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第77話 「夢が苦しめるなんて」

「こんなんでどう?」

「キャー姫カッコイイー!」


 学園祭までもう一週間を切っていた。クラスでは衣装が調達できたためみんなが衣装合わせをしている。とはいっても僕は早めに衣装が決まったからみんなとは別に接客を宇藤さんからマンツーマンでみっちり仕込まれていた。


「よーしよし、その感じでいいよいっちー!」

「そ、そうですか?」


 この前撮影したポスターが何故か実行委員に不許可にされてしまったみたいで、それ以降宇藤さんはやたらと気合いが入っていた。よっぽど悔しかったんだろうな。


「そうだ、屋上で乾かしてた看板取りに行かないと」

「あ、じゃあ僕行ってきます」


 屋上で絵の具を乾かしていた看板を取りに行く。みんなは衣装合わせやメイクで忙しいもんね。

 屋上の扉を開くと同時に風がびゅっと吹いてきて目を閉じてしまう。すぐに目を開くとそこには見知った人がいて……。




「あ、先輩」

「……やあ、一ノ瀬君!」


 思えば学校が始まってからはほとんど会えていなかった。元々学年や住んでる地域も違うし最近は学園祭の準備でみんな大忙しだったから。こうして二人きりで顔を合わせるのはあの映画を観に行った日以来かな。


「どうしたんだい?」

「この看板を取りに来たんです」

「へえ、男装女装喫茶かあ。もしかして君も女装を?」

「ま、まあ……」


 さすがに今の恰好は制服で女装はしていない。見られるのは別に嫌ではないんだけど……。


「そういえば先輩のクラスって何をするんですか?」

「私?」

「はい!」


 二学期になってからほとんど会えてなかったから学園祭で何をやるのか気になってはいたけど、未だに聞けていなかった。


「私のクラスはダンスをするんだ」

「ダンスですか!?」

「あ、ああ。LA PUMPのUAEを踊るんだ」

「あれを踊るんですか! じゃあ絶対観に行きますよ!」


 きっと先輩ならカッコよく踊ってみせるんだろうなあ。想像しただけでこんなに絵になるんだもの。僕自身すごく観たいと思う。

 期待とワクワクに満ち溢れた表情で僕は約束してみせた。



 ……だけどそれを言われた先輩は寂しそうに笑っていたんだ。当然理由は分からない。何か気に障るようなことを言ってしまったのかな?

 いくら考えても理由が分からない僕はただただ困惑することしかできなかった。



「あの、先輩?」

「……すまない……」

「え?」


 何で謝ってくるのだろう? その意味はすぐに明らかとなった。



「私は……参加しないんだ……」

「……!!」


 驚きで言葉を失ってしまう。まさか参加しないだなんて思いもよらなかったから……。そのままの表情で先輩は理由を話し始める。


「学園祭の片付け日、つまり日曜日に試合があるんだ」

「試合……!?」


 僕の言葉にコクリと頷く。そうか、参加しないというよりできないんだ……。


「だからその、一ノ瀬君。もしできるのなら、私の代わりにクラスの発表を観てくれないかな」

「僕が……ですか?」

「ああ。できればでいいんだが」

「……分かりました。約束します!」


 僕がそう言うと先輩はそっと微笑んでくれた。けれどその笑顔は僕にとっては凄く寂しさを感じさせるもので……。

 正直に言ってしまえば、こんな表情の先輩を僕は見たくはなかった。


「あ、もう行きますね……」

「ああ、またね」


 ぺこりとお辞儀をして屋上を去る。そっか、先輩は参加しないんだ……。寂しいけれどこれは先輩が選んだこと、なら僕は全力で応援するだけ。

 心なしかな、看板がやたらと重く感じた。




「ふう……」


 彼が去り私一人が残った屋上、秋の風がやけに痛く感じた。


「……覚悟はしていたんだけどな」


 私自身が選んだことだ、当然覚悟は決めている。それに去年だって学園祭は欠席したじゃないか、それと同じこと……。


「同じこと……なわけない、か」


 力なく壁に寄りかかりそのまま座り込む。去年は何とも思わなかったのに。


「……」


 胸の奥がそわそわとし始めていた。これは悲しいという気持ちなのだろうか?

 馬鹿、分かっていたことじゃないか! 断れたものを断らなかったのは他ならぬ私自身なんだ!

 今更になってそんな……!





「う……ひぐ……!」


 目から大粒の涙がこぼれ落ちていく。

 そうだ、悲しいんだ……! 自分で選んだことなのは分かっていても……それでも彼と過ごしてみたかったんだ!

 私にとってはこれが最後の学園祭、最後のチャンスだった。


 私だって一人の女子なんだ……!


 私が上を目指すほど、彼との距離は開いていってしまうのだろうか?

 涙が止まるまでどれくらいの時間が経っただろう。これほどの涙を流したのはいつ以来だろう。


 この先、私はどうすればいいのだろう。


 様々な疑問が頭をよぎりそれら全てに答えを出せないまま私は誰もいない屋上でたった一人涙していた。

 私の夢がこんなに私を苦しめるなんて思いもよらなかったから。

閲覧ありがとうございます!


今回の話も結構前から温めていた話です。初めてるかが弱さを見せたという意味でかなり大きな回だと思ってます。ヒロイン勢で涙を流すシーンがなかったのは実は彼女だけだったので。

いつも強くて凛々しいキャラ作りを心がけてきたのですがそれはある意味今回のためだったような気がします。


さて、今回の話でお分かりになったと思いますが学園祭編は彼女メインでいきます。


思ったこと、要望、質問等があれば感想いただけるとすごくありがたいです。

感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!

次回もよろしくお願いします!

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