと開き出した。
とりあえずタイトル回収してみました。
次回から第二階層に入ります。