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第56話 「寂しさを埋めるために」

「ゴメンこんな時間に」

『いえ、大丈夫ですけど。どうしたんですか?』

 

 夜の九時過ぎ。あたしはわんこにLIME通話をかけていた。無理なのは分かってる、それは重々理解してるんだ。

 でもあたし、やっぱり強くないのよね。

 

「あのさ、もうすぐ夏休みじゃん?」

『ええ』

「実は……」

 

 生唾を飲み込み意を決する。

 

 

「アメリカ……行かない?」

『え、ええ!? アメリカ!?』

 

 い、言っちゃった……。何バカなこと言ってんだろあたし……。

 通話だから見えていないのにコクリと頷く。

 

『い、いや、すいません。いきなりで……』

「ふふふ、ゴメンね急に。さすがに無理なのは分かってるから。ちょっと聞いてみただけ」

 

 そりゃ無理に決まってんじゃん。バカじゃないの……。

 

『えっと、でも修学旅行で行くんじゃ……』

「あ~」

 

 あたし達の学校は私立ということもあって修学旅行は毎年海外へ行く。この前聞いたところによると先輩は去年はハワイに行ったらしい。

 で、あたしらの代はなんとLAロサンゼルス。つまり無理に夏休みに行く必要はない。まああたしは体験講義があるし、ママ達もいるからっていうのがあるけど。

 

「いや、実はあたし夏休みにアメリカ行くんだ」

『そうなんですか?』

「うん。ほら、前にアメリカにパパとママがいるって言ったじゃん?」

『ええ。覚えてますよ』

「そう。それで会いに行くんだけど……」

 

 そんなつもりはなくても口ごもってしまう。分かってるんだ、こんなのただのワガママなんだって。

 

「……」

『……どうしたんですか?』

「あ、ううん! なんでもない! おやすみっ!」

 

 逃げるように通話を切ってしまう。やっぱ言えるわけないじゃんそんな自己中……! 結果的にどうやっても無理だとしても、そんなん言えないよ。だって……結局あたしの自分本位だし。

 それが自分だけならまだしもさあ……。

 

 別に一人で海外へ行くのが心細いとかではない。そんなの一人暮らししてるあたしにとっては大して問題じゃないし。

 じゃあ何が問題なのかって? そんなの……不安なのに決まってんじゃん。パパとママに会えるのはいい、けどこの一年の成長を見せるのが不安なの。あたしなりに色々勉強してきた、そこは自信を持って言える。けどそれをいざ見せるとなったら……やっぱり怖い。ママは今や海外で活躍してるレベルの人だし娘だからって絶対に甘くはしてくれない。

 やっぱり一人じゃ怖いし……。でもだからって無理矢理に頼むなんて……。

 

「はあ……超ビビりじゃんあたし……なっさけな……」

 

 

 

「様子が変だったような……?」

 

 いったい何の電話だったのだろう、僕にはさっぱり――――と少し前までなら思っていたと思う。だけど今の僕は違う。曲がりなりにもこの半年間を過ごしてきてるんだもの。

 きっと何かしら理由があって寂しさを感じていたんだと思う。そのはっきりした原因までは分からないけれど、だから僕を誘ったんだ……と思う。

 それは以前も感じた、あの人の弱さ。普段は誰よりも明るく活発で、クラスの人気者。そこに気が付いている人はどれだけいるんだろう。

 だとしたら僕の出番なんじゃないかな。だって、僕は!

 

 さすがにいきなりアメリカなんて行けないし僕にはパスポートもない。だから一緒には行けない。……だけど、僕にも何かできることはないのかな?

 

「う~ん……」

 

 悔しいけど今すぐには答えは出そうにない。でもまだ時間はあるはず。何ができるかを考えてみよう。

 

 

 そうして時間は過ぎていったある日の朝、僕達は一緒に登校していた。

 

「はあ、マジ暑くなったね~」

「はい……」

 

 すっかり暑さが本格化し太陽を少し浴びればすぐに汗が出てくる。最近のこの時期はすっかり猛暑として扱われるくらい暑い。

 そんな暑さより僕は目のやり場に困っていた。だって……夏服に衣替えしてから……。

 

「どうしたの?」

「いえ……」

 

 もうちょっと制服を……。だって今の恰好は薄いワイシャツ一枚だし、うっすらと下着が透けてるし……。ただでさえスカートも短いのに……。

 でも今の僕にはそんなことを気にしてる暇なんてない。やらなきゃいけないことがあるんだ!

 

 

「あ、あの!」

「ん?」

 

 鞄の中に入れてあった物を震える手で差し出す。僕にできる最大限のことをしたんだ、怖がらず自信を持たなきゃ!

 

「こ、これを……」

「これは……?」

「LIMEのプロフィールに書いてあったのを見たんで……気に入るか分からないですけど……!」

 

 

 

「「おめでとう姫!」」

「おめ~」

「おめあり!」

 

 そう、今日は七月七日。実はあたしの誕生日。まあ分かってたかもだけどあたしの名前も七夕から取ったもの。昔はぶっちゃけ気に入らなかったけど、今は良いと思ってる。

 そんな話はさておいて、お昼休みにみんなが祝ってくれている。

 

「あれ? どうしたのそれ?」

「これ?」

 

 自慢げに見せてみる。岬の言うこれとはあたしの耳に付けられているピアス。派手すぎないデザインだけど可愛らしさがあって超お気に!

 

「まあちょっとね!」

「え~教えてよ~」

「や~だよ~だ!」

「ま、何があったかはすぐに分かるけど……」

 

 三人は視線をわんこへ向ける。で、肝心のわんこは朝からずっと真っ赤な顔でボーっとしていた。ちょっちやり過ぎたかも?

 

「いったい何したん?」

「ま~……色々!」

 

 本当はただブチアゲ状態で鼻にキスしちゃっただけなんだけどね。いや、だけってのもあれだけど。あたしだってそんな誰かれ構わずしてるわけじゃないし!

 ネットで調べたことがあった。鼻へのキスが表すもの、それは愛着の表現。愛着のあるペットだと思ってる相手に――本来は男からするものらしいけど――するものらしい。それってあたしにめっちゃピッタリじゃん! ……まあ機会がなかったんだけどね……。けどようやくその機会が訪れたってなわけよ。

 言っておくけどただプレゼントをくれたってだけじゃない。これをくれた時の言葉が……本当に嬉しかった……!!

 

 

『僕は……アメリカには一緒にいけません……。』

『ま、まあそうだよね。いやごめん、あたしも無理なのは承知で――』

『け、けど! これを……これを付けて僕を思い出してくれたら……!』

 

 もしかして、いや間違いない。あたしがどういう思いで通話したか見抜いてたんだ。そこまであたしを理解してくれるようになっていたことが、何よりも嬉しかった。あたしがわんこを必要としていたことを……。

 確かにあたしのワガママに過ぎない。でも、必要としている気持ちは決して生半可なものじゃない! だからこそ、涙が出そうになるくらい嬉しかったの!

 でも生憎口にされるのは本人も困るかもしれないと思った。だから、鼻にしちゃった。

 

「ヒュー。ブラってんね~」

「やめてよも~!」

 

 間違いなく言えることが三つある。寂しくも心細くもないとはいえないけど、めっちゃ和らいだ。自信を持ってアメリカへ行けるはず。

 それに……今日は人生最高の誕生日になったってこと!

 

 

 そして三つ目は……あたしがいない間のこと。身勝手かもだけど、ちゃんと二人に話さないと。頭下げてでも。今すぐには無理かもだけど……。

 でも、負けるのは嫌だから。そのためにならあたしはどこまでだってワガママになる。

閲覧ありがとうございます!


キスの意味は調べました笑


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