第94話 「三日目その二」
長らくお待たせいたしました、投稿再開です!
「うう……」
本当に来てしまった……。
時刻はもうとっくに夜。本来なら自分の部屋にいなければならないけど、みんな自由に抜け出して仲のいい人達の部屋で集まっている。
そんな中で僕は部屋の前で踏ん切りが付かず入るに入れないでいた。理由は簡単で僕の部屋ではないから。
いつまでもここにいると先生に見つかってしまう。だから早く中に入らないと……。
意を決してドアをノックする。
「し、失礼します……」
そっとドアを開けると中からは仄かに甘い香りが漂い、僕の鼻を刺激する。同時に心臓はもうドキドキしていて顔も物凄く熱い。
思えばこんな状況が出会ったばかりの頃に一度だけあったけ。
「ふぁ、ふぃらっふぁい」
中では犬飼さんが首にタオルをかけ歯磨きしているところだった。見る限りではお風呂上りなんだと思う。だから甘い香りがするのかな。それになんだか目のやりどころに困るのはなぜだろう……。
ちなみに今の恰好は肩が見えそうなくらい大きく開いた可愛らしい柄の寝巻だった。下はかなり短めのショートパンツ。
そのまま洗面台で歯磨き粉を洗い流しに行く。その間も僕はただおどおどしながら立っていることしかできないでいた。
「お待たせ~。マジありがとね」
「え、なにがですか?」
「あたしの言うこと聞いてくれて。まあ座りなよ」
ベッドに腰かけた犬飼さんは隣を指さす。
「し、失礼します」
一歩動き出すのも足取りが重い。緊張しているからなのかな? けどそれも無理はないよね……。だって今までと違って他に誰からも見られない、声を聴かれることもない空間で二人きりなんだ。当たり前だけど今までこんな経験は一切したことないもの。
ガチガチに固まったままベッドへ腰かける。
「ふふ、めっちゃ緊張してる感じ?」
「…はい」
僕に限らずこの場面で少しも緊張しない、平然としていられる人なんて果たしているのだろう? いるとするならそれはきっと凄くカッコいい、所謂イケメンな人だけじゃないかな。
できるだけ冷静さを保とうとしながらミネラルウォーターを一本頂き、並んで部屋の外の景色を眺める。既に時間は夜だし窓の外には夜景が広がっていた。ニューヨークの夜景は幾つもの光に包まれていて、キラキラとした街並みだった。
「ここいい部屋だよね」
「ですね」
さっきまでの緊張が段々と抜けていく。それだけ魅了されるものがあった。
「本当、一緒に見れてよかったなあ。色々あったのも吹き飛んじゃった」
「色々……」
そういえば、修学旅行で忘れかけていたけどこの間までやけに浮かない顔をしていたんだった。その理由が分からずにいた僕は意を決して聞いてみる。
それがもしかしたら嫌な思いをさせてしまうかもしれないということを僕は考えていなかった。
「その……何かあったんですか?」
「えっ?」
「いや、この間までどこか元気がないような顔をしてたので……」
「……!?」
どういった感情からなのか、驚いたような表情をする。もしかして触れられたくないことだったのかな……?僕も言葉を発せなくなってしまう。
沈黙の中で表情が柔らかくなり笑みを浮かべた。
「さっすが、見ててくれたんだ」
「あ、あの、もし触れられたら嫌なことだったら――」
「いや、そんなわけじゃないよ」
頭を優しくなでてくれる。
「実はさ、修学旅行中に……パパとママに会う約束してたんだ」
前に聞いたことがある。ご両親は海外在住で活躍している方なんだと。夏休みにアメリカで久しぶりに対面したとも。
「けど、仕事が入って今ははるか遠くの韓国ってわけ」
「そ、そうだったんですか……」
「そっ。別にマザコンとかじゃないけどさ、会いたかったてのも事実だしね」
そっか……。これで全て合点がいった。ご両親と会えなくなってしまったからどこか浮かない様子だったんだ。そこまでご両親のことを思っているなんて知らなかった。
「高二にもなって情けないのは分かって――」
「そ、そんなことないです」
その言葉は絶対に否定したかった、なにがなんでも。情けなくなんてない、かっこ悪くなんてない。むしろ僕からすれば憧れるんだ。
だって僕にはないから。
「しっかりとした夢を持って理想があるんだから、それは凄くかっこいいと思います」
「……!」
「僕にはそれがないから……みんなと違って夢もなりたいものもないから……」
みんなを見ていると感じるんだ。
なりたいものを見つけて走り出した蓮ちゃんや、夢を叶えて努力し続けている先輩。そしてはっきりとした目指すべき自分の憧れをもっている犬飼さん。
僕にはそれはない。
この間蓮ちゃんが女優を目指すと聞いた時に抱いたやり切れなさはきっと夢ややりたいことがないからなんだと思う。
だから僕にとってはまぶしいくらいに輝いているんだ。
「でも、やっぱり寂しいですよね……」
「うん、寂しい」
それも無理はない。犬飼さんにとってはご両親は自分の理想でもあり憧れでもあるのだから。
体育座りで口元を隠したまま話しているその表情はやっぱりどこか力の抜けたような感じで……。それに対してどういう風に声をかければいいのか、僕には分かるはずもない。
下手に何か言っても逆に傷つけてしまうかもしれない。
「あの――」
「――って、ちょっと前なら言ってたかもね」
「?」
それは全くもって予想外な返答だった。あまりにも予想外だったので呆気に取られたような声が出てしまう。
「いや、寂しくないって言ったら嘘になるけどさ。でも前ほどは感じないかな。だって――」
すると僕の鼻をつんと突いてくる。
「一緒にいてくれる人がいるから!」
目の前にあったのはいつもの明るい笑顔だった。きっと僕はこの笑顔が見たかったんだと思う。この笑顔を取り戻せた。それに少しでも僕の存在が力になれていたのなら、凄く嬉しい。
「あ、ありがとうございます」
「ううん、礼を言いたいのはあたしの方だよ」
「そ、そんな、僕はただ――」
「いや、そうじゃなくて」
珍しく僕の言葉を遮る。
細かい考えまでは読めなかったけど何かを胸に秘めている、それは僕にも分かった。そして、それを吐き出そうとしていることも。
「え?」
「そうだね……じゃあ、ちょっくら恋バナでもしてみる?」
時刻は既に二十二時を過ぎていた。
閲覧ありがとうございます!
そしてお待たせしました!
個人的には今回は結構好きな回です。
なお二人きりの夜はまだ続きます。
思ったこと、要望、質問等があれば感想いただけるとすごくありがたいです。
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次回もよろしくお願いします!




