2話 スキルを使ってお金を稼ごう
《日替わりスキル:消滅》
視線を当てる事で対象を消し去る。対象の強さに比例して消し去るまでにかかる時間が変わる。
俺の頭に声と共に能力の詳細が流れ込んできた。
「日替りスキル、消滅か。これってかなり強力なスキルだよな……」
以前ネットで調べた情報によると、当たりスキルと呼ばれていたスキルは『雷使い』や『身体強化』といったオーソドックスな戦闘スキルだ。
冒険者の目的の一つである資源集めにはダンジョン内でアイテムを探すか、モンスターを倒してドロップ品を集めるかの二通りの方法がある。
その中でも強いモンスターを倒す事が、レアなアイテムが手に入る上で効率がいいらしい。
モンスターを倒すにはスキルや武器を使って、ダメージを与える必要がある。
しかし、俺のスキルはダメージを与える過程をすっ飛ばして、いきなり消滅させる事ができるようだ。
日替わりだと言う点が気にはなるが……。
「よし! とりあえず、モンスターを倒して一稼ぎしますか!」
体の内から湧き出る興奮を抑えきれず、俺は光の溢れる広間の奥へと進んだ。
◇
細い通路を抜けた先には森が広がっていた。
大きな木々が地平線の向こうまで続いている。
「すっげえな……」
目の前に広がる森は、明らかに外から見たダンジョンの大きさよりも大きかった。
空には太陽によく似た星までが輝いている。
ダンジョンの中には異空間が広がっている、と雑誌で読んだ事があるが、こうして実際に見るまでは信じられなかった。
暑い日差しに照らされて、全身から汗がにじみ出る。
一先ずは涼しそうな木の影を辿ってみるか。
そう考えて足を踏み出した矢先だった。
森の方から俺に向かって、人影が走ってきた。
「た、助けてくれ!」
「無理無理無理! あーし、こんなの聞いてないし!」
人影が近づくにつれて、影の正体がはっきりとしてくる。
一人は茶髪の男。十代くらいの年齢、色黒で俺より少し背が高い。服装は上下スウェットで、目つきが悪い。
もう一人は派手な化粧の女。明るい金の長髪が腰の長さまで伸びている。ピアスの開けた耳に髪をかけている。歳は男と同じくらい。体は比較的小柄であるが、肉付きがとても良い。走る度に揺れる胸が、俺の視線を離さない。
「ギャギャギャア!」
二人の後ろから聞いた事のない唸り声が聞こえてくる。目を向けると一匹の槍を持ったオークがいた。どうやら逃げる二人の後を追ってきたようだ。
「スキルを試すにはちょうどいい相手だな」
俺は迫りくるオークに目の焦点を合わせた。
スキルの使い方はだいたいわかっている。習得した瞬間に芽生えた本能というか、まるで生まれた時から使い方を知っていたような感覚だ。
まずはオークの持つ槍を見て目に力を入れる。
そのまま槍をジッと見ていると、だんだんと槍の色が薄くなってきた。
更に力を込めると、槍が消える速度が上がり終いには槍が跡形もなく消え去った。
当のオークは突如消えた槍を不思議に思ってか、立ち止まって周囲を見渡している。
次にオークの体全体に視線を向け、消滅スキルを発動した。
直後、オークの口から悲鳴が上がった。
「グオオオオオッ!」
次第に体が消えていくオークの表情が苦痛に歪む。
その後、数秒で全身が見えなくなった。
オークが立っていた場所には奴が身につけていた首飾りだけが残されていた。
その後、俺の頭にアナウンスが響いた。
『カトウがオークキングを討伐しました』
「お兄さん、ちょー強いじゃん!」
アナウンスは金髪の女にも聞こえていたらしく、安心した顔をした後に、俺の腕に抱きついて話しかけてきた。
彼女の豊満な胸がグイグイと俺の腕に押し付けられる。
今まで感じた事のない感触に、ついつい顔が歪んでしまう。
小説とかの主人公ならここでカッコいいセリフの一つでも言うのだろうが、あいにく俺はそんな器ではない。
対応に困って男の方に目を向けると、
「やりー! この首飾りの相場って確か十万くらいだったよな」
消滅したオークのいた場所に行き、オークが落としたであろう首飾りを拾い上げ、持っていた鞄にしまい込んだ。
あれ? モンスターを倒したのは俺なんだから、当然ドロップアイテムは俺の物だよな?
ゲームとかなら倒したプレイヤー以外は一定時間アイテムを拾えなかったりするはずだが、このダンジョンにはそういった機能はないらしい。
まあ、ゲームではないから当たり前なのだが。
「あの……そのアイテムは、俺の……」
仕方なく、俺はか細い声で反論を述べてみる。
「ハァ? おっさん、なんか文句ある訳? 普通さあ、こういうのって最初に拾った人のモンだよねえ? 第一俺達が命がけでコイツをここまでおびき寄せたんだしさ」
男は助けてもらった恩など気にする様子はない。
「おっさんのスキルは確かに強かったんだけどさ。まさか俺らに暴力を振るう訳はないよなあ? 未成年の俺達に手を出したら、おっさん間違いなく刑務所行きだしなぁ?」
別に暴力を振るう気など微塵もなかったが、男の言葉にはイラリとくる。
そもそも、ここはダンジョンだ。日本の法律なんて通用しない場所だから、未成年だとか刑務所だとかは関係ないはずなんだが……。
あまり頭の良さそうに見えない二人だ。
知らないのも無理はない。
「あーし、胸とか触られたんだけどー? マジサイアクー」
好戦的な男の様子を見てか、女の方も俺の腕を突き飛ばすと男の方に駆けて行った。
「じゃあこの首飾りは迷惑料って事で俺らが貰っていくから。文句なんてねえよな?」
男がそう言い残して、俺に背を向けるとダンジョンの出口へ歩く。
正直、モンスターがこれほど簡単に倒せるのなら首飾りの一つくらいあげても良かったが、アイツの態度が気に入らない。
いや、女と一緒だからとか、胸のでかい彼女が羨ましいだとか、そんな妬みの気持ちは一切ない。いやマジで。
俺は男が身に付けている服を見つめた。
その目的はもちろん……。
「よっしゃ、帰ったらこれ売って焼肉食いいくべ!」
「いいねいいねー! あれ? そういえばタッくんの服、なんか透けてない?」
一瞬の内に男が上下に着たスウェットが存在感を無くしていき、パンツだけを残して姿を消した。
自分の服が消えたことに驚いて、男は慌てている様子だ。
ハハハ、いい気味だ。
次に、俺は躊躇う事なく男のパンツを視界に入れた。
生地の薄いパンツは耐久性があまりないらしく、抵抗することなく次元の彼方へと消え去った。
「は? おいどうなってんだよ? おっさん! テメーの仕業か!?」
消えるという事象から、俺を思いついたのか男は振り返り、全裸で俺へと向かってくる。
「はぁ。タッくんって態度は大きいけど、そっちの方は小さいんだぁ。あーし、そういうのマジ無理」
「ーーッ!」
女の方から突然そう言われると、男は真っ赤な顔になり首飾りを投げ捨てて、パンツのあった位置を手で隠す。
女はその様子を見ると、呆れた顔で一人ダンジョンの出口に向かって行った。
「まっ、待ってくれ! これは違うんだ、今日は寒くてちょっとコンディションが悪いだけで……」
手を伸ばして悲痛な声を上げると、男も彼女を追うようにヨタヨタと出口に走って行った。
よしよし、おおよそ想定通りの結果になったな。
俺は男が投げ捨てた首飾りを拾い上げるとそれをポケットにしまう。アイツらの話が本当なら、これ一つで十万円の価値があるらしい。
二つ集めれば俺の一月の給料を簡単に超える金額だ。
「とりあえず、コイツを集めて一稼ぎするとしますか!」
俺は高揚する気持ちを抑えきれず、オークを求めて森の奥を目指した。