表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/29

13話 再会を喜ぼう

日間ローファン1位になり、胸が弾んでいます!

これからも更新を続けていきますので、良ければお付き合いをよろしくお願いします!

 

 背後から声が聞こえて俺は後ろへと振り返った。

 ゼエゼエと息を切らしながら、どこか見覚えのある少女が胸を弾ませて走ってきた。


 明るいセミロングの金髪に整った顔立ちで、相変わらず動きやすさを優先した防御力の低そうなショートパンツを履いている。


 間違いない、初めてダンジョンにきた日に出会った少女『名取クリス』だ。


「はぁはぁ、ちょっと……お兄さんーー」


 途中まで何かを言いかけた少女は、俺の顔を見ると急に言葉を止めた。


 そして、ハッとした表情を浮かべると、


「あっ、カトウさんじゃないですか! またこんなところで何してるんですか!」


「ちょっとアイテムを売ろうかと……」


 俺の返答を聞いた途端に声を荒げて、こちらに詰め寄ってきた。

 それにしてもいくら初心者を騙す悪徳店とは言え、店主のおばさんを前にして“こんなところ”って酷くないか?


「ちょっと、またアンタかい!」


 そらみろ、おばさんが鬼の形相で怒ってるじゃないか。


「毎回毎回いきなり現れて、アタシの……」


「前にも気をつけてくださいね、って言ったじゃないですか! なのに、どうしてまた同じ事をしてるんですか!?」


 おばさんの言葉を遮って、なおもクリスは俺へと続ける。


「こんな店にアイテムを売ってしまったら、後から損した事に気がついて、すっごく後悔しますよ! そんな事をしてしまった日にはきっと、夜も眠れないくらい悔しい思いをするんです! ダンジョンに入って初めてとったアイテムを二束三文で買い叩かれた悔しさを噛みしめながら、枕を涙で濡らして自分の軽率な行動を呪うんです! ああ、もっとよく調べてから行動すればよかったのにって。あっ、これは私の友達から聞いた話で、私はよく知らないんですけどね!」


 ……なるほど。クリスは以前このおばさんにアイテムを売ってしまった事があるのか。それならこの必死さも頷ける。


 でも、少し言い過ぎなんじゃないか?

 おばさんだっていつの間にか涙目になってるし。


「わかった、わかったから。とりあえず向こうのベンチで話そうか」


 クリスの言葉を受けて威勢がなくなり、シュンとしてしまったおばさんの姿を見ていられず、俺はそう提案した。


 近くにいた他の冒険者達も、気がつけばみんなが興奮したクリスに注目している。


 当のクリスもその事を理解したのか、急に顔を赤くして大人しくなった。そして、俺の提案にコクリと頭を揺らした。




 ◇




 ベンチまで移動してきた俺たちは、とりあえず横に並んで腰掛けた。


「すみません。恥ずかしいところを見せてしまいました」


 クリスはてへへ、と言った仕草で頭の後ろに手を回してはにかんだ。

 以前会った時の印象でクリスは大人びた真面目な子かと思っていたが、意外と子どもっぽい面もあるらしい。


「でも、どうしてまたあそこでアイテムを売ろうとしてたんですか?」


「あのおばさんに話しかけたらまた、クリスに会える気がしてさ」


 自分でも恥ずかしくなるようなセリフを言ってみる。


「えーっと……」


 明らかに引いた顔をした後に、クリスは作り笑いを浮かべてきた。


 やめてくれ。そのとりあえず笑っとけみたいな笑顔は俺に効く。


 俺がもっと整った顔に生まれていればこんな結果にはならなかったのに。

 と、自分の冴えない容姿に落胆していると、話題を変えるようにクリスが声を発した。


「そういえば、カトウさんは何を売ろうとしてたんですか? 見たところ沢山アイテムを持ってるみたいですけど。私で良ければ査定しましょうか?」


 気の利いたクリスの言葉を聞いて、俺は当初の予定を思い出した。

 こうしてクリスに会えたのは願ってもない幸運だ。


「ああ、とりあえずこのコア見て欲しいんだけど」


 まずは手に持ったゴーレムのコアをクリスへと差し出す。

 クリスはコアを受け取るとすぐに顔をに近づけてアイテムを見回した。


 時々、顎に手を当てながらじっくりとアイテムの様子を観察して数十秒。


 クリスの口から声が溢れた。


「嘘……こんなアイテム私、知らない」


「えっ?」


「こう見えても私、ダンジョンで見つかったアイテムは本やネットを通して全てチェックしてるんです。見た事のないアイテムはないはずなんですが……」



 クリスの予想外の言葉に、俺の胸が高鳴った。


 全てのアイテムを覚えている記憶力にも驚いたけど、俺が気になったのはそこじゃない。


 クリスはどこからか図鑑のような本を取り出すと、確認するように本をパラパラと見ながら唸る。

 あれ? いまそれどこから出した?


「うーん、見落としてたのかなぁ」


 ダンジョン内では既に千種類を超えるアイテムが見つかっていて、外ではアイテム全てをまとめた本が出版されているらしい。クリスが持っているのが多分それだ。


 その本にすら載っていないアイテムとなると答えは一つ。


「……未発見のアイテム、か」


 俺が小さく呟くとクリスはコアを持ったまま、目にも止まらぬ速さで俺の方へと寄ってきた。


 そして、


「カトウさんの持ってるもの、全部私に見せて下さい! お願いします!」


 また興奮して声を上げたクリスは、通りかかった人達からの冷たい視線も気にせずに、子どものように目を輝かせた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] クリス…親切じゃなく、おばさんに対する私怨だったのか(^_^;) この街、まともな人間が居ねぇw
[良い点] これ窓口に持ってっても買い叩かれるパターンか?
[一言] …人類初の2階層なんだからそりゃなぁ… 調べさせる前に主人公から言った方が良さそうだと思うがとりあえず様子みるのか… ふむ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ