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第89話 「二人暮らし?」

 とある土曜日、僕はちょっとした用事で少し遠くの町まで来ていた。親戚が経営しているクリーニング屋さんに預けていた洋服を取りに行ってたんだ。それなりに重い洋服を持ちながら帰り道を歩く。

 この辺りは久しぶりに来たけど、住宅街の落ち着いた雰囲気が心地いいなあ。

 休日の午後の穏やかな気温と爽やかなそよ風が気持ちいい。そんな気分の中、僕はある人とばったりと出くわすこととなる。

 

「あ、先輩!?」

「い、一ノ瀬君!」

 

 先輩と会うのは学園祭以来かな。

 そういえばこの近くに先輩のお家があったんだ。

 

「足は大丈夫ですか?」

「ああ。なんとかね」

 

 学園祭から数日が経ち足は大分回復しているみたいだった。足にはまだテーピングがされているけど、少しづつでも回復しているのならそれはなにより。

 その一方で手には何かのチラシが握られている。

 

「そういえばなぜここへ?」

「この近くに親戚が経営してるクリーニング屋さんがあって」

「なるほどね」

「先輩はどうしたんですか?」

「実はね」

 

 先輩は手に持っていたチラシを見せてくる。それは家の書かれていたチラシだった。つまりは不動産のチラシなのかな。

 

「お部屋、ですか?」

「ああ。私、高校を卒業したら一人暮らしするつもりなんだ」

「そ、そうなんですか!?」

 

 一人暮らしだなんて凄いなあ……。

 

「と言っても実家からそう離れていないけどね。ジムの近くに引っ越すだけだし」

「で、でも一人暮らしだなんて」

 

 一人暮らしだなんてそう簡単にできることではない。

 もう何度同じことを思ったかは覚えていないけど、先輩は凄いや。僕と一つしか違わないのに。やっぱりこの人はかっこいいなあ。

 

「それで……偶然会えたついでにお願いがあるんだが」

「なんですか?」

「その、一緒に部屋を見てもらえないかな? 私はどうにもこういうセンスがね……」

 

 この後は特に予定もない。それに足もまだ完治していないんだよね。なら……。

 

「僕は大丈夫ですけど……」

「あ、ありがとう!!」

 

 そのままマンションの中へ向かう。やっぱり足は痛そうでまだ完治していないということを実感させられた。さすがに学園祭の時よりは楽そうだったけど、僕はただ見ているだけでいられなくて。

 自然と体が動いていた。

 

「先輩」

 

 そう声をかけ僕が支えになる。あの日と同じように。

 少しだろうと痛そうな先輩を僕は見ていたくないから。

 

「あ、ありがとう一ノ瀬君……」

 

 不動産屋さんから紹介されたお部屋は四階の一番端のお部屋だった。早速もらった鍵でドアを開ける。中はそこまで広いお部屋ではないワンルームだったけれど、一人暮らしないし二人くらいならこの広さでも十分なのかも。

 お風呂とトイレは別になっているし日当たりもいい。このお部屋に住んでみたいと思わせる魅力は十分にあると思う。

 

「どう思う?」

「えっと、そうですね。僕としては結構いいお部屋だと思いますけど」

「そ、そうか」

 

 ある程度は僕の意見に共感してくれているようだった。完全に同意できていないのは自分の直観に自信がないからなのかな。少なくともそういうような表情や声のトーンをしている。

 ……まあ僕もお部屋選びに自信があるわけではないんだけど。一人暮らしなんて考えたこともないしね。

 

「先輩はどう思います?」

「そうだな……」

 

 先輩は目を凝らしお部屋の中を吟味する。

 

「広さはこのくらいでいいし家賃も手ごろだし……」

 

 呟きながら先輩は窓の外へ目を向ける。そこから広がる景色は河川敷で子供達が自転車に乗っていたり犬の散歩をしている人がいた。

 そういえばいつだったか、朝早くきなこと散歩していた際に先輩と出くわしたのもこの河川敷の道に続いているとこだったっけ。

 

「ちょうどランニングコースの目の前だしね」

 

 そうか、あの時もランニングの最中だったっけ。

 

「よし、ここに決めよう」

「え、いいんですか?」

「ああ」

 

 こんなにあっさりと決めていいのかな……? 僕の意見を鵜呑みにしているわけではないだろうけど、それでも短い時間で決めてしまっていいのかな。

 まあ、先輩がいいのなら僕も異論はないけれど。

 それに先輩の表情を見れば異論なんて出てくるわけがないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 早朝、私はいつものようにランニングをしていた。残暑が段々姿を失せようやく涼しくなってきているここ数日。朝のランニングはとても気持ちいいものだ。

 顔を出す朝日を眺めながらランニングをしているこの時間は私にとっては落ち着きを与えられる。

 

「はあ、はあ……」

 

 一時間ほどのランニングを終えマンションに戻る。すると私の部屋だけ明かりが灯っていた。そうか、今日も彼が……。

 朝早いため近所迷惑にならないように部屋のドアをそっと開ける。

 

「あ、お帰りなさい」

「ああ。ただいま」

 

 今日も彼――一ノ瀬君が朝食を作っていた。

 彼と私は今一緒に見に行ったマンションで同棲している。高校を卒業した後、大学に進学した彼は進学先の大学が私の住んでいるマンションの方が実家より近いということで私達はめでたく同棲生活を始めたわけだ。

 

「今日は大学はお昼からなんじゃ?」

「ええ」

「なら、こんなに朝早く起きなくても……」

 

 今の時間は朝の五時過ぎ。いくらなんでも早すぎる。もっと寝ていてもいいのに。

 無論私のために早起きしてくれているのは理解しているのだが。

 

「いえ。先輩のためにできること、これくらいしかないですから」

 

 嫌な顔の一つもせずそう答える。本当にこの子は……!

 

「一ノ瀬君……」

「ちょ、先輩!?」

 

 気が付けば私は彼を後ろから抱きしめていた。そうしたくてたまらなかったんだ。

 

「あ、すまない。汗くさかったかな……?」

「い、いえ……」

「しゃ、シャワーを浴びてくるね」

 

 お互い顔を赤く染めそそくさと離れる。

 バスルームへ向かおうとした瞬間、私は足を止める。そして彼の方を振り返った。

 ここまでしてくれているんだ。たまには私の方から……!

 

「その……」

「はい?」

 

 

「一緒に、入ってみる?」

 

 

 

 

 

「――――っぶはあ! い、今のは……?」

 

 目が覚めるとそこは真夜中だった。辺りを見渡せば見慣れた私の部屋。そうか、夢だったのか。いやにリアルな夢だったな。

 けど、良い夢だった……。

 もう一度眠りにつくために私は横になり布団を被る。

 

 ……同棲、か。今の私にはそんなことを考えていられる余裕はない。私はもうすぐ卒業するが彼はまだあと一年あるし、何より彼に選ばれてはいないのだから。

 だけど、今の夢を正夢にしたい。そういった思いが湧き上がってくる。

 もし、もし私のことを彼が選んでくれたのなら。その時は今の夢のように……!

 

 もう一度眠ろうとしても興奮を抑えることはできず中々眠りにつくことはできなかった。明日が日曜日で助かったな……。

閲覧ありがとうございます!


実は今回の後半は元々マルチエンド用に考えていた話です。本当はマルチエンドかifストーリーで出したかったのですがネタが思いつかなかったのでここで出しました。

あ、ちなみに今回ここでネタを使ったからといって勝ち目がなくなったとかそういうわけではありませんのでご心配なくです笑


思ったこと、要望、質問等があれば感想いただけるとすごくありがたいです。

感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!

次回もよろしくお願いします!

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