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24話 打開策を考えよう

 

「本当にこんなところにいるのか?」


「もう、心配性だなぁ。大丈夫だよ。他の人にバレないようにちゃんと隠しておいたんだからっ」


 暗い夜の森に響いたのは若い男の声と、この場に不釣り合いな小さな少女の高い声。


「お兄さん達が街で話してるのを、ルミナこっそり聞いてたんだぁ。お兄さん達、サラリーマンみたいな服を着た人を探してるんでしょ? それで、捕まえたらお金が貰えるって」


「ああ、それはそうなんだが……。嬢ちゃんみたいな小さな子が本当にアイツを捕まえたなんて信じられねえなぁ」


「ま、見ればわかるって。ほら、この人だよ」


 複数の足音が同時に止まる。

 男が足元に目を向けると、後ろ手に両手を縛られて、頭には目隠しの布を巻かれた男がいた。


 うつ伏せに地面に転がるその男を取り囲むのは全部で三人。

 二人は柄の悪い若い男で、もう一人は背の小さな少女だった。


「こ、コイツは! 間違いねえ、前に俺達が見つけた男だ! 嬢ちゃんみてえな子がどうやってコイツを……」


 そう言いながら転がる男の顔を覗きこむ。


「えへへ、凄いでしょ。ルミナが捕まえたんだから、もちろんお金貰えるよね? いくらだったっけ?」


「えっと、それなら三千マ……」


 少女の問いに男が答えようとしたところで、バチン! と肌を打ち付けたような音がした。


「報酬は三千万だが、俺達がいなきゃ金は貰えねぇんだ。だから、手数料って事で三等分になるがいいよな?」


「え〜、そんなにたくさん貰えちゃうんだぁ。そしたらご飯をお腹いっぱい食べられるね! ルミナは構わないよっ」


 頬に両手を当てて嬉しそうな顔で少女は微笑む。年相応と思われる仕草で、目線を空に向けてお金の使い道を思い浮かべているようだ。


 男はそんな少女の様子を一瞥した後、


「とりあえず、コイツを運ばないと行けねぇが……」


「ひぃぃぃ、俺は触りたくないからな!」


 意識のない男に対して、男の一人は怯えた声を出す。


「うーん、何か心配してるみたいだけど……。このお兄ちゃん、ルミナがちょこっと毒を盛ってあげたから当分は動けないはずだよ」


「そ、そりゃあ手際のいい事で」


「こんな小さな子だってのに、女ってのはやっぱり恐いよなぁ」


 不安と安心の混ざった声を出すと、男は髪を鷲掴みにした。

 そのまま男の体ごと引っ張り上げるが、目を開ける気配はない。

 少女の言う通り、ただ眠っている訳ではなさそうだ。


 そのまま、男は体を持ち上げると自身の肩に意識のない男を担いだ。


「それじゃあ今すぐ、ルミナにお金を払ってくれるよね?」


「渡してやりたいのは山々だがな。金を出すのは俺達じゃないし、今は持ち合せがないんでな。また今度でも構わないか?」


「えー、そしたらお兄さん達は何処かに逃げちゃうかもしれないでしょ? ルミナは今すぐお金が欲しいかも。もし、今日くれないって言うのなら……」


「わ、わかった。これからコイツを届けて金を貰いに行くから、金はそこで渡すよ。それで問題ないだろ?」


 ルミナの意味深な発言を聞いて、男が震えた声を上げた。

 自分より一回りも大きな男を捕まえたルミナの事を警戒しているのか、小さな女の子に対する大人の反応とは思えない。


「んー、ルミナはそれでもいいかな。じゃあ早速、依頼主さんのところに連れて行ってくれるよね?」


「……よし、ついてきな」


 男の答えに少女はにっこりと微笑むと、暗い森を進む二人の後を進んで行った。





 ◇





 鼻腔に土の匂いを感じて、次第に意識が覚醒していく。

 目は開いているはずなのに視界は暗い。

 頭に何か巻かれているのだろうか?


 突然置かれた状況に、頭の理解が追いつかない。


 今わかっているのは固い土の上にうつ伏せに寝かされている事と、後ろ手に両手を縛られている事くらいだ。


 意識を失う前にしていた事といえば、ホームの庭でルミナの作った料理を食べていたくらい……。


 って事はこの状況はアイツの仕業か!


 倒れる前のルミナの視線を思い出して胸の奥が熱くなる。

 信用できる奴かと思ったらその矢先にこの様だ。


 怒りを抑えるため歯を強く噛みしめようとして、まだ体がうまく動かせない事に気がついた。

 おそらく、最後に食べたスープのせいだ。


「覚え……よ」


 痺れる口でルミナへの恨みを小さく呟いた。


 アイツが俺を捕まえた理由はわからないが、今はこの状況を抜け出す方法を考えないと。

 視界が塞がれているせいで『変換』のスキルは使えそうもない。


 このままここにいたらロクな結果にはならないはずだ。早くなんとかしないと……。


 焦りで湧き出る汗を感じながら俺が打開策を考えていると、上から声が聞こえてきた。


「バンドウさん、例の男を捕まえてきました」


 男の声で呼ばれた名前に、俺の背筋が凍りつく。


「久しぶりだなぁ!!」


 遠くから耳が痛くなるほどの絶叫。

 その声は大量の怒気を含んでいる。


「あぁ? 気絶してんのか?」


 渾身の一言を聞いてなお地面に寝そべったままの俺に、バンドウが疑問の声を上げた。


「ルミナが眠らせちゃったから、お兄ちゃん当分は動かないかも」


「おい、このガキは?」


「この子がそいつを捕まえたそうなんですが、その……」


 男の声で歯切れの悪い回答の後に、聞き覚えのある声が聞こえた。


「えぇっ! お兄さんの依頼主さんってもしかして、あの有名なバンドウさん!? ルミナ初めてテレビで見たときからずーっと貴方のファンだったんだぁ! まさかバンドウさんがこのお兄ちゃんを探してたなんてさ。ルミナ、役に立てたなら嬉しいなぁ!」


「そうだな、大手柄さ。いつまでも人一人探せないクズ共より何倍もなあ!」


 プライドの高いバンドウだ。

 ずっと探していた俺を前にして、そうとう苛立っているらしい。

 称賛の言葉を浴びても汚い言葉を返す。それを聞いて男達は何も言い返せないようだ。


「このお兄ちゃん隙だらけだったからさ。ルミナが少し優しくしただけで、すぐに騙されちゃってバカだよねぇ」


「へぇ、やるじゃねぇか。それにしても、こんなガキに騙されるなんて本当に鈍臭い野郎だな」


 声と共に俺のこめかみに衝撃が走った。

 小さな何かがガツンと当たり、強い揺れが脳全体を揺らして頭から血が流れる。


「うっ……」


 痛みで口から息が漏れる。

 クソッ! 誰かが俺を蹴り飛ばしたのか?


 しかし、運良く蹴られた衝撃で目隠しの布がズレて辺りが見えるようになった。

 周囲を岩に囲まれた暗い空間、壁にいくつかの松明がかけられている。

 ここはおそらく何処かの洞窟か?


 俺の目線の先には見覚えのある男。簡易的な椅子に腰掛ける男と、男を囲うように三人の人影が見えた。


「約束の物はすぐに用意させるから、少しだけ待ってくれるか?」


「うーん、それも欲しいんだけど……バンドウさんに会えたならルミナは頭を撫でて欲しいなって、ずっと思ってたんだぁ」


 もじもじと少しだけ照れ臭そうにした後に、ルミナがはにかみながら言った。

 顔を少しだけ赤く染めたルミナの様子は、まるで恋する少女のよう。


「くははは、年相応に可愛いところもあるじゃねぇか。そんなにお望みなら、頭以外の全身も俺様が撫で回してやろうか?」


「えぇー! ルミナ、そんなに撫でられたらどうなっちゃうんだろう?」


 バンドウの発言にルミナは両手を顔に当て顔を伏せた。

 必死で打開策を探る俺の気持ちも知らないで、浮かれた顔をしている。


 だが、やり取りを聞いている間に体の痺れが少し和らいだ。

 手も足も多少の力なら入る。

 この調子ならば隙さえあれば走って逃げ出す事もできそうだが……。


「来いよ、俺様からの礼だ。そいつの意識が戻るまで、相手してやるよ」


 バンドウが手まねいてルミナを促す。

 その動きを見てルミナはバンドウの待つ洞窟の奥へと足を進めた。



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