17話 力の差を見せつけよう
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俺は意識を失ったルミナを抱えて、広場の隅へと移動した。
ルミナが倒れた後、俺が肌に纏わせた電気を切る前に反射的に体を揺すってしまった。
再度俺がルミナに触れたときには、
「あっあっあっあっ」
と、彼女が口から断続的に艶やかな声を漏らしているのに気付くまで、俺の無意識の攻撃は続いていた。
とりあえず体を仰向けに寝かせておいたが、大丈夫だろうか。
ルミナは未だに白目をむいて、ビクビクと体を震わせている。
この絵面は非常にまずい。
事情を知らない人から見たら、気絶した小さな女の子を介抱する俺は間違いなく不審者にしか見えない。
「おーい、大丈夫か?」
早く目を覚まして欲しい一心で、ルミナの小さなほっぺたをペチペチと叩く。
このままではあらぬ疑いをかけられかねない。
だが幸運な事に、ルミナはすぐに目を覚ました。
目を開いてすぐに、
「ら、らに? かみらりでもおひたの!?」
と赤くなった頬と痺れた口で呟いて周囲を警戒していた。
華奢な体付きをしているが、意外と体力はあるようだ。
少しだけ時間を置いてルミナの痺れが回復すると、彼女の口から疑問の声が出た。
「どうしてルミナはどこのパーティにも入れないのかなぁ」
「さすがに子どもとパーティを組むのは色々心配なんじゃないか?」
小さな女の子と危ないダンジョンを冒険するなんて、ダンジョンにいる間中ハラハラしっぱなしになると思う。
いろいろな意味でさ。
「ルミナ、結構強いんだけどなぁ。たぶんお兄ちゃんなんかよりずっと強いと思うんだけど」
そう言って、俺の方を向いてシャドーボクシングを始めた。シュッシュッと口で言いながら、俺の顔にギリギリ触れないくらいの距離に何度もパンチを繰り返している。
突き出した腕で発生するふわりとした風だけが、何度も俺の鼻先に飛んでくる。
コイツはさっきの感電を俺がやったことに、どうやら気付いてないらしい。
悪意のない無邪気な子どもの発言だとは思うけど、こんなに歳の離れた子、それも女の子から弱いなんて言われると少しイラリとする。
生意気なルミナに大人の強さをわからせてやりたいところだったが、心も大人の俺はグッと気持ちを押さえ込んだ。
俺がもし短気な性格だったら、彼女は今ごろまた地面で体をビクビクさせる事になっていただろう。
たぶん、ルミナがどこのパーティに入れないのはこの生意気な性格が原因だ。
この性格さえなければ能力面では申し分はなさそうではある。
ルミナの持つスキルは『獣人化』という名前から、たぶん動物になるスキルだ。
色んな種類の動物になれるのなら、なかなか有用なスキルかもしれないけど。
スキルの所有者がこんな小さい女の子じゃなぁ。
「あっ、そうだ! ルミナが強いってところをお兄ちゃんに知ってもらえれば、お兄ちゃんもルミナとパーティを組みたくなるんじゃないかな!」
「いやーお兄さんも忙しいからさ」
正直、もう早く帰りたい。
今も電磁波のレーダーで周囲を警戒しているが、大金を持ったままじゃなかなか気が休まらない。
「やだやだ! 一緒に来てくれるまでお兄ちゃんのこと離さないからね!」
がっしりと俺の腰に両手両足でしがみつくルミナ。
俺はまったく悪くはないはずなんだけど、感電させてしまった負い目もある。
めんどうだがちょっとくらい付き合ってやるか。
◇
街から出た後に少し移動して、手ごろな魔物を探す。
今いるのはオークが多く生息している草原地帯だ。
ここにいる程度の魔物なら万が一ルミナの実力が残念だったとしても、俺の『雷撃』スキルで助けられる。
「どんな魔物が相手でも、ルミナなら余裕だよー」
後ろからルミナの元気な声が聞こえる。
もしもの事がないように俺が先頭を歩いているが、ちゃんとついてきているかが心配だ。
しばらく道を歩いているとオークの集団がいた。
草の上で円状に座るオーク達。数は四匹。
俺はひとまず木の影に隠れて様子を伺った。
幸いにもオークの群れは俺達が近くにいることにまだ気が付いていない様子だ。
「いっくよー!!」
突然、ルミナが叫びながら俺の前へと飛び出した。
て、おいおいおい! いくらなんでも無謀すぎるだろ!
声を聞いて、オーク達が戦闘態勢をとる。
飛び出したルミナは拳を前に突き出して、オークの腹を狙った。
飛び出した彼女の体と速度は人間のものではない。
手の先端周辺に黒色の毛を生やし、顔には熊の耳。
拳がオークの腹に直撃し、その衝撃でオークの口から涎が溢れ巨体は吹き飛んでいった。
「うぇ〜、気持ち悪い……」
涎を顔へモロに浴びたルミナは、腕を上げてそれを拭う。
『オークを討伐しました』
つ、強い……。
確かに自分で強いと言うだけの事はあるようだ。
しかし。
残された三匹のオークは、仲間の敗北に怯むことなく槍を構えてルミナへと突き進んだ。
未だ顔を拭うルミナが、その動作に気付く気配はない。
このままじゃヤバイ、と俺はすぐさま判断を下すと、オークの体に狙いを定めた。
出力を調整している暇は無さそうだ。
直線上にいるルミナに当たらないよう、俺は上からの攻撃をイメージした。
すると、
ビカッ!! バリバリバリバリィッ!!
一瞬、有り得ない量の光が辺りを照らした。
空から極大の雷がオークのいる地面ごと抉り取る。落雷はオークの体三つを消しとばして、三匹がここにいたという証拠は、窪んだ地面の上にある首飾りとそこにできた影だけになっていた。
『オークを討伐しました』
『オークを討伐しました』
『オークを討伐しました』
雷撃を見るのはこれで二回目だが凄まじい威力だ。どうして日替りスキルで発現する攻撃スキルは、どれも桁外れの威力なんだろうか?
発動する度心臓に悪いから、少しくらいは控えめにして欲しい。
だいたい地面には電気が無効だって、昔タケシに聞いたはずなんだけどな……。
これほどの威力にもかかわらず、特に疲労が溜まる様子もない。何発だって打てそうな気だってする。
ふと、ルミナを見るとようやく目が見えるようになったようだ。
大気中に残った静電気と黒焦げで窪んだ地面を見た後に、俺の方に視線を向けた。
あ、まずい。
さっきの感電が俺のせいだってバレたか?
勢いよく走ってこちらに帰ってくるルミナに、ビクビクと震える俺だったが、
「す、すっごぉーい! お兄ちゃん超強いんだぁ! これはもうルミナと組んでもらうしかないよね? ね?」
予想に反した反応を見せるルミナに、俺は困り顔でうつむいた。
これなら、感電の事で怒られる方が幾分マシだった。
もう離さないから、と言った意思を込めて満面の笑みで俺の腕に抱きつくルミナ。
まさかコイツ、このままずっとついて来る気じゃないだろうな?
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