第91話 「一日目」
飛行機に揺られて約十四時間ほど。その間生徒達はテンション高くなっているせいか、わいわいとした声が機内にこだましていた。
「うう、気持ち悪い……」
「だ、大丈夫ですか?」
そんな中、僕の隣の座席の龍崎さんが乗り物酔いを起こしてしまっている。初めての飛行機だけど僕は何とか大丈夫だった。けれど龍崎さんは酔いに弱いみたいで表情から活気がなくなっていくのが手に取るように分かる。
一応準備しておいた酔い止めのお薬を一粒分けたから少しは良くなると思うけど……。
そんな僕達を見ている犬飼さんの表情は小さく微笑んではいた。だけどやっぱり寂しさを感じさせるんだ。
そんな気持ちだと修学旅行も楽しめないんじゃないかな……。なおのこと心配になってくる。
◇
「うう~……」
「大丈夫あや?」
ひとまず介抱してくれているから大丈夫だと思うけど……。飛行機を降りながら心配な気持ちが強くなる。けど今は目の前の景色が何も考えなくなるくらい僕を圧倒させた。
「ここが……!」
そう、長いフライトが終わりようやくアメリカへ着いたんだ。生徒達のほとんどはアメリカは初めてみたいでみんなその大きさと広さに興奮を抑え切れずにいる。もちろんそれは僕も同じ。
こんなに大きな空港なんて見たことがないや。当たり前だけどふと周囲を見渡せば外国人だらけで、それがなおさら僕達をわくわくさせている。
ちなみに朝十時に飛行機に乗ったのに今は前日の夜八時。時差のせいかな、少し眠くなってきちゃった。この日は到着したばかりだし夜だからすぐにホテルへ直行して就寝し明日に備えることになる。
そのホテルも日本では普段泊まることもないような豪華なものだったんだ。まさに修学旅行という特別な機会だからこそ泊まれる。
その日の夜、ホテルの部屋で寝ようと思っていた僕だけどこの環境に高揚感を感じてしまい中々眠ることができなかった。
一息つこうと一階に降りて自動販売機へ。
「炭酸しかないや……」
コーラやサイダー等炭酸飲料ばかりでお水やお茶はなかった。僕炭酸飲料は飲めないのに……。
「戻ろう……ん?」
フロントへ視線を向けると可愛らしい寝間着姿で電話をかけている犬飼さんの姿があった。向こうは僕には気づいていないみたいで電話に夢中になっている。
その表情は微笑んではいた。だけどそれは楽しそうなものではなくて。
もしかしてここ最近のあの様子に関係あるのかな……?
電話を終えると僕に気が付いたようで手を振ってくる。近づくと凄く甘い香りが僕を刺激してきたんだ。
「どうしたんこんな時間に?」
「いや、ちょっと眠れなくて……」
「あー」
一応厳しくはしていないけれどあまり遅くに部屋の外へ出ていると怒られてしまう。僕達は並んで各々の部屋へ向かっていた。
もう夜遅くで先生達も見回りを終えていたみたい。
「明日は博物館ですね」
「博物館ね~。あたし超絶興味ないんだけど」
「はは……」
「早くブロードウェイ行きたいな」
こうして話しているとそんなにおかしな風には感じないのに。
僕が首を突っ込んでいいのかな……。う~ん……。
「あ、そうだ」
何かに気づいたように指を鳴らす。
「明後日さ、自由行動じゃん?」
「え、ええ」
「誰かと回る予定とかある?」
「いえ、ないですけど……」
僕の返答を聞いたすぐ後にばっと僕の手を取る。突然の行動にピンと体が硬直してしまう。
「じゃあさ、一緒に回ろう! あたしが案内してあげるから!」
「え、い、いいんですか?」
「いいに決まってんじゃん!」
さっきまでとは打って変わりとびっきりの笑顔を見せてくれた。そうか、今分かった気がする。きっとこれなんだ、僕が見たかった表情は。ここ最近のどこか寂しそうな表情をずっと見ていた間、僕も心の中では寂しさを感じてしまっていた。
例え思い上がりだとしても、僕が力になれたのであるならこんなに嬉しいことはない。
「じゃ、また明日ね」
「はい」
エレベーターで別れ僕は自分の部屋へ戻る。ベッドへ入るけれど眠ることができない。頭に焼き付いて離れないんだ。あの服装、あの香り、あの笑顔が……。
この感情がなんなのか、それを理解することは今の僕にはできなかった。
閲覧ありがとうございます!
修学旅行編を描き始めてからどんどんネタが溢れてきてます。思えば二人っきりなのも久しぶりなので(意図的に減らしてたというのもありますが)。
アメリカの自販機が炭酸だらけなのか、先生達の見回りって一晩中じゃないの等思われるでしょうが、ここは創作パワーで見逃していただきたいです笑
特に後者はこの後の展開に結構影響するので。
思ったこと、要望、質問等があれば感想いただけるとすごくありがたいです。
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