第68話 「一緒にいたいけど」
「ふむ……」
ママは紙を眺めてる。それをあたしは黙って見ていた。その瞬間はとても静かで、しかしあたしの心臓は今にも大爆発しそうになっている。
緊張感に耐え切れずに言葉を発した。
「どう?」
「うん、五十五点ってとこね」
「……はあ~……今回は結構イケると思ったんだけどなあ~……」
ママが見ていたのはあたしがデザインしたもの。体験講義で学んだことを活かしていくつかデザインしてみたんだけど、見事玉砕。
ママは超厳しいけど今回は結構自信作だった。でもダメかあ~。マジショックなんですけど……。全身から一気に力が抜けていった。
「姫、ここの色使いは大きなマイナスよ」
「え~、いいと思ったのに~」
それからママのダメだしが始まった。これも久しぶりだけどやっぱ悔しいなあ。ママとパパがアメリカへ行ってからもあたしはあたしなりに研鑽は積んでたつもりだし。
いやまあ確かに遊んでた時もあったけどさ……。
「はあ~マジショック~」
あたしは気だるげに机にうつ伏した。結構自信作だったからその分ショックも大きい。ママの採点に打ちひしがれていた。
けどそんなあたしにママは柔和な表情を見せる。
「けど姫、前に比べれば格段に良くなったわよ」
「……本当?」
「ええ」
チョロいのかもだけどちょっとだけ機嫌が直った。ママから素直に褒められたのなんていつ以来だろ? 仕事のことにはとことん厳しいママだからこれまで中々褒められたことなんてなかった。
今まで何百何千というデザインを見せてきたけど、高評価をもらえたのなんて本当に数えるほどしかない。あたしは娘だからなおのこと厳しいというのもあるだろうけど。
でも今日は久しぶりにママに褒められた気がするな。それが凄く嬉しかった。
「まだまだ改善する必要はあると思うけど、若いあんたなら十分時間はあるわよ」
「うん……うん!」
「アメリカに来た甲斐はあったようね」
ああ、アメリカに来てマジよかった。
◇
時間が経つのも早いものであっという間に帰国の日。この三週間、ロスで講義を受けた後ニューヨークの二人の家に行きショッピングしたり美味しいもの食べたり観光したり……。日記にすれば余裕でノート一冊分埋まるくらい色んなことを体験してきた。
でもいつまでもここにいるわけにはいかない。学校ももうすぐ始まるし、それに日本には……。
「荷物は送れたか?」
「うん」
二人が空港まで見送りに来てくれた。忙しいのにわざわざ時間を空けてくれたんだ。
「じゃあ修学旅行の時に会えたら」
「十一月だったかしら? 楽しみにしてるわね」
「元気でな」
「うん……」
したくなくても俯いてしまう。別に一生会えないわけじゃない。なのに……! あたしは耐えきれずパパとママに抱きついていた。
「姫……」
小刻みに震えるあたしの背中をそっと優しく撫でてくれる。もう高校生なのに……情けないのは分かってるんだけど……それでも、それでもやっぱり……! この三週間、パパとママと久しぶりに過ごして、凄く楽しくて! 大丈夫なんて思ってたけど、やっぱりあたし寂しがり屋なのかな……。
「ごめん、しっかりしなきゃってのは分かってるんだけど……!」
「姫」
パパとママは二人であたしを抱き返してくれる。それは他の人にはない、パパとママだけが持っている温もり。
「姫、確かに私達は一緒にはいられないけど、あなたはひとりぼっちじゃないでしょ?」
「ママ……」
「この三週間だけで充分分かったさ。日本でいい友達に恵まれてるんだってね」
「パパ……」
涙を腕でゴシゴシと拭きりピアスにそっと触れる。そうだ、あたしは独りじゃないんだ。もちろんパパとママに会えないのはちょっち寂しいけど、みんながいれば大丈夫だよね。
それにあたしには……!
「ねえパパ、ママ」
「なんだ?」
「もしさ。修学旅行の時に会えたら……あたしの友達紹介していい?」
今はこういうしかない。でも修学旅行の頃には『あたしの彼氏です!』なんていえたらいいな。そのための道のりはまだまだ厳しいけどね。
「ええ! 是非連れてきて!」
「楽しみにしてるぞ!」
「うん……うん!」
空港に搭乗開始のアナウンスが流れた。いよいよお別れの時間。
「あ、もう行かないと」
「ああ」
「気を付けてね」
寂しさは……まだ残ってる。けど涙はもう出てない。
「じゃあねパパ、ママ!」
バッグを持ち搭乗口へ。
「帰ろう、日本へ」
夏休みはあと僅か、色々やり残したこともないとはいえない。けれどあたしは夏休み中は彼には会うつもりはない。だから次に会えるのは登校日かな。
ふとスマホで検索してみると先輩の試合結果が出ていた。そっか、先輩勝てたんだ。なら日本へ着いたらちゃんと祝福しないと。
それに何より……すぐには無理でも早く会いたいな。
そんなことを思いながらあたしは眠りについた。みんなに会いたい気持ちを胸に秘め。
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