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20話 冒険者を助けよう

 

 ドクドクと脈打つ心臓をなだめながら、俺は声が聞こえた方向に走った。

 早く助けにいかないと取り返しのつかない事になりそうだ。


 一気に森を突っ切って、真っ直ぐに進んでいくと開けた場所に出た。


 そこには大きな川が流れていた。

 明るい朝日を浴びて、川の水はキラキラと輝いている。


 俺はルミナの姿を探してキョロキョロと目を動かしながら進んだ。

 ルミナより先に見つけたのは、川のほとりにいた一体のゴブリンだ。

 俺より少し背の低く、醜い造形をしたゴブリンは口の中に入ったスライムを吐き出そうと、必死になってもがいていた。


 いくら魔物とはいえ、このまま苦しませておくのも可哀想ではある。

 俺はゴブリンの背後にゆっくりと近づき、首目掛けてナイフを一振り。


 ハサミで紙を切るようにスッと入った剣先は、ゴブリンの首の肉を骨ごと両断した。


『ゴブリンロードを討伐しました』

『ブルースライムを討伐しました』


 アナウンスが聞こえた頃には、ゴブリンの姿は完全に消滅していた。

 ゴブリンのいた先に視線を向けると、濡れた髪で微笑むルミナがいた。


「もしかして助けに来てくれたの? 一発で二匹も魔物を倒しちゃっうなんて、お兄ちゃんの持ってる武器はすごいなぁ! ルミナも使ってみたいかも」


 俺の手に持っているナイフを見て、開口一番にルミナが言った。

 彼女は別に魔物に襲われていたわけではないらしい。


「とりあえず紛らわしい悲鳴はやめて欲しいんだけど……」


「もしかして、何か勘違いさせちゃったかのかな?」


 特に反省の色を見せないルミナに、俺は頭を抱える。

 放っておいて強化の続きをしようと、俺がホームに戻ろうとした時だ。


 ドオオオンッ!!


 ホームのある方角から爆発音が鳴り響いた。

 思わず音のした方向を見ると、離れていてもわかるほどの黒い煙と共に、悲鳴にも似た叫び声が聞こえてくる。


 戦いの場が移動しているのか、音はだんだんと大きくなっていく。


「な、何? 誰か戦ってるのかな?」


「おいおい、俺の家の側で暴れるのはやめてくれよな……」


 何と戦っているのかは知らないがホーム近くであんな暴れられて、黙って見てはいられない。

 手に入れたばかりの家が壊されたってここじゃ保険も降りやしないからな。


 今日は戦闘スキルじゃないけど、強化したアイテムもあるしルミナだって戦力になるはずだ。


「助けに行くぞ!」


「えー、めんどくさいなぁ」


 あまり乗り気では無いルミナの手を引いて、俺は音のした方へ走り出した。




 ◇




 うるさいくらいに響いていた爆発音は聞こえなくなったが、依然として戦う音が消える様子はない。


「あの中じゃないかな?」


 ルミナが指差した方向をみると、ポッカリと口を開けた洞窟が見えた。

 暗い洞窟の中からは時折、ピカピカと光る閃光。

 戦っているうちに、あの中に逃げ込んだのか?


 洞窟内のドンパチならば放っておいても構わないが、この争いがいつ俺の家に飛び火するかわからない。なら、今のうちに倒しておいたほうが得策だ。


 俺は走ってきた速度を維持しながら、洞窟の中へと飛び込んだ。


 狭い入り口を抜けた先には、大きな空間が広がっていた。

 洞窟の中にいたのは、二人の冒険者と赤色の肌をした人型の巨体。顔の両側から生えたツノ。並の人間ではとても敵わないような筋肉を持つその魔物は、大岩を持ち上げて冒険者へと向かっていく。


「クソッ、なんで俺のスキルが効かねえんだ!」


 冒険者の一人が前に手をかざすと、指先から炎の渦が現れた。

 炎は一直線に赤鬼の顔へと直撃し、小規模の爆発を引き起こす。

 しかし、爆発の余波で出た煙が晴れると、そこには無傷のままの赤鬼がいた。


 もう一人の冒険者も、すかさず近くにあった小岩を大砲のように弾き飛ばした。

 目にも留まらぬ速さで鬼の腹へと岩がぶつかるが、ダメージを負った様子はない。


「そ、そこのアンタ! 助けに来てくれたのか!?」

「早くコイツをなんとかして欲しいっス!」


 赤鬼の接近に怯えて後ずさる二人の男が、俺に気付いて助けを求める。

 その声で、赤鬼も背後に立つ俺達に気付いたらしい。


 逃げ腰の男達はいつでも倒せると判断したのか、進行方向を変えると俺の方へと向かってきた。


 赤鬼は両手に持った大岩を大きく振り上げて、地面へと叩きつける。


 叩きつけられた衝撃でバラバラと砕けた小岩が、散弾のように襲いかかってきた。


「ルミナ!」


 俺は咄嗟に少女の名前を呼んで、体を覆うように抱え込んだ。


 無数の岩の雨が俺の体に次々と直撃する。

 しかし、俺の体は痛みをまったく感じない。

 強化したマントが岩の衝撃全てを殺していたのだ。


「おい、前から来るぞ!」


 冒険者の男の声に反応して、俺はマントから顔を出して前を向く。


 グオオォォォッ!!


 雄叫びをあげながら、俺へと突進してくる赤鬼。巨体に似合わない機敏な動きで、俺が前を見たときには既に奴の間合いにいた。

 赤鬼は目の前まで来ると、力強く拳を握りしめ俺の顔へと拳を放った。


 避けられない……そう俺が判断したと同時に、腰を誰かに掴まれて俺の両足が宙へと浮いた。


「もう! あっぶないなぁ!」


 熊のような耳をつけたルミナに抱えられ、俺の体は地上三メートルを超え宙を舞う。

 そのままカッコ悪くルミナに抱えられたまま後退し、赤鬼との大きく距離を離した。


「ルミナが助けなかったら、お兄ちゃん今死んでたよ? なんで昨日みたいに一撃で倒さないのかな?」


「えっと、今日は調子が悪くてさ……」


 怒りの表情を見せるルミナに対して、歯切れの悪い答えを告げる。

 使いたくたって、今は使えないんだよ!

 そう言いたいところではあるが、グッと言葉を飲み込んだ。


「う、うわああああああ!」


 聞こえてきた男の悲鳴に、ルミナとの会話をやめて目を向ける。

 俺達と距離が開いた事で、赤鬼の攻撃対象がまた男の冒険者に変わったようだ。


「あの鬼をルミナの力で倒せないか?」


「無理だよぉ。ルミナ、第一階層のオークしか倒した事ないし」


 鬼の体はオークとは比べ物にならない体格だ。

 冒険者の放った威力の高そうな爆発でも無傷ときたもんだ。

 ルミナのスキルは強力ではあるが、昨日見た程度の威力ではあの鬼にダメージを与えるのは難しそうだ。


 打開策を考えていた俺は、ふと強化したナイフを思い出した。

 あの鬼は爆発や打撃には耐性があるだけかもしれない。

 だが、このナイフによる斬撃ならば。


 問題はどうやってあの赤鬼に一撃を与えるか、だ。


 あの鬼は力が強いだけじゃなく、俊敏性もある。

 力も強い上に足もあるなんて、パワー型のキャラにあるまじき野郎だ。


 あれ、そういえば今日の強化スキルって人にもかけられるんじゃないか? 物にしか使えない、なんて説明は無かったはずだ。


 そう思いついた俺は、すぐに自分の脚に向けてスキルを発動した。


「やっぱりな」


 試しにジャンプをして見ると、さっきのルミナ程ではないがいつもより数倍高く飛ぶことができた。

 効果を確認した俺は加えて、目、腕、皮膚、顔と思いつく箇所に強化を発動した。


 強化によって得られた体はすこぶる調子がいい。この分ならアイツの体にナイフをお見舞いする事も難しくはなさそうだ。


 鬼から後退りする冒険者が壁に追い詰められた時、俺は鬼に向けて走り出した。


「えっ?」


 人間離れした速度でぐんぐんと速くなる俺を見て、ルミナの口から声が漏れる。


 赤鬼は近づく気配を察知して、振り返ろうとするがもう遅い。

 加速した分の威力をナイフに乗せて、俺は赤鬼の体に向け渾身の一振りを放った。


 小さなナイフを横薙ぎに払った一刀。

 短い刀身のナイフでは鬼の内臓にも届きはしない、そのはずなのに。


 結果はあまりにも呆気ないものだった。


 ナイフから出た剣圧が、鬼の体を突き抜けた。

 一撃を浴びた赤鬼の動きが急に止まり、鬼の上半身だけがゆっくりと横に滑り出す。そのまま下半身と上半身が斜めにスライドして、最後にはドサリ、と両断された体が地面に倒れた。


『赤鬼を討伐しました』


 勝利を告げるアナウンスが俺の頭に流れると、鬼の巨体は溶けるように消えていった。



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