第95話 「三日目 その三」
「こいばな?」
「そっ」
こいばな……って、恋の話のこと? 前にテレビで見たことがあるくらいだけど。
それとさっきの言葉と何の関係があるんだろう?
「えっと、それはどういう……」
「あたしさ、こう見えても今まで数人は彼氏いたんだ」
こう見えてって、こんなに可愛らしい方なんだ。僕と違って恋人の数人くらいいてもおかしくないはず。
実際にクラスでは何度かそういった話も耳にしたことがある。二年生になってから何人かに告白されたという話も聞いた。
いわゆるモテる人なんだろうなあ。
「でもさ、みんなあたしのことを周囲に自慢してくわけ。最初は素直に嬉しかった。けど気付いたんだ、本当はみんな自分のステータス上げでしかないんだって」
「ステータス……」
「そっ。多分あたしのことをトロフィーかなんかみたいに思ってたんじゃないかな」
なんで……なんでそんな風に思えるんだろう? 僕はただただ黙っていることしかできなくなる。
「だからあたし実は恋とかにもう興味なかったの。どうせみんなあたしのことを上っ面でしか見てないんだってね」
「そうだったんですね……」
「だからあたしはもう誰も好きになる気なんてなかったの。あの日、あたし達が出会うまでは」
犬飼さんの言うあの日、一瞬たりとも忘れた日はない。きっとあの日が全ての始まりだったんだ。僕の人生を左右したとも言える――大げさでなく、本当にそう思っている。
「思えばもう一年も経つんだね」
「はい」
「あの日からあたしは取り戻したんだ、人を好きになれる気持ちを。だって、あたしを物として見ないもんね?」
物扱い……。
「そんな人達の気持ちなんて理解できないし……したくもないです」
この感情を何というのだろう。今までに感じたことがないくらい抑えきれない気持ちが湧いて出てくる。
もしかして、この感情こそが怒りなのかな……。そうか、これが怒り……。
きっと許せないんだ、人を物のように扱って――それもこんなに優しくて魅力的な人を。なんでそんな風に扱えるのだろう。
気が付けば悔しさすらも感じ始めている。
今も言ったように僕はそんな人達の気持ちを理解したくもない。
「ふふ、あざまる!」
いつもの様子に戻っている。
やっぱり僕はこの人の笑顔が……。
少しの間静寂が訪れた。ニューヨークの夜景もあってか落ち着いた雰囲気でお互いに心地よさを感じているんだ。いつまでもこの時間が続いていけばいいのに、そういう風に願ってしまうほど。
そんな静寂を破ったのは犬飼さんの一言だった。
「ねえ、わんこ」
「はい?」
「あの、さ」
「?」
「その、さ」
「はい?」
「あたしと、や……ヤってみたい?」
「――!?」
閲覧ありがとうございます!
今回のラストは多分本作の中では結構際どいシーンかと思います。
そこビッチとか言わない。
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