7話 ピンチを乗り切ろう
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『フロアボスを撃破したカトウさんには特典として、第二階層にあるホームとユニークアビリティ“能力分析”、加えて“崩潰槍セントール”が与えられます。また撃破特典としてこれより二十四時間、第二階層へのカトウさん以外の侵入を禁止します』
ボスを倒した俺の頭に、続けてアナウンスが流れ込んだ。
特典のホームに、アビリティと槍とはどういうことだろうか?
分析という名前からステータスでも見られるのだろうか、と考えて自分の姿を頭で念じてみる。
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○名 前:カトウ カズヤ
○スキル:日替りスキル《消滅》
○アビリティ:分析
○装 備:布の服
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視界に広がる俺のステータス。ステータスと言ってもわかるのは名前と能力くらいの簡単なものだ。
そして、もう一つ。槍と聞いて、目の前にあるフロアボスが落とした槍を見る。槍はさっきまでボスが持っていた時には十メートルを超える大きさだったが、今は何故か俺の身長くらいのサイズに小さくなっていた。
解決しない疑問を浮かべる俺だったが、消滅の能力で自分の姿を消していた事を思い出して能力を解除し再び体を元に戻した。
「お前は! ここに来る前酒場にいた無職の……」
周りの冒険者達にも俺の姿が見えるようになると、一部の冒険者から声が聞こえた。
そして、視認できるようになった俺を見てバンドウが駆け寄ってきた。
「テメエ! 一体どんなインチキをしやがった! アイツを倒すために、俺がどれだけ時間と金を費やしたかと思ってるんだ!」
そう言って俺の首元を掴み激しく揺らす。
戦いの後で疲れていた俺には、それだけで大ダメージだ。
俺はやれやれと言った感じで、両手のひらを上にして、バンドウにむけて言い放った。
「アンタがもういいって言うから、俺が倒したまでなんだが……。それよりいいのか? こんな真似して」
俺の首元を掴んだままのバンドウはハッとした表情をすると、急いで俺の服を手放した。
バンドウも気がついたはずだ。俺が一人でフロアボスを倒したことにより、現在の力関係は、
俺 > フロアボス >>>>>>> バンドウ達
の順になる。俺がその気になれば自分など一捻りだと、バンドウも理解したのだろう。
「クソッ! なんで、テメエみたいな素人が……」
悪態を吐きながらバンドウはフニャフニャと力なく地面に座り込んだ。バンドウの落胆具合に俺がニヤついていると、
『日付が変わりました。カトウさんの本日の日替りスキルは『透視』です』
《透視》
意図した物質を透過して視認できる。また、視力が2.0まで上昇する。
頭の中にまた、聞きなれたアナウンスが鳴った。
(は? スキルが変わった、だと? 嘘だろ?)
丁度日付が変わったらしく、意図せず俺の日替わり能力が発動した。
《透視》のスキルを得た俺の視界に、全裸になったバンドウの体が映し出された。
(ヤダ、コイツ結構いい体)
筋肉質なバンドウの体を見て思わず頭におかしな考えがよぎる。いやいや、今はふざけている場合じゃない。
さっきの戦いを見ていたところ、バンドウはたしか強力な水のスキルを持っていたはずだ。
昨日までの消滅スキルを持った俺ならいざ知らず、もしも周りに俺のスキルが変わったのがバレたとしたら。
こんなスキルじゃまともに抵抗できない今の俺だ。逆恨みで攻撃でもされたらその時点でお陀仏確定。
ここは一刻も早くこの場を立ち去るのが得策だ。
「悪かったな。じゃ、じゃあ俺そろそろ行くから」
なるべくバンドウを刺激しないように、俺はゆっくりとその場を離れる事にした。
フロアボスを倒した後、目の前にはいつの間にか上の階へと続く長い階段ができていた。おそらくこれが次のフロアに続く道だ。
階段の先には光る扉が見える。
見通しの良いこの場所ならともかく、この階段を登り切って第二階層までたどり着けば、特典とやらで他の奴らは二十四時間は来られないはずだ。
俺は近くにあった槍を手に取ると、バンドウを警戒しつつ後退りしながら階段へと近づいた。
そのとき、落胆するバンドウに二人の冒険者が駆け寄ってきた。
「バンドウさん大丈夫ですか?」
一人はバンドウの背中をさすり、もう一人は俺に怪訝な目を向ける。
「なあアンタ、俺達の成果を横取りして恥ずかしくないのか? 俺らの攻撃で弱っていたボスに対して、アンタがトドメを刺しただけだろ?」
どうやら自分たちの手柄を俺に取られたと思っているらしい。
この展開は非常にまずい。もしも手柄を寄越せなんて、力尽くでこられたら透視しかできない今の俺には抗う手段がない。
冷や汗が全身から吹き出して、体中に気持ちの悪い感覚が広がる。そんな中バンドウに駆け寄った冒険者の一人が、近づいてきて俺の持つ槍へと手を伸ばす。
「アンタには俺たちにも報酬を分ける義務があるはずだ。もし独り占めするっていうなら……」
その行動に心臓の鼓動が最高潮に達した俺だったが、
「やめろ!」
突然、大声がフロア内に響き渡ると俺に近づく冒険者の動きが止まった。
「ボスを倒したのはコイツの実力だ。俺たちのパーティは奴の鎧を砕いただけに過ぎねえ」
声の聞こえた方向に全員の目線が集まる。そこには一人の若い男がいた。男の顔をよく見ると、さっきの戦いで仲間を助けていた長身の男だ。
会社帰りにダンジョンに来たワイシャツ姿の俺とは違って、RPGにでも出てきそうな鎧のような軽装だ。
「でも! その鎧を壊さなかったらコイツはボスを倒せなかったはずだ!」
長身の男に反論されても、冒険者はなお引き下がらない。
「違う。あの鎧はただの拘束具だったんだ。俺らが余計な事をしなけりゃ、コイツはもっと簡単にボスを倒していただろうさ。……俺だって認めたくはねえが、これが結論だ」
「ぐっ……」
彼の観察眼と洞察力はかなりのものだった。
男に静止された後は不満そうな顔をしながらも、それ以上言い返す言葉が見つからないようだ。
場が静かになったのを見計らって、第二階層への階段を足早に登りはじめた。
話のわかる一人の冒険者がバンドウ達を抑えてくれてはいるが、俺が今戦えないのがバレたら何をされるかわからない。
今は早くこの場を去るのが正解だ。
しかし、このやけに重い槍を持って階段を上がるのはかなりキツイ。軽く二、三十キロくらいはありそうだ。階段も遥か高くまで続いていて、軽く数えてもまだ百段以上ある。
そして、今もフロア内に残った100人を超える冒険者の視線が俺に集まっている。視線を感じて焦る気持ちもある。しかし、ゆっくりと一段ずつ足を進めながら、冷静に今の状況を考えた。
俺の人生の中でこれほどの活躍をして、注目を浴びた事が今まであっただろうか? こんなに大勢の視線を浴びるのは、小学生の頃にドッジボールで球を避け続けて最後まで残った時以来だ。
「この卑怯者が! 手柄を独り占めして、恥ずかしくねえのかよ!」
「外の世界でも人の手柄を自分の物にしてたに違いねえ!」
「そうだそうだ! 外じゃきっと使えねークソ野郎に決まってる! だから無職になったんだ! ダンジョンでボスに挑むって日にそんなくたびれたシャツでくるなんて、どうかしてるぜ!」
下の方ではバンドウの仲間達が、行き場のない怒りを言葉に変えて、俺へと暴言を吐いてくる。
しかし、今はその声すらも心地良い。少し心に突き刺さる内容もあるけど。
俺の服装については会社帰りに思いつきでダンジョンに行こうと思ったんだから仕方がないだろ!
しかし、手柄をあげただけでここまでアイツらの怒りを買うとは予想外だった。
もし俺の能力が日替りな事がバレて、弱いスキルの日に襲われでもしたら目も当てられない。
ここは一つ、一目置かれる程度に牽制しておいたほうがよさそうだ。
俺は階段の途中で一旦立ち止まると下にいる奴らの方に体を向けた。
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