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3話  情報を集めよう

 

 現在の時刻は夜の19時。あれから数時間、森の中を探し回って十匹のオークを倒した。

 しかし、あの後首飾りを落としたのは二体だけ。


 はじめの一匹と合わせても、合計で三個しか集められなかった。


 でもオークの首飾り一つで十万円、合計で三十万円の稼ぎだ。狩に使った時間はおよそ十時間くらい。

 時給に換算すると一時間で三万円。時給三万の金額は俺が勤めていた会社の稼ぎと比べたら破格の値段だ。


 ダンジョンとはこんなにもおいしい場所だったのか。

 こんな事なら、もっと早くに冒険者になるべきだったな。


 後悔半分、期待半分の気持ちで俺はポケットに入れた首飾りを右手で触る。


「けどこれ、どこで金に変えたらいいんだ?」


 ダンジョンについての知識はテレビやネットで見た大雑把な物しか持っていない。

 まさか自分が冒険者になるなんて思ってもみなかったし、換金の方法なんて興味すらなかった。


 ゲームならドロップアイテムを買ってくれる商人でもいるんだろうが、はたしてダンジョンの中にいるのだろうか?


 森の木々に囲まれて考えながら、辺りを見渡すと正面の方角から煙が上がっているのが見えた。


 耳をすませば賑やかな声も聞こえて来る気もする。そういえば、ダンジョンが出現して五年の間に、内部に冒険者が作った街があると聞いたことがあったような、なかったような。


 もしかしたら、街に行けばダンジョンに詳しい人がいるかもしれない。

 いや、きっといるはずだ。


 早速、薄暗い空を見上げながら俺は煙の上がる方向に向かう事にした。



 ◇


 歩き始めて数十分、ようやく街の入り口にたどり着いた。

 街の入り口には一つの大きな門に看板がかけられていた。

 看板には『冒険者の街、オラクルベル』と書いてある。


 街の中は露店や人に溢れて活気のある雰囲気で、まるで繁華街の中にある商店街のような感じだ。


 ダンジョンに入って、戦闘スキルを得られなかった人達はここに多く集まってるって、テレビで言ってたな。まさかこれほど大きい街だとは思わなかったけど。


 この規模の街ならアイテムを買い取ってくれる人もいるに違いない。


 早速俺は入り口に一番近い露店にいた暇そうなおばさんに声をかけた。


「ねえ、このアイテムを売りたいんだけど、何処で売れるか知らない?」


 ポケットから首飾りを一つ出して、おばさんに見せた。

 おばさんは首飾りを受け取ると一瞬ハッとしたような顔をした後、


「これまさか盗品じゃないだろうね? アンタ、見たところ初心者の冒険者みたいだけど」


 おばさんは仕事帰りのワイシャツ姿の俺を見て、疑惑の目を向ける。

 チラホラと外でも見かけるような服の人はいるが、街にいる大半の人と比べて俺の服装は浮いていた。街にいる多くの人間は動きやすそうな鎧を着ている人が多い。


「違うよ。さっき俺が倒したオークが落としたんだ。で、何処で換金できるの?」


「本当にぃ? オークといえばダンジョンの入り口付近にいるんだけど、とてもアンタみたいな初心者に倒せるモンスターじゃないんだよねぇ……。まぁいいわ、一つ五万で買ってあげるわよ」


「五万だって? 俺が聞いた話じゃその倍はするって話だぞ?」


「アンタみたいな若造は知らないかもしれないけどね、物には相場ってもんがあるのよ! この首飾りは今そのくらいの値段だし、こんな出所もわからない怪しい品を買ってあげるだけありがたく思いなさいよ!」


 いきなり早口で捲し立てられて、動揺してしまう。おばさんの物言いは所々頭にくる点もあるが、言われてみれば正論かもしれない。


「わかった、なら五万で……」

「ちょっと待ってください!」


 俺がしぶしぶおばさんの提案を承諾しようとしたとき、俺の横から女の子が口を挟んできた。


「そのアイテム、オラクルベルでも相場は十万円は超えていますよね? お兄さん間違いなく騙されてますよ!」


 そう言って明るい髪色の若い女の子が、おばさんの持っていた首飾りを奪い取る。そして、それを俺へと渡してきた。


「私は今コイツと話してるの。それと無関係のアンタが、なんで後から来て横槍入れてんだい!」


「なら、私が十万円で買取ります。それなら交渉相手として、私も無関係じゃないでしょう?」


 高校生くらいの年齢の少女は自信ありげに大きな胸を張って、俺とおばさんに提案してきた。俺より一回りも若いにも関わらず、大した度胸と胸囲だ。


「チッ、これじゃ商売にならないね。二人ともとっとと店の前から消えな!」


 少女のドヤ顔を見ておばさんは敵わないと判断したらしい。しっしと手を払うように俺達を追い払うと、店の奥へと逃げて行った。


 おばさんがいなくなった後、少女は俺の方に向き直ると、


「危ない所でしたね。お兄さん、見た感じ初心者の冒険者さんですよね? 何も知らない人を狙って、ああいう詐欺紛いの事をする方も多いんです。お兄さんも気をつけた方がいいですよ」


 そう言った後にニッコリと微笑んで俺に手を差し出した。


「あ、ありがとう」


 その笑顔の可愛さに、つい言葉を詰まらせてお礼を言う。

 差し出された少女の手を握ると、少女は顔を赤くして、


「あ、あの……握手じゃなくて、首飾りを……」


 どうやら、手を出して来たのは商品を受け取りたかっただけらしい。

 勘違いに気がついて、俺はすぐに手を離すとポケットから首飾りを三つ取り出した。


「え、三つもあるんですか? オークがこれをドロップするのはかなり珍しい事で、一体を倒すにもかなり時間と人手がかかるはずなんですが……」


 驚いた顔をする少女。

 他のモンスターに出会った事がないからわからなかったが、オークはかなり強いモンスターのようだ。


「たまたま良いスキルに当たってさ」


「良いスキルって、オークを一人で倒せるスキルなんて、片手で数えるくらいしか聞いた事がないですよ!」


 なるほど。少女の慌て様から、俺の日替わりスキルで出た『消滅』スキルはかなり強力なものらしい。


 このスキルがあれば、もっと効率よく稼げるかも知れない。


「あっ、店の前で話し込んで迷惑になりますね。よければ、あっちのベンチでお話しませんか?」


 少女が指を刺す方に目を向けると、広場にいくつかのベンチが置かれてあった。


 俺は軽く頷くと、少女の後に続いてベンチへと歩いて行った。


 二人で座るには広いベンチに腰をかけて、隣に座る少女の姿を観察する。


 見た目は金色に近い髪が肩の長さ程で、歳は十代くらい。街の雰囲気にあった冒険者らしい服装で、動きやすそうなショートパンツを履いている。

 顔はテレビで見かけるようなアイドルのように可愛らしく、瞳の色は綺麗な碧色で、ハーフという可能性が真っ先に思いついた。日本人とロシア人を混ぜたような顔つきだ。


「自己紹介が遅れました。私は名取(ナトリ)クリスって言います。来年高校生で、まだバイトができないので、ここで冒険者をしてお金を稼いでいるんです。冒険者をはじめて三年くらいだったかな?」


 名前からしてハーフなのは間違いなさそうだ。

 それにしても、三年も冒険者をしているなんてかなりのベテランだ。


「俺はカトウだ。今日冒険者になったばかりだ。外ではむしょっ」


 途中まで言いかけて口を紡ぐ。初対面の子相手に職業まではいう必要はないな。


「フフフ、むしょって、おかしなクシャミですね。カトウさんって面白い人なんですね」


 俺の言葉を聞いたクリスは、口に手を当てて笑った。笑われているはずなのに、不思議と不快感を感じない。きっと彼女の中には俺をバカにする気持ちは微塵もないのだろう。


 もしも先輩のコジマが同じ言葉を発したら間違いなく、俺は切れている。


 それにコミュ障の俺でも、何故か問題なく話ができる。これも彼女の人徳のなせる技のお陰だろう。


「あっ、すみません。商談の話でしたよね。確か三十万円くらいならあったと思うんですが」


 クリスは持っていた鞄を開けて中を漁る。鞄の中から一つの封筒を取り出すと、その中にあった紙幣を数え始めた。


「にじゅうご、にじゅうろく、にじゅうしち。あれ、昨日まではもっとあったような……」


「足りないんなら、ある分だけでもいいんだけど」


「ダメですよ! そんな事したら、さっきのおばさんと一緒になっちゃいます! 私、ずるい事だけはしたくないんです!」


 別に少しくらいまけてあげてもいいんだけど、クリスの性格はそれを許さないようだ。

 彼女は鞄をひっくり返して中身を全てベンチへと広げると、


「この中に何か欲しいものってないですか? 足りない分は現物で払わせてください!」


 俺にとんでもない要求をしてきた。

 出された中身を見ると、女の子らしい財布、香水のような瓶に入った液体、手帳やキーケース、飲みかけのペットボトルがある。


 趣向の偏った人から見れば、少女の私物は魅力的な品かもしれないが、あいにく俺にそういった趣味はない。


「あまり欲しいものはないんだけど」


「えー! じゃあどうしましょう……」


 うつむく少女の表情はとても悲しそうだ。

 俺はあまり良くない頭をフル回転させて考えた。

 そして、一つの案を思いついた。


「なら、こういうのはどうだ? 今から一時間、クリスの時間を俺に売ってくれないか?」




 ーー日付が変わるまで後四時間。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に申し訳ないんですが【名取クリス(ナトリクリス)】という名前が少し卑猥に見えてしまいました。 中学生みたいなこと言ってすみません。
[一言] この主人公達が住んでいる日本は異常に無能な事が解った。
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