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5話  フロアボスを倒そう 中編

 

 酒場から出た俺は、列を作り町を北上する冒険者達を見つけた。その中には何人か酒場で見た顔も混じっている。


 コイツらに続いてフロアボスまでたどり着こうと考えたが、後をつけているのがばれたらまた何をされるかわからない。


 そこで俺は『消滅』のスキルを自分の姿と気配に向けて発動した。

 うまくいくかはわからなかったが、見事に足音すら聞こえなくなった。近づいても俺に気付く様子もないし、たぶん気配も消せているはずだ。


 俺は人混みに紛れながら討伐パーティの後ろを歩いた。


 そのまま二時間くらい、草原や岩山を乗り越えてただひたすらに歩いた。俺の前を歩く冒険者達は、討伐パーティに参加するだけの事はあるようで、息ひとつ切らす様子はない。


 ついていくだけで必死だったが、とうとう最後尾を歩く俺の視線の先には先頭を歩いていたはずのパーティのリーダー“バンドウ”が見えた。


 バンドウは大きな扉の前で立ち止まり、その周りを大勢の冒険者が囲んでいる。

 そして最後の仲間が到着すると、


「これで全員揃ったようだな。それじゃあ扉を開けるぞ」


 大きな扉に腕を当てて、力強く押した。


 ギイイイイ、と唸るような音を上げて扉がゆっくりと開いていく。


 開いた扉の先に目を向けると、学校のグラウンドくらいの大きさの広間があった。

 広間の床は石でできていて、コロッセオのような雰囲気だ。


 薄暗い広間に目が慣れてきた時、俺は中央にいた怪物に気がついた。


 はじめに目に着いたのは全長十メートルは優に超える巨体。

 その化け物の正体はケンタウロス。


 通常、ケンタウロスといえば半人半獣の怪物を指すが目の前にいるのは半獣半獣の怪物だった。

 馬の体に首から上はミノタウロスのような風貌だ。


 頭には兜を被り、兜の間からは赤い眼光が見える。胴体部分には硬そうな鉄の鎧を着て、手には体長と変わらないほどの黒色の大槍が一つ。


 リーダーは確かコイツの事を『セントール』と呼んでいたか。


 セントールは扉の先にいるバンドウ達に気がつくと、


 ーーグォォォォォッ!!


 鼓膜が破れそうなほどの大声を上げた。

 俺はあまりの音量に耳を塞ぎ込む。


 しかし、討伐パーティは怯む事なく広間に入ると、セントールを囲いこんだ。


 その数およそ三百人。

 何人かで塊を作って、リーダーからの指示を待っているようだ。


 一人一人が屈強な体を持つ大男や、体より大きな武器を抱えた猛者ばかり。


 セントールが牽制の如く、近くにいた集団に槍を突き刺した。

 槍は物凄い速さで進み直線上の人間を貫こうとひた走る。


 が、狙われた集団は機敏に動いてそれを躱す。

 槍は地面へと突き刺さり砂埃を撒き散らした。


「へっ、相変わらずのワンパターンな攻撃だな」


 男の一人が顔色を変えずに軽口をたたく。彼の口振りからしてフロアボスに挑むのは今回が初めてではないらしい。


「今だ! 第一部隊、攻撃開始!」


 バンドウの合図で攻撃後、隙だらけになったセントールに銃を持った数十人の冒険者が弾丸を打ち込んだ。


 銃弾はセントールの体にあたるが、キンキンと音を立てて硬い鎧に弾かれた。効いている様子はまるでない。


「やっぱりきかねぇよなあ! 第二遠距離部隊共! 攻撃用意だ!」


 バンドウが手を挙げて声を張り上げる。

 合図を受けて、セントールを囲んでいた何百人もの冒険者が各々の武器を構えた。


 そして、バンドウが勢いよく手を振り下ろした。


 ーー瞬間、セントールの雄叫びにも負けない轟音がフロア内に響き渡った。


 最初に見えたのは白い閃光。女性の冒険者の腕から輝く稲妻が迸り、セントールの着る鎧が電気を帯びた。


 続いて別の冒険者達からは炎の塊。いくつもの炎が重なりセントールの巨体を包み込む程の大きさになった炎が、魔物の体を覆った。


 しかし、セントールはそれらの攻撃を物ともせず、槍を振って襲いかかる全てをかき消した。


「さすがに硬いな。でも、これならどうだ?」


 最後にバンドウの腕から水が吹き出した。水はウォーターカッターの如く速さで、セントールへと向かう。


 水がセントールの鎧に当たると同時に、


 ゴウッ!! という爆発が巻き起こる。


 瞬く間にフロア全体にむせ返るような熱さの風と熱が広がった。


『水蒸気爆発』


 非常に高温な物質に水が触れることによって起こる現象だ。


 高温になった水が一瞬で水蒸気へと変わり、体積がおよそ二千倍に膨張した水が起こす超爆発。


 バンドウ達が放った火炎と水の量は凄まじい。あれだけの規模の爆撃を受ければ、頑丈な鎧をつけていてもセントールへのダメージは計り知れない。


 爆発の直撃を受けて、セントールの周囲に煙が漂う。


「やったか!?」


 パーティの中で冒険者の一人がお決まりのセリフを吐いた。いくらなんでも、そのセリフ言ってはだめだろうに……。


 フロアにいた全員が結果を見守る中、だんだんと煙が晴れてきて、セントールの姿が見えてきた。


 奴が倒れる様子こそなかったが、鎧に大きな亀裂が入っている。


「よし! あともう一押しだ! 第三部隊、突撃だ!」


 爆破の衝撃で怯んだセントールに向けて、大きな武器を持った冒険者達が襲いかかる。

 武器はハンマーをはじめ、どこから持ってきたのか日本刀やメイスといった個性豊かなものもある。


 セントールへ駆けていく冒険者の動きは常人のそれではない。おそらく身体能力強化のスキルだろう。

 離れていた距離を一瞬で詰めると、足元に剣を突き刺し、亀裂のある鎧を殴りはじめた。


「グォォォォォウ!!」


 水蒸気爆発のダメージが思ったよりも大きいらしく、セントールは身を守るだけで精一杯。


 防戦一方のセントールを見て、俺の額から汗が流れる。

 まさか、このままフロアボスを倒してしまうのか? そしたら俺の活躍がなくなるぞ! がんばれ牛野郎!


 心の中で応援する俺の気持ちとは裏腹に、ついに一人の冒険者の鈍器がセントールの鎧を砕いた。


 ガラガラと音を立てて、重たい鎧が床へと転がり落ちる。

 鎧が無くなったのを見て、冒険者達の士気が上がる。


「鎧が無くなればコッチのもんだ! 全員でかかれ!」


「「「オウ!!」」」


 昂ぶるバンドウの声で全員がセントールに攻撃を仕掛けた。

 再び、これまですべての攻撃で丸裸になったセントールへと向かう。



 ーー誰もが勝利を確信した、その時だった。



 今まで防戦に徹していたセントールの動きが変わった。

 黒色の大槍を体の前に突き出すと、その周囲の空間が歪んだ。


 そして、すべての攻撃はその空間に吸い込まれるように消えていく。生身で向かっていった冒険者達も、だ。


「う、嘘だろ?」

「うわあああああ!」


 接近戦を仕掛けていた数人の冒険者の体は宙に浮き、槍に触れると、バギバギと骨が折れる音と血をまき散らして姿が見えなくなった。


 その様子を見て、バンドウのパーティは慌てはじめる。入り口にいる俺の方に逃げだす冒険者や、恐怖で座り込む奴までいる始末だ。


 しかし、逃げ出した冒険者は今までよりも機敏になったセントールに追いつかれ、その槍に背後から貫かれた。

 いつの間にかセントールの持っていた黒い槍は、冒険者達の血で真っ赤に染まっている。


 どうやらアイツの鎧は体を守るためじゃなく、拘束具の役割をしていたらしい。


「ハ、ハハハ……」


「おい! こんな話聞いてないぞ! お前が絶対に勝てるっていうから、俺はここまで付いてきたんだ! どう責任とってくれるんだ!」


「俺のパーティが……五年間が……」


 信じられない物を見たように放心するバンドウに、一人の巨漢の冒険者が詰め寄った。放心するバンドウの胸ぐらを掴み怒鳴り声を上げている。


 その騒ぐ姿が目についたのか、セントールは揉めているバンドウ達に飛びかかった。


「う、うわあああああ!」


 物凄いスピードで接近するセントールに気がついて、巨漢の男はバンドウを投げ出して走りだす。


 だが、男の走る速さとセントールの速さはまるで違う。

 一瞬で追いつかれた後に、頭に生えた角で腹を貫かれて巨漢の男は絶命した。


「リーダー! どうするんだ? 早く俺達に指示をくれ!」


 辛うじて戦う意志のある冒険者がバンドウに問いかける。

 目の前で行われた殺戮を見て、バンドウはいくらかの正気を取り戻したのか、


「クソッ! 撤退、撤退だ! 戦える奴はアイツの足止め、自力で動ける奴は入ってきた扉に走れ!」


 枯れた声で叫ぶと、能力で牽制しながら入ってきた扉の方に向けて走り出した。


 震える足でヨタヨタと走ってくるバンドウ。入り口で気配を消していた俺は、近づいてきたバンドウの前に足を出す。

 バンドウは出された俺の足に気がつく様子もなく、俺の足につまずいて腹から地面に倒れた。


「うがッ!」


 それを見下して、俺は消滅のスキルで消していた気配を元に戻す。

 バンドウは突然現れた俺に驚きを隠せない表情だ。


「アンタの作戦はもう終わりか?」


 地を這うバンドウに向けて言葉を投げ捨てた。


「テメエはさっき酒場にいたクズ野郎……。俺達がやられていく姿を隠れて見てたのかよ! 確かに今日は失敗したがな、俺にはまだ次がある。もう一度、今度はもっとたくさんの冒険者を集めて、アイツをぶっ殺してやる!」


「つまり、今日の攻略作戦はお終いって事か。なら今から俺がアイツに挑戦しても文句はないよな?」


 俺を血走った目で睨んで罵るバンドウに、確認をとる。


「ハハハ、テメエ今までの光景を見てなかったのか? 俺が集めた選りすぐりの冒険者、300人以上の手練れが一斉にかかっても倒せなかったんだぞ? テメエ一人でどうにかなる訳ないだろ!」


「じゃあ、試してみるか」


 俺は地面から吠えるバンドウの声を気にせず、フロア内へと進んでいった。


 歩きながら腕時計をチラリと確認する。今の時刻は23時45分。

 日付が変わるまでは十五分か。俺がアイツを倒すには充分過ぎる時間だ。

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[良い点] 日替わりスキルという視点が面白いですね。 注目して欲しい部分に関しての説明が追記されているのは良い気がします。 個人的に本作品は楽しませてもらってますので作者様も是非頑張って下さい。 …
[一言] ケンタウロスと書かれているので想像はつきますが、 「馬の体に首から上はミノタウロスのような風貌だ。」 という表現だと、馬の体にミノタウロスの首が着いているようで、一言で言うと「痩せた牛」とも…
[気になる点] いや消滅の応用範囲広すぎて もうなんでもありの 作者のご都合スキルに成り下がってる 消滅スキルでダンジョン消して終わりにしたら?
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