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第70話 「映画デート2」

「う~ん……」

 

 リビングで携帯とにらめっこしながらもう数十分が経過していた。明後日は練習が休みなのでここは思い切って……と思ったのだが、いざとなると緊張と恐怖が尋常じゃないくらい襲ってくる。それは試合の時の緊張とは全く違うもので、私にはどうしたらいいのか……。

 どういう風に誘えばいいのかも分からないが、断られたりした時のことを考えるとなおのこと畏怖してしまう。

 

 だがこの夏休みを私はほぼほぼ練習に費やしていた。高校生活最後の夏休みを練習だけに使ってしまうのはあまりにも寂しいだろう。もちろん私自身が望んで選んだ道ではあるのだが、まさかその……人を好きになるなんて思わなかったから……。

 

「どうすればいいんだ……」

「何悩んでんの?」

 

 お風呂上りのため髪をタオルで拭きながら瑞人が私の携帯をのぞき込む。

 

「いや、何でもない」

「本当かよ?」

「ああ。あったとしてもお前には言わないよ」

「ちぇ~」

 

 まったく……なんでこんなにやかましく育ったのか……。彼のような大人しくもいい子に育ってもらいたかったんだがな。いや、きっとこれがこの年頃には普通なのだろう。

 そんなことを思っているとソファの隣に腰掛けてくる。そしてあえて小さな声で呟いてくる。

 

「……一和のことだろ」

「っ……!」

 

 な、何で分かるんだこいつは!

 

「図星だろ姉ちゃん」

「お、お前……」

 

 これ見よがしにドヤ顔をしてくる。くう~……図星を突かれてしまったのが悔しくてたまらない。

 

「……な、何で分かった……」

「姉ちゃんが悩んでるのなんてそんくらいしかないだろ。それにさっきから携帯持ってずっと悩んでたし」

 

 こいつめ、隠れて見てたな……! はあ、まあそれは私のミスだから仕方ないか。しかし瑞人に知られると高確率で茶化してくるからな……。

 

「で、何を悩んでんのよ」

「い、言いたくはないな」

「へ~。せっかく俺が協力してあげようと思ったのに」

「お、お前に協力して――」

「言ってなかったっけ。俺、彼女いるんだぜ」

 

 な、なんだと……!? 驚愕の事実に文字通り言葉を失ってしまう。

 私の弟はいつの間にこんなに大きくなっていたんだろうか。思わぬ形で弟の成長を知ることとなった。

 

「だからなんか悩んでるなら相談してみって」

「……実は――」

 

 今回私が誘おうとしているのはとある映画である。普段私は映画など滅多に観に行かないのだが、今回の映画にはかなり興味をそそられたのだ。なのでどうせなら一緒に観に行ってみようと思ったわけである。

 それを打ち明けたところの瑞人の反応はというと――。

 

「はあ~……」

「な、なんだその反応は……」

「いや、たかが映画誘うだけでそんな……」

 

 どうやら呆れているようでそれは大きなため息を吐き出す。た、確かに高校生にもなって……とは思うが……。

 

「た、たかがとはなんだ!」

「あ~そうだなあ……。まあとにかく貸してみって、俺が送ってやるよ」

 

 そう言うと私の携帯を奪い取るように手にする。

 

「やめろおおお!!」

「いでででで!! ギブギブ!!」

 

 思わず寝技をかけてしまう。もちろん試合どころか練習での半分の力も入れていないが。すぐに携帯を取り返した。

 

「ててて……」

「お、送るのは私がする! だから……」

「だから?」

「ぶ……文章だけ考えてくれないか……?」

「ったく……しょうがねえなあ姉ちゃんは」

 

 

 

「これなら間に合うかな」

 

 夏休みももう終わりが見えてきた八月の後半、今日は久しぶりに先輩にお誘いをいただいたんだ。こうして先輩と二人きりになるのはいつ以来だろう。多分あのプールの時以来かな。けどあの時は偶然出会っただけだったし、こうして誘われてとなると随分久しぶりな気がする。

 

「あ、先輩!」

 

 約束の時間より十分早く着いたけどもう先輩は集合場所に着いていた。今日も今日とて、その凛々しく整った顔立ちは凄く綺麗だった。

 

「お、おはよう」

「すいません、お待たせしました」

「いや。私が早かっただけだから」

「あ、先輩。この間の試合おめでとうございます!」

「あ、ありがとう!」

 

 少し恥ずかしさを感じながら目的地へと向かう。実はどこへ行くのかは僕も聞いていなくて、先輩にお任せしている。

 こうして並んで歩くのは前にもあったけど、やっぱり慣れそうにないや。だって、こんなに綺麗な人だもの……。そういう意味では蓮ちゃんの存在は凄く大きいんだろうな。

 ――っと、いけない。今は先輩と一緒なんだ。

 

「それで、今日はどこへ行くんですか?」

「じ、実は映画を観に行きたいんだ」

「映画ですか? いいですねえ」

 

 僕は普段あまり映画館には行かない方だから今どんなのがやっているのかはよく知らない。きっとこういう機会でもないと特撮映画以外で映画館には行かないだろうなあ。

 そうして僕達は映画館へと到着した。

 

「何を観るんですか?」

「こ、これを観ようと思うんだけど……どうだろう?」

 

 先輩は館内のポスターを指さす。

 

「あ、ニャッツ」

「そう!」

 

 ニャッツ、僕は名前くらいしか知らないけど確か猫達の物語を描いた大ヒットミュージカルの映画化ってニュースで言ってたっけ。元のミュージカルはあまりにも有名で全世界で公演しているほどの大ヒットミュージカルらしく、その映画化ということでニュースでも取り上げられていた。

 そっか、猫好きな先輩なら興味を持つのも当然かも。

 

「じゃあチケット買いに行きましょうか」

「ああ!」

 

 意気揚々とチケット売り場へ向かう。いったいどんな映画なんだろう? 不思議と僕はワクワクしていた。

 

 

 

 映画が終了しぞろぞろと観客が出てくる。その波に乗って僕達も外へ。……けれどその表情はどんよりと沈んでいた。

 なぜか、それは映画の内容が原因なんだ。なぜならCGで役者さんを猫のようにしているビジュアルがその……ちょっと僕達には……。それは他の観客も同じだったみたいで、上映終了後には場内が異様な空気に包まれていた。

 

「その……だ、ダンスが凄かったですね!」

 

 何とかこの空気を変えたいがために話を振った。実際ダンスや歌は凄く良かったと思う。

 けど先輩の表情は変わることはなかった。心なしかげっそりとしてるような……?

 

「その……すまなかった……」

「い、いや、そんなこと! 楽しかったです!」

 

 やっぱり相当ショックだったのかな……。猫好きな人は尚更ショックだったのかも。

 

「まさかあんな映画だったなんて……予告編を見た時はそこまで気にならなかったんだが……」

 

 一息つこうとベンチに座っているけど、未だに先輩は落ち込んだまま。

 

「先輩……そんなに映画に期待してたんですね……」

「いや、違うんだ」

 

 先輩は首を横に振る。その意味が僕には分からなかった。映画の内容に落胆していたんじゃないのかな? 僕はてっきりそうだとばかり思っていた。

 すると俯いていた先輩が顔を上げる。その顔は赤く染まっていた。

 

「私は……君と一緒に来れるのが嬉しかったんだ。なのにせっかく一緒に観たのがまさかあんな内容だったなんて……」

 

 それを聞いて一気に顔が熱くなっていく。そっか、先輩は僕と来れたこと……!

 

「そ、そんな……僕は気にしてないですよ。それに……」

「それに?」

「ぼ、僕も、先輩と来れて嬉しいです……誘ってくれて嬉しかったです……一緒に観れて嬉しかったです!」

 

 一瞬顔を合わせるもののすぐさま互いに目を逸らしてしまう。その顔は二人そろって真っ赤になっていた。

 冷静になって考えてみると僕なんてこと言ってるんだろう……。噓偽りのない本心なのは間違いないんだけど……。

 

「あ……」

 

 先輩が小さな声で呟いた。その声に反応し僕は先輩の方へ視線を戻す。同じように先輩も僕の方を向いた。その表情は柔らかで優しそうな笑みだったんだ。

 

「ありがとう一ノ瀬君……」

「い、いえ」

 

 やっぱり落ち込んでいるのは先輩らしくない。いつでもかっこよくて優しい先輩に僕は憧れてるんだもの。

 

「君は本当にいい子だね」

「そ、そんな……」

 

 先輩は僕の頭に手を置きそっと撫で始める。それはまさに猫をあやすかのようだった。僕はそれをただ受け入れているだけ、けどそれが物凄く心地よい。

 この姿を道行く人達はどう見てるんだろう。姉弟かな? それとも――。

 そうしているうちに何だか凄く申し訳なさが湧いてきた。

 

「先輩」

「ん?」

「その、答えが出せなくてすいません……」

 

 もう今は八月。気が付けばあの日から半年経っているんだ。その間色んなことがあった。蓮ちゃんが戻ってきたりしたしクラス替えで犬飼さんと同じクラスになったり、プールで先輩に泳ぎを教えてもらったり、蓮ちゃんにキスされたり……。

 でも僕は未だに迷い続けている。自分でもダメダメなのは分かってるんだけど、どうしても答えは出せずにいるんだ。あんなに素敵な人達なんだ、本音を言えば優劣なんて付けたくない。でもそれじゃいけないんだよね……。

 

 そんな思いがあったから自然と先輩に謝っていた。それを受けての先輩の反応は――。

 

「そうだな、気にしてないといえばウソになるかな」

「ですよね……」

「けど、不思議と怒る気持ちにはなれないな」

「え?」

「何でだろうね。君が私の……ペットだからかな?」

「先輩……」

 

 少しだけ心が軽くなったような気がする。もちろんこれに甘えるわけにはいかない。ちゃんと二年生のうちには答えを出す。

 でも、今のこの瞬間だけはこの人に甘えていたい、そう思ってしまう。

 

「ありがとうございます」

「いや」

「お~いい感じじゃん姉ちゃん」

 

 二人して後ろを振り向く。ベンチの後ろから覗いていたのは……瑞人君!?

 

「な、なんでお前ここに!?」

「いや~たまたま映画観に来たら偶然見かけたからさあ」

「そ、そんなわけあるか!!」

「それじゃあお二人さん後は楽しくね!」

「お、お前って奴は!待て!!」

「はは……」

 

 聞かれてたのかな……!? もし聞かれていたのなら僕は――いや、僕よりも先輩の家での方が……。けどそんな不安よりこの瞬間が凄く楽しかった。

 

 

 もし、もし僕が先輩の告白を受けたのなら……こんな風に毎日が楽しくて飽きないのかな。

閲覧ありがとうございます!

しばらくは週一ペースでの投稿になると言いましたが、思ってたよりも書き溜めできたので少し早く投稿します。現在研修で泊まり込みなので執筆できませんがしばらくは投稿できるくらいには書き溜めてるので。主人公なのに約1ヶ月ぶりの登場というこの扱い…。


さて、今回の話ですが半分実体験です。笑

元ネタの映画版観に行きましたが、まあトラウマになりましたね笑自分史上初めてエンドロール中に席を立ちました。


感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!

次回もよろしくお願いします!

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