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第35話 「繋がるものと奪われるもの」

「はあ……」

 

 なぜこんなにも憂鬱なのか、それは今日が一年に一度の身体測定の日だから。何が嫌なのかというと、毎年少しも伸びていない身長を図らなければならないから。去年はたったの二ミリしか伸びていなかった。

 

「やだなあ……」

 

 蓮ちゃんが帰ってきた時僕とそう変わらないくらいだった。昔は僕の方がちょっとだけ高いくらいだったのに……。まあ高いといっても数センチだけだけど……。

 とはいってもこれは避けられない。

 

「それじゃあ男子は視力・聴力から! 女子は身長・体重・座高から!」

 

 先生の言葉を受けみんな移動していく。嫌だけど……こればかりは仕方ない。僕も重い腰を上げ指定の教室へ向かった。身長……伸びてるといいんだけど……。

 

 

「ふうう……」

「おい、早くしろよ」

「ハリーアップ!」

「う、うるさいわね! 今やるわよ!」

 

 あやは恐る恐る体重計に乗る。なぜか変な緊張感が周囲に蔓延していた。

 

「で、結果は?」

「さ……下がったあああ!!」

 

 思い切りガッツポーズを決める。ここ数日まともに昼食も取ってなかったもんね。けどそんなに太ってるように見えないんだけどな?

 

「よかったな」

「じゃあ次私ね」

「ざ、雑過ぎない!?」

「はは……」

 

 ああ、頭がクラクラする。寝不足がたたったかな。今日が学校なのは分かってたけどついつい夜更かししちゃった。でもそれには理由があって……。

 

「姫、どうした?」

「え!?」

 

 気が付くと目の前には心配そうな表情の岬がいた。

 

「ああ、ごめんごめん。ちょっと眠気ヤバくて」

「何だよ、夜中までドラマでも観てたか?」

「まあそんな感じ?」

 

 ドラマ……うん、嘘ではない。

 ある人の影響を受けて今年の初めくらいからずっと観続けてる作品がある。これが意外と面白くて結構ハマっちゃったんだよね。

 まああたし観るペース遅いから全部観終わるまで数か月かかっちゃったけど。

 

「ってそんなことより次あたしじゃん」

 

 体重か~。そりゃある程度は意識はしてるけどあたし全然太んないんだよね。……こんなことあやには絶対言えないな……。

 

 

「……さん!」

「う~ん……」

「……さん!」

「う……」

 

 ぼやけた視界が捉えたのは背の低い中性的な顔立ちの子。あたしにはそれだけで誰か一瞬で分かった。

 

「あ、おはよ~わんこ~」

「も、もう放課後ですよ……」

「え?」

 

 目を擦り携帯の画面を見る。……本当だ。あたしいつの間にか爆睡してたんだ。

 ふと教室を見渡すと誰もいなくなっていた。廊下からも声はほぼ聞こえない。

 そんな長い間寝てたんだ。自分でもちょい信じられない。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「あ~ごめんごめん、ちょっと寝不足で」

 

 さすがに今日はヤバすぎたな。学校のある日に夜中まで見るのはやめておこう……。そういえばわんこと話すんの今日初めてかも。身体測定は男女別行動だし。

 

「そういえば身体測定どうだった?」

「え? そ、その……特に変化は……」

「え~何その反応~」

「いや、その……」

 

 はは~ん、さては……。

 

「身長?」

「……!!」

「図星?」

「……身長が……一ミリしか伸びてませんでした……」

 

 顔を真っ赤に染めて目をそらしている。よっぽど気にしてたんだ。だけどあたしはそんな姿が尋常じゃなく可愛く見えた。

 

「か、可愛いなあもう~!」

「ちょ、犬飼さん!」

 

 力強くわんこを引き寄せ抱きしめる。何度抱きしめてもこれっぽちも飽きない。それはやっぱり……あたしがわんこのこと好きだからなんだろうな。

 でも仕方ないよね、こんなに可愛い方が悪いんだから!!

 

「気にしてたんならごめんね」

「い、いえ……いいんです……」

「ありがと……ふぁあ……」

 

 思わず欠伸が出てしまう。あんだけ眠ってても眠気が残ってるなんて。今日はさっさと帰って爆睡コースだな。

 

「大丈夫ですか? ずっと寝てましたけど」

「ああ……」

 

 本当は全部観終わってから打ち明けようと思ってた。ちゃんと全部観た状態で一緒に話したかったから。でも……やっぱり我慢できそうにないや。一秒でも早く語り合いたい。

 一緒の話題があるだけでどれだけ嬉しいことか!

 

「去年のクリスマスイブにカラオケ行ったじゃん?」

「ええ」

「そん時から気になってさ……TATSUYAで借りて最初か観てるんだよね」

「もしかして……」

 

 あたしはそっと鞄の中から借りていたディスクを取り出す。今日帰りに帰そうと思っていたから。そのDVDはあの時わんこが歌っていたあれ。

 

「ぜ、ゼンカイジャー……!?」

「そっ」

「そ、そんな……」

 

 信じられないって感じの顔をしてる。まあそうよね。

 あたし自身今までこういうヒーローものには無縁だった。実際あの時主題歌を聞かなければ一生観ることはなかったと思う。でもいざ観始めたらこれが結構面白いんだよね。

 

「それで今観てるとこがいいとこでさあ。気になって夜中まで観てたから今日あんなに眠かったってわけ」

「で、でもなんで……」

 

 なんで、か。単純に気になったってのもあるけど、やっぱり一番の理由としては――。

 

「わんこと共通の話題作りたかったからかな? 一緒になって盛り上がれるような、さ」

「犬飼さん……」

「けど観てみたらこれ結構面白いじゃん!」

 

 その一言でわんこの顔がちょっと明るくなった。そんな表情されたらこっちが嬉しくなっちゃうよ。

 

「ほ、本当ですか?」

「うん! もうすぐ見終わるから他にもオススメあったら教えてよ!」

 

 こうして、あたしとわんこの間に共通の話題が一個できた。あたしの知識なんてまだまだだろうけど、凄く嬉しかったよ。わんこと一緒に話せることができて。

 こんなの大したことじゃないって思われるかもだけど、あたしにとっては一歩前進。それも、途轍もない大きな一歩。どこかの宇宙飛行士みたいなこと言ってるけど、本当にそう思う。

 

 

 

 

『そういえば身体測定どうだった?』

『そん時から気になってさ……TATSUYAで借りて最初か観てるんだよね』

『もうすぐ見終わるから他にもオススメあったら教えてよ!』

 

 二人の話し声を聞いてしまい教室に入れなかった。なんで……なんでこの人は……!!

 

 いっぱい話題も考えてたんだ。二人で楽しく会話できるような、盛り上がれるような話題を。頭の中でいくつも考えてたんだ。

 

『身長どうだった? ボクの方が大きくなったでしょ?』

『今度の夏映画観に行こうよ!』

 

 今日だけじゃない、毎日そう。普段は仕方ないって割り切ってた。クラスだって同じだし、去年から知り合ってるんだし。

 でも……特撮すらこの人は……!! 他のみんなにはない、ボクといっくんだけの特別な繋がりすら……!

 

「なんで……あの人は……!!」

 

 この人はボクといっくんの繋がりをどんどん奪っていく。そんなことさせない!! ボクが……ボクが誰よりもいっくんのこと好きなんだ!!

閲覧ありがとうございます!


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