第30話 「新しいクラス」
「えー今日からこのクラスで一年間やっていくことになる」
始業式の翌日、新しい担任の先生が教卓の前でそんな話をする。
二年生になった僕は新しいクラスになった。そのクラスで僕の後ろの席には……。
「じゃあ、軽く自己紹介してもらおうか」
先生の提案により生徒達が一人ずつ自己紹介をしていく。苗字が「い」の僕は早い段階で順番がまわってくる。
こういうの苦手だなあ……。
「朝桐岬です! バスケ部やってます! よろしくっ!」
一つ前の朝桐さんが終わっていよいよ僕の番。
うう、何も言うこと思いつかないよ……。
「じゃあ、次」
「は、はい……」
そっと席を立つ。教室は静まり返って僕が自己紹介するのを待っている。
緊張しちゃう……けど何か話さなきゃ……。
「えっと、一ノ瀬一和です……お願いします……」
すぐに席につく。教室は何の反応もなく静かなまま。
はあ、やっぱりこういうのは僕には……。
「えっと、じゃあ次」
そうだ。僕の次、つまり後ろの席にいるのは――。
「犬飼織姫です! みんなよろしく!」
クラスから拍手が沸く。僕の時とは大違い。
そう、僕の後ろの席には犬飼さんがいる。僕達は同じクラスになったんだ。
「よし、じゃあ以上だな」
全員の自己紹介が終わる。今日から一年間をこのクラスで過ごすんだ。
……といっても僕には友達はいないし、人と話すのも得意じゃない。
でも仲のいいクラスメイトくらいできたらいいなあ。
なんて思ってみるけど現実はそう簡単にはいかない。
休み時間、僕は一人になっていた。他のみんなはどんどん輪を広げていっているのに。
「はあ……」
自分の人見知りさが嫌になりため息をつく。
ふと後ろに気を配ると――。
「最初の授業なんだっけ?」
「数学でしょ」
「あ~あ、数学かあ。面倒だなあ」
「いっそサボっちゃう?」
「あ~アリ」
「あんた達ねえ」
楽しそうに談笑する四人組。当然一人は犬飼さん。もう一人は僕と同じ中学校だった朝桐さん。後の二人は確か……龍崎さんと宇藤さん?
和気あいあいと会話する様子はまさに高校生という感じ。僕には到底及ばない。
「ふう」
……本でも読もう。大人しくしているのが僕には合ってるんだろうな。
先日購入した本を鞄から取り出し開く。
去年一年こんな感じだったんだ、今年も同じなだけ。何も怖いことはない。
「ね~一ノ瀬くうん」
……気のせい? 今後ろから僕の名前が呼ばれたような?
恐る恐る振り返る。きっと勘違いだと思っていた。
けど、そんな都合のいいことはなかったみたい。
「ちょっと聞きたいことあるんだけどさ」
「な、なんですか……?」
勘違いなんかじゃなかった。犬飼さんが僕を呼んでいたんだ。
でも、なんで……僕なんかと話しているのを見られたら……。
「今みんなと話してたんだけどさ、一ノ瀬君は犬か猫かどっちが好き?」
「い、犬か猫か……」
この質問、明らかに先輩とのことを意識してる……! だって目がニヤけて妖しいもの。
ここでどう答えればいいんだろう? 変に気を遣う回答をするのも先輩に悪いし……。
「ど、どっちも好きです……」
「へ~どっちもか~」
「やめてあげなよ姫~、困ってんじゃん~」
「顔、真っ赤」
「ははは」
四人にからかわれてるのかな……?
教室で、しかも他のクラスメイトがいる前で話しかけられるのは今までになかったから、普段会話するよりも緊張しちゃうよ……。
「じゃあさ、年下もイケる?」
「と、年下!?」
今度はきっと蓮ちゃんのことだ……! いったいどうしたんだろう犬飼さんは。
なんだかやけに……。
「え~っと……僕そういう経験ないから分かんないですけど……素敵な人だったら年は関係ないと思います……」
「「「「お~」」」」
僕がそう答ると犬飼さん達は軽く拍手し始めた。
「超優しい答えじゃん」
「見た目通り」
「ま、男ならそのくらいの度量見せてもらわなきゃね」
「さっすがだな!」
何が目的なんだろう? 話しかけられるのが嫌なわけじゃないけど、僕なんかと話してるのを見られたりして犬飼さんは大丈夫なんだろうかが心配なんだ。
だって僕達は御主人様とペットだけど、普段は全く違う位置にいる。
今日、放課後に帰れたら聞いてみよう。
◇
時間は進んでいきお昼休み。
案の定僕の後ろでは犬飼さん達が集まっている。四人で昼食を食べるみたい。
一方の僕はというと……一人でお弁当を取り出す。
いいんだ、いつもこうだったから。
「はあ……」
ふたを開けお昼ごはんを口にしようとする。
その時だった。
「い~っくん!」
「わあ!!」
いきなり後ろから抱き着かれた。
この声は……!
「れ、蓮ちゃん!」
「へへへ~びっくりした?」
「な、なんでここに……」
「一緒にお昼食べようよ!」
この時すぐに気が付いた。周囲の視線が僕に集まっていたこと、その内男子生徒達から恐ろしい視線を向けられてることを。そして僕の後ろで物凄い怒りのオーラが放たれていることを……。
本能的な何かを察したのか、すぐに蓮ちゃんを引き連れ教室を出る。あそこにいたら色々危ない……!
「ちょ、どこ行くの?」
「いいから!」
人気のない場所、となれば屋上しかない。
階段を上り屋上の入り口へたどり着く。
「はあ、はあ……!」
「もう、そんな焦んなくても。ボクはいっくんと同じ教室でも良かったんだけどな」
「いや、そんなことしたら僕の方が……」
幼馴染だということを知っているのは犬飼さんだけだ。周りから見たらどう思われるか……。
それ以前に僕の後ろの席、つまり犬飼さんから尋常じゃないほどの怒りを感じていた。
蓮ちゃんが意図してかどうかは分からないけど、あそこにいたら大変なことになっていたかもしれない。というよりそんな気がする……。
「と、とにかく! 屋上ならあまり人もいないから!」
「そう。ま、いいや!」
何とか納得させ屋上の扉を開ける。今日は曇り空のため人は僕達以外にはいなかった。
「う~ん、風が気持ちいいな~!」
「うん……」
何だろう、まだお昼休みが始まって十分も経ってないのに物凄く疲れている。
もしかして今日からこんな感じのことが毎日あるんだろうか?
「ふう~……」
去年と同じような一年になると思っていたけど、どうやら僕の毎日は一変しそう。
疲れ切った体で腰を下ろす。
「なんだか疲れたなあ」
「体力ないもんねいっくんは。じゃあボクのお弁当少しあげようか?」
「いや、いいよ……」
波乱に満ちた一年間が始まる。新学期からわずか二日でそう確信した。
こんな状態で僕は答えを出せるのかな……?
◇
「いっや~何だったんだあの子は?」
「けっこー可愛いじゃん」
「確かにそうだけど。あの子何なの姫?」
悔しさで唇を噛みしめる。やられた、まさか上級生の教室にやって来るなんて!
あいつ、ガンガン攻めてくるタイプじゃん!
「あいつはわんこの幼馴染で――あたしの二人目の恋敵よ……!」
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