第86話 「学園祭の後」
色々あった学園祭は終わりを告げた。その日の夜、夕ご飯の時間の話題は当然のように学園祭のこと。
「それにしてもお母さんが格闘家だったなんて」
「一和は知らなかったんだったな。母さんはチャンピオンだったんだぞ」
「あたしが小さいころまでは現役だったよね」
「そうなの?」
僕の疑問に対しお母さんは頷く。
「一和を身籠った時に引退してそれ以降関わることもなかったから、一和が知らないのも無理ないわね」
「写真やトロフィーは全部お祖母ちゃんの家の倉庫に置いてあるからな」
「二児の母親として綺麗さっぱり新しい生活にを送ろうと思ったの」
「そうだったんだ……」
まさかお母さんが格闘家だったなんて。でもその子供である僕は格闘技は今でもあんまり好きにはなれないや……。前に観に行った試合の記憶が今でも離れないんだ。もしお母さんがあんな風に戦ってる姿を見たのなら――いや、そもそも見ることもできないと思う。先輩の時もそうだった。
もちろんだからと言ってそれを否定する気は一切ないけど。
「で、あの子は一和とはどういう関係なの?」
「え? その、去年電車で助けてもらってから仲良くなって」
「ああ、あの時言ってた先輩って彼女のことだったのね」
「うん」
さすがにこうとしか言えないよね。
「真面目そうでいい子だったじゃない」
「ああ。ああいう子が彼女にでもなってくれればいいのにな」
う、う~ん……。それを言われるのは……。だって未だに踏ん切りが付けられていないんだ……。
でも先輩と一緒に学園祭を回っていたあの時間は凄く楽しかった。きっと、きっと先輩と一緒にいる時間はこれまで以上に楽しくなると思う。
この気持ちは僕の中では大きなものになる、それだけははっきりと確信が持てた。
◇
夜、自室のベッドに寝そべっていた。疲れていたというのもあるのだが、何より今日は色々なことがありすぎた一日だったんだ。
今日だけで私はいったいどれだけの経験をしてきたのだろう。目を閉じて考える度に頭が爆発しそうになる。
あの時、あの瞬間。私の唇は確かに彼の額に触れた。その感触は今でも私の唇にあまりにも鮮明に焼き付けられている。
「……」
夢ではない。あの瞬間、間違いなく私の唇が触れたんだ……。そっと優しく触れたその感触はきっと永遠に忘れることはないだろう。
段々と胸の鼓動が早まっていく。それはもう痛いほどに。
「――――!!」
思い出すと一気に顔が熱くなっていく。羞恥に耐え切れず顔を手で覆いながら足をバタバタとさせた。
だが――――。
「うぎゃああ! 足があああ!!」
家中に私の悲鳴がこだまする。足を怪我していたのを忘れてしまっていた……。
閲覧ありがとうございます!
短めですが、今回は学園祭編のエピローグなので。
今回の話を投稿したことで言えるのですが、実は本作はストーリー的には既に折り返しを過ぎています。話数としてはまだまだ続きますが、長編1つと最終章、そこに日常編を+する感じです。
その長編とはラブコメのド定番イベントです。何のイベントかは既に劇中でも触れているので熱心な読者の方がいたら分かるかもしれません。
ひとまずは日常編に戻ります。
思ったこと、要望、質問等があれば感想いただけるとすごくありがたいです。
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次回もよろしくお願いします!




