第43話 「夢の国 蓮編1」
「次はボクだね!」
じゃんけんの結果二番目は蓮ちゃんになった。
蓮ちゃんと二人きりで遊ぶのはかなり久しぶりだなあ。八年前に引っ越して以来かな。実を言うと僕の中では凄く楽しみにしていた。なんと言っても八年ぶりだもん。
「じゃあ三時間後ね。ちゃんと守りなさいよ!」
「失礼だなあ。ボクがちゃんと約束を守らないとでも?」
「一番疑わしいわよ……」
そんなやりとりの後僕たちは二手に別れた。
「じゃ、行こうっ!」
そう言うと蓮ちゃんは僕の手を強く握ってくる。ああ、この感じ。昔の蓮ちゃんのままだ。いつも僕の手を引っ張り色んな所へ僕を連れて行ってくれた蓮ちゃんの。
「最初はどこに行くの?」
「これだよ!」
たどり着いた場所は近未来がテーマのエリアであるフューチャーランド、その中のアトラクションの一つであるバブ・ライトイヤーのアストロドライバー。確かシューティング形式のアトラクションだったっけ。
バブ・ライトイヤーかあ、小さいころ凄く好きだったな。今でもテレビで放送していたら欠かさず見ているくらいには好きだけど。そういえば昔DVDで蓮ちゃんとよく一緒に見てたっけ。
そっか、だから蓮ちゃんは僕をここへ……!
「昔トイ・テイル好きだったよねえ。いっくん覚えてる?」
「もちろんだよ。蓮ちゃんとお出かけする時なんかにはよく車の中で見てたよね」
忘れるわけがない。蓮ちゃんと過ごした過去は一度だって忘れたことがないんだ。
「さっすがいっくん!」
「ちょ、蓮ちゃん!!」
すかさず蓮ちゃんが僕に抱き着いてくる。蓮ちゃんは何というか、昔以上に積極的になったような……。
それが災いしてか、見事に周囲の怖い視線が僕に突き刺さってくる。お願いだからそんな目で見ないで……。
しかし視線を向ける人の数にふと待ち時間を見てみると四十分待ちになっていた。やっぱり人気凄いんだなあ。
「結構並んじゃってるけど、まあしょうがないよね。じゃあ並びに――」
「ふふん、その心配はないよいっくん!」
自慢気な表情――いわゆるドヤ顔で蓮ちゃんは小さな二枚の紙を僕に見せてくる。これって……!
「ファストチケット!?」
「そう! さっき先輩と回ってた間に取っておいたんだ!」
「さ、さすがだね蓮ちゃん」
「でしょでしょ! もっと褒めてくれていいんだよ!」
蓮ちゃんは猫のように僕にすり寄ってくる。撫でてくれと言わんばかりに頭を差し出してきていた。ここは人目がたくさんあるけど……蓮ちゃんは全く気にしないんだよね……。
僕はなるべく周囲を見ないようにし蓮ちゃんの頭をそっと撫でてあげた。
「むふふ~! ありがとういっくん!」
「は、早く中に入ろう……」
もう見ていなくても周りからの視線が痛いほど突き刺さってくるのがよく分かる。うう……ここにいるのが辛い……。
僕は逃げるようにそそくさと列へ並んだ。
「どっちが点数高いか勝負しようよ!」
「うん」
このファストチケットというのは決まった時間内であれば通常よりも早く乗れるというもの。今日はまだ少ない方だけど、これがないと混雑日なんかには人気アトラクションには何時間も待たされてしまう。事前に取っておいてくれたおかげで僕たちは早く乗れるというわけなんだ。
こういう事前準備の良さも昔から変わらないな。
「あ、そろそろだよ」
「よおし、負けたらアイス奢りね!!」
「ええっ!?」
結果は蓮ちゃんの圧勝だった。僕が千四百点なのに対し蓮ちゃんはなんと四十七万点も獲得していたんだ。思えば昔からそうだったな。こういうゲームでは蓮ちゃんに勝てたことなんて一度もなかった。
負けてしまった僕は約束通り、ミッチーマウスの頭の形をしたアイスクリームをご馳走していた。
「やっぱり蓮ちゃんには勝てないなあ」
「いっくん昔からゲーム下手だもんね」
歩きながらアイスクリームを頬張る蓮ちゃんを見ているとつい笑みを浮かべてしまう。こんなことを言ってしまうのは二人には失礼なのかもしれないけれど、やっぱり蓮ちゃんの隣は物凄く気持ちが安らぐ。
昔から知っているとはいえ、それは蓮ちゃんだからこその良さなんだと思う。
「あ~おいしかった! ごちそうさま、いっくん!!」
「はは……」
「じゃあ次のとこ行こう!」
再び僕の手を取り歩いていく。
何ていうのだろう、蓮ちゃんとこうしていると八年前にタイムスリップしたような感覚になるんだ。一瞬で子供の頃に戻っていくような感じになる。
違う点は蓮ちゃんが凄く可愛くなっていたこと、そして……僕が蓮ちゃんを女の子として意識しているということ……。まさかこんな日がくるなんて思いもよらなかったな。
そんなことを考えていると目的地に着いたみたい。
「着いたよ!」
「ここは……」
目的地はホーンテッドアパート。ちょっとホラーテイストなアトラクション。
「何でここに……?」
「いやあ、いっくんホラー系苦手だったよね?」
「う、うん……」
確かにホラーはあまり好きではない。このホーンテッドアパートには乗ったことがないからどのくらいか分からないけど……。
だけどならなんで蓮ちゃんはここに?
「でもボクと一緒に乗れば大丈夫でしょ? そうしていっくんに自然な形で……ふふふふ……!!」
蓮ちゃんの笑い方が怖い……。
まあせっかく誘ってくれたのなら乗らないわけにはいかないよね……。
「じゃあ行こう!!」
「う、うん……」
こうして僕達はホーンテッドアパートへと入っていった。凄く怖いのかな……? 僕の心臓は待ち列を歩んでいく度に鼓動が早くなっていく。
閲覧ありがとうございます!
一つ補足説明させてください。
劇中ファストパス(あえて名前変えてます)を本人のいない時に取得してますが、リアル夢の国ではファストパス利用人数分のパスポートが必要になります。ご了承ください。
劇中では説明がなかっただけで二人で回っている間に頼み込んでパスポートを貸してもらったことにしてます。
感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!
次回もよろしくお願いします!




