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幕間 ルミナ

 

 暗い洞窟の中を一歩づつ前に進む度、はっきりしていく男の顔。


 自信を多分に含んだ嫌らしい笑い声と、歪んだ口元。

 この不快な声の主を、私は今まで忘れた事はない。


 私は今日この日まで、この男の事だけを思い、一人この世界を生きてきた。


 他の全てを犠牲にしても成し遂げたい、自分勝手なつまらない目的を果たすためだけに。

 



 ◇




 私が生まれたのは裕福な家庭だった。

 お父さんは地元では有名な学者さんで、お母さんはその助手。

 物心がついたときから、お父さんとお母さんと私は三人で幸せに暮らしていた。


 五年前、突然家の近くにダンジョンができた。

 なんでも、ダンジョンの中には未知の技術や新種の鉱石があるらしい。

 難しい事はわからなかったけど、ダンジョンができた事でみんなの生活がもっと豊かになるはずだって、お父さんは私達に喜んで話してたっけ。


 今でも私は幸せなのに、これ以上どう良くなるんだろうってその時の私は思ってたんだ。




 ◇




 ダンジョン内には魔物って呼ばれてる悪い生き物がたくさんいるらしい。

 探索する冒険者さんが何人もその悪い魔物に殺されちゃったんだって。


 ダンジョンで得られるアイテムを調査するためにはまず魔物への対策が必要で、学者の人がいっぱいダンジョンを調べてた。


 お父さんにも毎日のように調査の依頼をしようと、お客さんが何人も家に来ていて二人共すごく忙しそうだった。


 



 ◇




 一人のお客さんがお父さんに会いにやってきた。家に来たのは最近テレビでよく見る有名な男。


 男はお父さんにダンジョン内に入ってより正確な調査をして欲しいって頼みに来た。


 その言葉を聞いたお父さんは険しい顔をして考えてた。少しの間そうしていたら、急に男が地面に頭を付けて頼み始めた。


 たくさんの冒険者を魔物から守るために、お父さんの知識が必要だって。

 何があっても自分がお父さんを守るからって、必死になってお願いしてた。


 お母さんは危ないダンジョンに行くのに反対してたんだけど、男の人が有名な冒険者だってわかったら、自分も一緒に行くって条件を付けて男の依頼を引き受けた。


 もちろん、二人が行くなら私も行きたいって伝えたよ。

 そう二人に言ったら、お父さんは悲しそうな顔をして「きっと帰ってくるから、その間誰かがお家のお留守番しないといけないね。ルミナは他の子よりも頭が良いから、わかるよね」って言われて、仕方なく家に残ることにした。


 それから、二人はいつもの男が家に来る度にダンジョンに行くようになった。

 二人が家に帰ってきても、いつも疲れた顔をしていてすぐに横になって眠ってしまった。起きている時も、ダンジョンの事ばかり調べていて、私が二人と話す機会はほとんどなくなっていた。




 ◇




 何年かそんな生活が続いていたある日の朝、お父さんはダンジョンに行く前に私の体を抱きしめた。


 男との約束でダンジョンに行くのは今日で最後なんだって。

 帰ってきたら今まで遊んでくれなかった分、たくさん遊んでくれるって約束してくれた。


 三人で指切りをしていると男に早く来るように催促されて、二人は私の頭を撫でた後ダンジョンに向かっていった。



 その日を最後に、二人は家に帰ってこなくなった。



 広くなった家の中でお父さん達の部屋を調べたら、魔物についての資料がいっぱい出てきた。


 最後に二人が調べていたのは『セントール』という名前の魔物だった。




 ◇





 テレビにあの男が映っていた。

 ダンジョンのボス攻略について取材を受けていた。

 いくつものチームがボスを倒そうとして失敗して、その男のチームも例に漏れずまた失敗したらしい。


 あれ? 二人は死んでしまったのに、一緒にダンジョンに行ったアイツはどうして生きているんだろう?


 私は男を探すため、ダンジョンに通うようになった。



 ◇




 ダンジョンに通うようになって数ヶ月。

 ついにあの男を見つけた。

 少し離れてスキルで聞き耳を立てていたところ、男の話が聞こえてきた。

 アイツらはまだセントールの討伐を諦めていないらしい。


 男が今度の作戦を仲間に話していると、何度かお父さんの名前が出てきた。

 

 それを聞いて私は少し誇らしくなった。

 でもその後、男は調べた情報が別のチームに漏れないように、お父さん達をセントールの部屋に置いてきたって笑いながら話してた。


 

 途中から話を聞いていられなくなって、走って家に帰った。


 そして両親の遺影の前に立った時、私の決意は固まった。



 ◇



 ダンジョンで機会を伺っていたら、事件が起こった。


 いつも通りに仲間と打ち合わせをしていた男に、中学生くらいの少年が近づいて声をかけていた。


 打ち合わせの邪魔をされて最初は苛立っていた男だったけど、話しているうちに笑顔になっていく。


 最後にはゲラゲラと笑い出し、男が少年の肩を叩こうとした時だ。


 それまで自然に話をしていた少年は、何もない空間から刀を取り出して、男に向かって斬りかかった。


 完全に油断していたはずの男。

 私は目を輝かせて様子を見ていたら、突然少年の腕が宙を舞った。


 そのまま大怪我をした少年は取り巻きが何処かに連れて行って、二度と見かけることはなくなった。


 どうやって腕を落としたのかはわからない。

 でも、アイツは自分が誰かに恨まれている事を知っていた。

 常に見えないところにも護衛に着かせているのだろう。



 ああ、これじゃアイツをーーせない。

 何か方法を探さないと。




 ◇




 ある日テレビを見ていたら、急にダンジョンの特集が流れた。

 いつもなら別のチャンネルへ変えるけど、今日はどこも同じ番組が流れていた。


『番組の途中ですが、ニュースをお伝えします。本日午後0時頃、ダンジョンの第一階層ボス「セントール」が討伐されました。討伐を果たしたのは“カトウカズヤ”という名前以外、すべてが謎の人物です。ダンジョン攻略斑による調査では、火も氷も雷もどんなスキルも無効にしたと言われる「セントール」ですが、彼は一体どう倒したのでしょうか? 当局では彼についての情報を……』


 ダンジョンの情報を聞くと両親の事を思い出してしまうため、嫌な気持ちになってしまう。

 でも、この日のニュースを聞いた時、私の気持ちは昂った。


 お父さん達の仇を、あの男が狙っていた獲物を、彼が倒してくれたお陰だ。


 カトウカズヤさん……か。

 もしも会えたらお礼が言いたいな。




 ◇




 ダンジョン内にある街で一つの情報を聞いた。

 あの男が死に物狂いで人を探しているらしい。


 もし私が見つければ、男に取り入る事ができるだろうか?

 男の信頼を得られれば後は簡単だ。



 ん? ちょうどあそこの広場に似た感じの男がいる。外でなら珍しくはないけれど、ダンジョン内であんなおかしな格好をした人は、他に見た事がない。


 彼には悪いけれど協力してもらおう。


 上手にできるだろうか?

 ううん、大丈夫。お父さんが言ってたんだ。

 私はみんなより頭がいいって。

 だからきっと、うまくやってみせる。


 もしかしたら、彼は危ない目にあってしまうかもしれないけど、私はなんだってやるって決めたんだ。


 だって、二人がいなくなったあの日から私の生きる理由はーー。



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