22話 観察力を発揮しよう
洞窟の入り口から少し離れた木に背を預け、中から三人が出てくるのを待った。
さっき戦った魔物は中々の強さだった。
俺が以前に第二階層で出会ったゴーレムと比べても凄まじく強かった。
まあ、スキルが違うっていうこともあるが……。
「こんなに強い魔物がいるとなると、微妙なスキルの日には尚更引きこもるしかないよなぁ」
俺は今後増えるであろう、ホームでの引きこもり生活を思い浮かべた。
弱いスキルの日にはルミナをボディーガードにつけたらいいかもしれないが、彼女は多少強いとはいっても、所詮第一階層で戦える程度のレベルだ。
俺がそんな事を考えていると、
「おーい、お兄ちゃん! お待たせ。ドロップアイテムを取ってきたよ!」
途中で洞窟内に引き返したルミナが、手にアイテムを持って戻ってきた。
急に忘れ物をしたとか言って洞窟に戻っていったから何事かと思ったが、俺が倒した赤鬼のアイテムを拾いに行っていたようだ。
あの二人の冒険者が床にアイテムをばら撒いたせいで見落としてたな。
「はい、お兄ちゃんが倒したんだから、お兄ちゃんの物だよね」
そう言って差し出されたアイテムを受け取った。
ルミナが持ってきた物は赤鬼の皮だ。
もしかしたらのこのアイテムは、まだ誰も見つけてないかもしれない。
第二階層が開放されて少し時間は経っているけど、かなりの強さを持った赤鬼を倒せる奴なんてそんなに多くはいないはずだ。
今はまとまった金もある事だし、このアイテムは今度オークションにでも出してみるか。
「ありがとな。もしこれが高く売れたら、ルミナにも何か買ってやるよ」
「本当? それならルミナは、ハンバーグをお腹いっぱい食べたいなっ」
元気良くルミナが答えた。
ハンバーグなんかでいいなんて、ルミナはやっぱり見た目通りの可愛らしい女の子だ。
でもそのくらいのなら第一階層のオークを狩れば簡単に稼げるはずだ。
ルミナには一人でオークを倒せる力もある事だし、第一階層に行った時にはルミナに安全な狩りの方法を指導してやるか。
「それにしてもアイツら遅いよな。アイテムを拾うだけなのにどれだけ時間をかけてんだよ……」
一向に洞窟から出てくる気配のない冒険者に、俺は苦言を漏らした。
「あっ、そうだ! あの二人ルミナのパーティに入るのはやめとくって言ってたよ。つよぉい鬼を見てやっぱり怖くなっちゃったんだってさ。さっき第一階層に帰るって言って、あっちの方に走っていったよ!」
「そ、そうなのか?」
木陰で考えている間に洞窟から出て行ったのを見逃したか?
ついて来られるのは面倒だと思ってたけど、あれほど俺を慕ってくれた二人だ。
いざいなくなってしまうと、少し寂しい気分になる。
考えながらふと、冒険者が帰った方向に指を指すルミナの手に目を向けた。
「あれ? その手……怪我したのか?」
ルミナの手についている赤い血に気がついた。
いくらか拭き取っているようだが、手の甲に乾いた血液が残っている。
おそらく、洞窟の中で岩にでも手を当てただろう。
「あ、あれれ、本当だ。いつの間に怪我したのかなあ?」
「ちょっと待ってて」
俺はポケットに入れていたハンカチを、ルミナの手に巻いた。
たぶん先に洗った方が良いのだろうが、血が流れすぎるのも良くないはずだ。
ホームに帰るまでは一先ず付けておいてもらおう。
「……優しいんだね」
少しだけいつもより大人びた声で、悲哀を感じる表情のルミナからそう言われた。
予想外の言葉にどう反応していいのかわからなかった俺は、聞こえなかったフリをしてホームへと帰ることにした。
◇
次の日、俺は激しい筋肉痛に襲われながら目を覚ました。
起きた時間は昼過ぎだ。
昨日まですこぶる良かった体調は、普段通りに戻っていた。
薄々感づいてはいたが、日替りスキルの強化が切れた影響だ。
昨日までスキルで強化していた体の部位だけでなく、アイテムまでもが元どおりになっている。
日替りスキルのデメリットはこんな所にもあったようだ。
「いててててて……」
床の上から立ち上がると、軋む体を動かしてホームの広間へと向かう扉を開いた。
扉の先にいたのはたくさんの荷物を散らばらせ、床に座り込んでいる少女。
「んー、こっちの方が美味しいかなぁ?」
床に散らばっていた物は、紙袋に入ったさまざまな種類の食べ物だった。
少女はその中からパンを取り出して小さな口に運んでいる。
「あぁ、お兄ちゃん。ようやく起きたんだ。ご飯を街でいっぱい買って来たから、一緒に食べようよ!」
と、ルミナは普段と変わらない笑顔でそう言った。
一時間後、次話投稿します(たぶん)