第76話 「ポスター撮影」
「じゃあポスターの撮影に行こうか」
今僕は犬飼さんと宇藤さんに連れられ空き教室に来ている。
学園祭まで一か月を切った今は学校中が準備に大忙しで僕達のクラスではホール係は衣装合わせやメイクの打ち合わせをしていたり、料理を作るキッチン係はメニューや価格設定を決めていた。
そんな中で僕が今日するのはポスター撮影。まさか僕がモデルになるなんて。ポスター撮影とあって今はメイド服を着ている。
ちなみに犬飼さんが同行しているのは撮影係を担当させてもらうように宇藤さんに頼み込んだため。
「比奈、どういうポーズで撮る?」
「ふふん、任せなさい。じゃあいっちー、まずはここに座ってくれる?」
言われるがまま床に座る。すると座り方まで細かい指導を受けた。
「じゃあこのおぼんを持ってもらって、片手でピースして」
「は、はい……」
右手で胸におぼんを抱え左手でピースサインをする。これはいったいどういうポスターにするつもりなんだろう?
「そうそう。で、そのまま腕をこうして……」
ポーズを変えられた結果、僕の顔をピースしている左手で隠すような形になった。これじゃ顔が見えないけどいいのかな。僕としてはその方がありがたいんだけど。
すると犬飼さんは表情一つ変えないままスマートフォンのシャッターを凄まじい速度で連打していた。うう、これは凄く……!
「ヤバ、鬼きゃわたん……!」
「いっちー!今度一緒にコミケ行こう!」
「こみ……?」
訳が分からずキョトンとしている僕をよそに二人はヒソヒソと話し始める。
「比奈、後で写真送って」
「一枚二百円でどうですお嬢さん?」
「く〜!」
悔しそうな表情でお財布から二百円を取り出す。お二人はいったい何をしているのだろう……?
そんなこんなでポスター撮影は無事終了した。
「じゃあこの写真で作ってくるね!」
そう言い残して宇藤さんは去って行った。聞けばポスターの編集作業をしなければいけないとのこと。残された僕達は教室へと戻る道を歩いている。
「ごめんね、比奈が変なこと頼んじゃって」
「いえ、クラスのためなら」
「そういえばさ」
「はい?」
「学園祭って一緒に回る誘いとか受けてんの?」
今のところは誰からもそういった話はない。ちなみに去年は自由時間は一人で読書してたっけ。
「じゃ、じゃあさ」
「あ、姫!それと一ノ瀬も!」
教室に近づいた僕達の話を遮ったのは龍崎さんの声だった。
「衣装を相談したいって言ってるから、二人も参加してくれる?」
「あ、はい」
「……ねえあや」
「なに?」
「あやのこと嫌いになってもいい?」
「ダメ」
そのまま衣装の相談に加わる。ちなみに僕の衣装は着たままの状態だったメイド服に即決定した。
脱ぐの忘れてた……。
「よし、こんな感じでいこう!」
「おー!」
大まかなメニューや衣装が決まったことでみんなこれまでよりもやる気を出している。それは僕も同じで、クラスのために尽力したいという思いがあった。
何だろう、去年はこんな風には感じなかったのにな。去年の僕はこういう時はただ見ていただけだった。仕事は真面目にするけど、やる気をここまで感じることはなかったんだ。このクラスがどこかで楽しく思えてるのかな?
だとしたら、それはきっと……。
はっきりと確証を持っては言えないけど今年の学園祭はきっと楽しくなる、そんな予感がした。
◇
「すいません、学園祭のポスターでこういうのはちょっと」
「Whaaaay!?」
いっちーモデルのポスターは実行委員から却下されてしまった。一体何がいけなかったのか……?
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