第7話 「新しい出会い」
あれから数日。僕達の関係は何も変わることなく過ぎていった。距離が縮むことも、反対に遠くなることもない。相変わらず僕は犬飼さんに振り回される日々を送っている。
そんな日々に満足感を感じ始めていた十二月の中頃。今日は期末テスト最終日だ。毎日のように勉強を教えていた成果が出るといいんだけど……。そんな不安を抱えながら電車に揺られている。テスト期間はしっかり勉強しないといけないためにお散歩はなし。
それにしても今日は通勤ラッシュと重なってしまったせいか、電車もぎゅうぎゅう詰め。ツイてないなあ。
「っん……」
なんだろう今の感触。お尻のあたりを誰かに撫でられたような? くすぐったくて高い声が出ちゃった。
まあバッグか何かがちょっとぶつかっただけだと思うけど……。これだけ人が乗ってるんだから仕方ないよね。
そう思っていた矢先のこと。
「ひ……」
まただ……。今度はちゃんと感触があった、間違いなく人の手だった……!! そんな、これってまさか!?
いや、まだ何かの偶然ということだって……。
「……!!」
撫でられるような感触……。まさか痴漢!? 僕男なのに!?
ここで大声を出せればいいんだけど怖くて声が出ない……どうしよう……!?
「何をしているんだ?」
その声にはっとして振り返る。そこには僕のお尻付近にある手を掴む女子高生の姿があった。制服を見るからに僕と同じ高校みたいだ。
背が高くスリムなスタイル、黒くセミロングの艶やかな髪は後ろで結ばれている。凄く綺麗な人だけど今まで見たことがない、学年が違うのかな。
「あ、あの……」
「安心してくれ、もう大丈夫だ」
その人は次の駅で降り僕に痴漢をしてきた男性を共に駅員さんに預けてくれた。大事になるのはいやだったけど自分の身を守るためだと説得されたので、事情聴取だけされて今日のところは返してもらった。駅員さんによると学校へ連絡してくれたそうで、後日追試を受けさせてくれるみたい。
けど、本当に怖かった……!
「まったく、男に痴漢とはどうしようもない奴だな」
「あ、あの、ありがとうございました……」
目に涙を浮かべながら深々と頭を下げ助けてくれたお礼を言う。この人がいなかったらどうなっていたか、本当に感謝しかない。
「いや、大丈夫だったならいいんだ。テストには間に合わなかったけど」
「あの、その制服を着てるってことは僕と同じ高校ですよね?」
「あ」
今になって気がついたようで僕の制服を見回す。
僕よりも背が高いため屈むように校章に視線を向けた。こんなに綺麗な人にまじまじと見られるのはちょっと照れるな……。
「そうか、同じ高校だったのか」
「は、はい。僕は一年の一ノ瀬一和です……」
再びぺこりと頭を下げる。
「私は二年、颯るか。よろしく」
互いに名乗った後に帰宅することとなったけど、僕は何かお礼がしたいと思っていた。
「あの……助けていただいたお礼に何か――」
すると先輩は僕の口を指で抑えてきた。そんなことをされれば僕は言葉を止めざるをえない。
先輩は優しく微笑み語りかける。
「そんなことは気にしなくていいさ。私は大したこともしてないしな」
「で、でも……」
俯くしかない。助けてもらったにも関わらず何も恩を返さないわけにはいかないから。これは昔から僕の家での家訓に近い。昔からお父さん達にそう教え込まれたんだ。
何も言えずにいた僕だったけど、そんな状況を見かねてか先輩が声をかけてくれた。
「そうだな、そこまで言うのなら……」
何かを考えるように悩む。そんな姿にどこか似たような記憶がふとよぎった。気のせいだろうか?
「まあ、今度学校で逢えたらその時に考えておくよ。それでいいかな」
「は、はい!」
了承したところで別れ僕達は帰路へ着いた。凄く良い人だったな。今日のこともあるしできるのならまた会いたい。
そんな思いを胸に秘め僕は帰りの電車に乗った。さすがにあんなことはもうないよね。
「颯先輩、かあ」
また会えるといいな。凄く良い人だったし、今日のこともあるし。そんなことを思い浮かべながら僕は電車に乗り込んだ。さすがにもうあんなことは起こらないよね……。
◇
彼の姿が見えなくなった頃、私は駅の壁に寄りかかり深く息を吐く。と同時に私の頭の中を駆け巡っていたのは――――。
「一ノ瀬一和君、か……」
か……かわいい……! 何なんだあの子は!? 動物のような愛らしさ! 思わず撫でたくなるほどの愛くるしさ! 抱き着きたくなるくらいの小ささ!
そう、まるで……あの可愛さはまるで……!
「にゃんこ……!」
閲覧ありがとうございます!
ブクマしてくださった皆様ありがとうございます。本当に励みになります。
電車で痴漢されるラブコメ主人公は自分の知る限り初だと思います笑
そして新キャラ兼新ヒロイン登場です!今書き溜めている時点では実は彼女が個人的なお気に入りです。
感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!
次回もよろしくお願いします!