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第47話 「夢の国の終わり」

「ここは……!」

「そっ! スプラッシングマウンテン!」

「うわあ、おっきいな~」

 

 久しぶりに来たけどやっぱり大きくて圧倒されてしまう。スプラッシングマウンテンは超人気アトラクションで、三大マウンテンの一つとされている。

 このアトラクションの特徴は最後の落下シーンで写真撮影があること。もしかしてこの写真撮影を目当てにしたのかな……。

 

「さて、ここで一つ問題が」

「問題?」

「このライドは二人席が四列っていう構造なんだけどさ」

 

 それを聞いた瞬間、先輩と蓮ちゃんの目の色が変わった。ま、まさか……!

 

「あたしがわんこの隣に座る!」

「わ、私が一ノ瀬君の隣に!」

「ボクがいっくんの隣に座る!」

 

 メラメラと燃える炎が見えるのは気のせいかな……。

 ここは例によってじゃんけんで決めることとなり――。

 

「く……なぜ……!」

「もう! ガチ萎えなんだけど……!」

 

 じゃんけんの結果勝ったのは先輩だった。悔しさを露わにしている二人を横目に先輩はすごく嬉しそうにしている。

 ぼ、僕の隣というだけでそんなに嬉しいのかな? あまりにも喜び方が……。

 

「やった……やった……!!」

「せ、先輩?」

 

 待ち時間は長かったけど、談笑していればあっという間。いよいよ僕達の番。

 久しぶりだからなんだかドキドキしている。いや、最後の落下を考えてしまうのもあるんだけど、それよりも大きな理由は僕の手をぎゅっと強く握る先輩にある……。

 

「せ、先輩……?」

「お、終わるまではこうしていていいかな……? 頼む……」

「い、いいですけど」

「「グルルル……!」」

 

 なんだろう、後ろから獲物を狙う獣のような恐ろしい気配を感じる……。そんな僕達に一切かまうことなく係員の方は案内を進めていく。

 

「安全レバーはしっかりとお下げくださ~い!! それでは、いてらっしゃ~い!!」

 

 ライドがゆっくりと動き出す。最初は動物達の楽しい歌をバックに主人公であるうさどんが旅に出る様子を見ることができる。

 たくさんの動物達が歌い踊り、愉快な雰囲気に包まれていた。

 

 だけど段々暗い雰囲気になっていって、ついにうさどんが捕まってしまう。

 

「頼む! オイラをあの滝に投げ飛ばすことだけはしなでくれ~!」

 

 いよいよ最後の落下だ……。緊張がいっそう強くなる。

 ガタガタと音を立てゆっくり上昇していったその最中のこと。僕の手を握る先輩の力が強くなった。ふと横を見ると表情が固くなり冷や汗が出てきている。

 

「せ、先輩!? 大丈夫ですか!?」

「す、すまない……実は……こういう落下するタイプのものはダメなんだ……」

「え、ええ!?」

 

 こんな土壇場でのカミングアウトに開いた口が塞がらない。まさか先輩に怖いものがあったなんて思いもよらなかった。でももう乗ってしまった以上はどうすることもできないよ……。

 いや、僕にできることがあるとするなら……!

 

「だ、大丈夫です! 僕が付いてま――」

 

 

 全てを言い終える前にその瞬間・・はやってきた。ライドが一気に傾き急降下していく。最後の落下が始まったんだ。

 

「すからああああ!!」

「――――!!」

「イエエエエ!!」

「わああああ!!」

 

 後ろの二人は楽しそうにしているけど、先輩は言葉にならないような叫び声を出していた。すぐにライドは水しぶきを上げ着地する。

 僕は見事にずぶ濡れになってしまっていた。

 

「濡れちゃった……あ、せんぱ――」

 

 すぐに先輩へ視線を向けるとものの見事に放心状態になっていた。

 

「せ、先輩! 先輩!!」

「はっ!」

 

 よかった、戻ってきた……。

 

「大丈夫ですか?」

「こ、怖かった……」

 

 フラフラな状態の先輩をずぶ濡れのまま介抱しながら出口を出た頃。

 

「ちょっとトイレ行ってくるね!」

「あ、あたしも!」

 

 二人はお手洗いへ行き僕達二人だけになった。先輩はベンチに座り込んでいる。しばらくはこのままかな……。

 

「うう、寒いなあ……」

 

 あれだけ濡れたんだもの、段々夜風に充てられ寒くなっていくのは当然だった。こんなことなら大きめのタオルでも持ってくればよかったな。

 そんなことを考えていた僕に先輩は小さなタオルを差し出す。

 

「先輩……?」

「そのままでは寒いだろう? 使っていいよ」

「え? いいんですか?」

 

 少し風にあたって気分が治ったのか、先輩は僕の問いにただ優しく微笑みながら頷く。ここはありがたくお借りしよう。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 その後、パークを歩いている僕達の話題は当然先ほどの先輩だった。

 

「先輩落下系ダメだったんだ。なら言ってくれればよかったのに」

「いや、最年長の私が我が儘を言うわけにもいかないし。それに私もこれが欲しかったから」

 

 先輩は購入した写真を見せてくる。当然僕達も写真を購入した。記念に残るものだし、何より思い出として欲しかったんだ。それはきっとみんなだって同じだよね。

 

「じゃあ、いい時間だしお土産だけ見て帰ろっか」

「ですね」

 

 とはいっても僕は特に買うものもない。家族にチョコレートでも買っていくくらいかな。

 大きなショップを見て回りお目当てのクランチチョコを買った。これが僕のお気に入りなんだ。

 みんなはどうしてるんだろう?

 

「あ、蓮ちゃん。何を見てるの?」

「家族用に何か買っていこうと思ったけど、悩んでてね~」

「そういえば蓮ちゃんのお父さんとお母さんは元気?」

 

 昔は僕もよくお世話になっていたんだ。もう何年も会ってないけど、二人とも元気でいるといいんだけど。

 

「うん! いっくんにも会いたがってたよ! 今度家においでよ!」

「そうだね、今度お邪魔しようかな」

 

 蓮ちゃんはそのままお菓子コーナーを見て回っていた。

 僕は蓮ちゃんのところを後にし色んな場所を回っている。すると何かを見ている先輩を発見し声をかけてみる。

 

「先輩?」

「あ、一ノ瀬君……」

 

 なんだかそわそわしていて落ち着きがない。先輩が見ていたのはカチューシャのコーナーだった。色んな種類が置いてあり、ミッチーやミリーのカチューシャは特に人気があって頭に付けている人も多い。

 

「カチューシャですか?」

「あ、ああ……実はお願いがあるんだけど……」

「お願いっていうと……」

 

 先輩がそっと差し出してきたのは猫の耳が付いたカチューシャだった。これは一緒に写真を撮ったメアリーちゃんのカチューシャ。

 この時点で僕は先輩の考えが理解できた。

 

「わ、分かりました」

 

 カチューシャを受け取り頭を下げ付ける。メアリーちゃんのカチューシャは本来女性向けの商品で僕が付けるのはおかしいんだけど――いや、何も知らない人達からすれば不審がられることもないのかな。

 ともかく頭に付けた状態で先輩へ見せてみる。

 

「ど、どうですか?」

 

 僕を見た先輩は微動だにしなかった。どうしたんだろう?

 

「せ、先輩? どうしたんですか?」

「す、すまない……可愛すぎてフリーズしてた……」

 

 段々声が小さくなっていていったため後半はよく聞こえなかったけど、先輩は顔が凄く赤くなっている。もしかしてさっきのスプラッシングマウンテンで濡れたことで風邪を引いてしまったんでは……。

 心配になった僕は失礼を承知で手を伸ばし先輩の頬に手を当ててみる。

 

「熱っ! す、凄く熱いですよ!?」

「ああ……なんだかクラクラしてきた……」

 

 そう言っている割には幸せそうな顔をしているのは何でだろう……。

 

「せ、先輩、やっぱり風邪を引いてしまったんじゃ――」

「だ、ダメ! それ以上近づかれると……」

 

 えっと……僕何かしちゃったのかな……!? そのまま先輩は夜風に当たるためにお店の外に行ってしまった。

 心配な気持ちは残りながらも僕はカチューシャを戻し他のコーナーへ。

 

「あ、犬飼さん」

「あ、わんこ! もう買い物済んだの?」

「はい。犬飼さんは?」

「まあ、あたしは何度もディスインしてるからほぼ買う物もないかな」

 

 確かに何度も来ているならわざわざ買う物もあまりないのかもしれない。実際特に何を買いたいわけでもなく、ただ商品を見て回っていただけみたいだった。

 

「あ、一個だけ買いたいのあるかも」

「なんですか?」

「こっち!」

 

 僕の手を引いて商品の場所へと連れていく。

 ついた場所はストラップのコーナーだった。

 

「あのさ、もしよければなんだけどさ」

 

 犬飼さんが指さしたのはミッチーとミリーの二種類がセットになっているストラップだった。いわゆるペアストラップというもの。

 

「これのミッチーの方、付けて欲しいな~なんて?」

「ぼ、僕がですか?」

 

 頬を染めながらこくりと頷く。

 正直に言ってしまうと照れや恥ずかしさはある。だけれどもそれを断る理由も考えも僕にはない。

 

「は、はい」

「っしゃ! ありがとわんこ!」

 

 

 

 

 

 

「疲れたあ~」

「おかえりなさい蓮」

 

 帰ってきて早々ソファに寝転ぶ。久しぶりにこんなに遊んだなあ。先輩達もだけど何よりいっくんとあんなに遊べたのが嬉しくて仕方なかった。

 それにただの口約束だけど、ユニバーススタジオに行こうって話ができてよかったな。ボクはあっちの方が知識豊富だし!

 

「ねえお母さん。大阪まで行くのっていくらかかるかな?」

「何? 今度は大阪に行くの?」

「いや、一緒に行きたいなって話しただけ」

 

 ソファにクッションを抱きしめながら今日のことを思い出す。今日が楽しかったのは間違いない。それは確かな本音。

 けどやっぱり、いっくんと二人きりで行ってみたい。それはあの二人も同じことを思ってるんだろうけど、ボクの方がその気持ちは強いはず!

 夏休みにでも誘ってみよう! 奥手ないっくんにはこっちから誘わないと!

 

「ふぁああ……」

 

 今日の思い出に浸りながらボクは眠りについていった。

 

 

「ただいま」

「おかえりなさい」

「おう姉ちゃん! 何かお土産ある?」

「ほら」

 

 弟に購入したお菓子を差し出す。

 今日はさすがに疲れたな。あれだけ歩き回ったのは久しぶりだからな。

 それになによりあの猫耳姿が目に焼き付いて離れない……!

 

「はああ……」

「何ニヤついてんの姉ちゃん?」

「べ、別にニヤついて……たか……」

 

 傍から見れば明らかにおかしいかもしれないが、それも無理はない。だって……あんなに可愛かったんだもの……! あんな姿見せられたらそれはもう……!

 しまった、あのカチューシャ買っておけばよかった! そうすればいつでも彼に……。

 

「フフフフ……」

「る、るか?」

「姉ちゃんが壊れてる……」

 

 

「つっかれた~」

 

 お風呂に入り汗と疲れを流す。

 今日で人生何回目のディスインだっただろう。あたし自身がもう覚えてない。高校に入ってからもあや達と二回は行ってるし、昔の彼氏と来たこともある。

 ……けど、その中でもトップクラスに今日は楽しかった。勿論あや達と行った時が今日より面白くないと言ってるわけではないけど。

 

「……」

 

 何回でも胸がドキドキする。パレードもモンスターズカンパニーも、白雪姫もシンデレラも、み~んな記憶に貼り付いている。やっぱ彼は他の男とは全く違う。

 

「ふう」

 

 今日あたしが買ったペアストラップ。あれはミッチーとミリーの頭の形になっている割とスタンダードなもの。なぜそれを選んだのかというと今のあたし達の関係がまだペットだから。それが嫌なわけではない。そもそも頼んだのあたしだし。

 でもあたしがなりたいのはそれより先の関係。だからもしあたしがそれになれたら、改めて二人でディスインしよう。そしてちゃんとしたペアストラップを買いたい、それがあたしのちょっとちっちゃな夢。

 

 けどまあ、みんなで行くのも凄く楽しかったな。これは二人じゃ感じることのできなかった楽しさなのかもね。

 お風呂から出たあたしは今日買ったスプラッシングマウンテンの写真を棚に飾る。写真を見てふと微笑んだ。

 

「超楽しかったな」

 

 

 

「ただいま……」

「おかえり」

 

 お家に帰ってきた僕はさすがにクタクタに疲れていた。あんなに遊んだのは初めてかもしれない。

 

「どうだった?」

「楽しかったよ。ありがとうお姉ちゃん」

 

 お姉ちゃんがいなかったら今日はなかった。お姉ちゃんには感謝してもしきれないや。

 

「よかったじゃない。で、気持ちに区切りはつけられたの?」

 

 …………。

 

 

 

「……ないです」

「だろうね」

 

 そう、そもそもは自分から行動を起こして僕の気持ちをはっきりとさせるのが目的だった。だけど今日一日、僕にはみんなより素敵に思えて……。

 ああ、本当にどうしよう……。

閲覧ありがとうございます!


少し長めになってしまいましたが夢の国編は今回で終わりです!ブクマが増えたり減ったりで正直色々不安な編でした。


こういう話読みたいとかあれば是非感想へどうぞ!


感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!

次回もよろしくお願いします!

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