第16話 「マラソン大会」
連続投稿4話目です!
「やだなあ……」
今日はマラソン大会。運動全般苦手な僕にとっては一番嫌な学校行事。
けど学校行事なんだからちゃんと参加しないといけないし……。
「できるだけのことはやってみよう」
順位がどうであれ最後まで走り抜く、それが一番大事なことだよね。
そういえばもうすぐ女子の部が始まる頃だけど、犬飼さんと先輩はどうなんだろう? 先輩はスポーツ選手だしマラソンも余裕なのかな。
「ん? あれって……」
視界が捉えたのは何やら話している犬飼さんと先輩の姿だった。遠くだから内容までは聞こえないけど、穏やかな様子ではない。
心配だけど僕には止められないし……。
「はわわ……険悪なムードになったらどうしよう……」
◇
「先輩、格闘技やってんだってね」
「どこでそれを?」
「……噂で聞いたことあるよ」
まさか尾行してましたなんて言えないしね。それに実際噂には聞いていたし。
「こういうマラソンとか得意系?」
「私は長距離選手ではないさ。ただロードワークで毎日走り込みしているが」
準備運動をしながら言葉を交わす。
やっぱりこういうのは先輩の方が強いか。あたしは部活すらまともにやったことないし。
「まさか私に勝つ気だったかい?」
「いや、あたしの実力じゃ無理だろうし」
「まあそうだろうな。むしろ私の方が負けるわけにはいかない」
その言葉はあたしをムッとさせた。
何に対してかよく分かんないけど、気に入らなかった。そこまで言われて大人しくしてられるわけない。
こういう性格なんだあたしって。
「――って、さっきまでは思ってたけどさ」
先輩が準備運動を止めこっちを見る。
それに対してあたしは言い放った。
「やっぱ負けたくない」
「ほう」
先輩の目の色が変わったのが一目で分かった。格闘技やってる人だ、勝ち負けには厳しいんだと思う。
けど、あたしも引き下がれない。
「絶対食らいついてみせる」
「そうか、楽しみにしてるよ」
あたし自身無謀だと思う。普通に考えて勝ち目なんてない。
けど、このまますんなり負けを認めるのもなんか気に入らない。
この人は敵なんだ。
「……ゼッテー負けない……」
「女子の部、スタート十秒前!」
いよいよ始まる。緊張のせいか心臓の音がめっちゃ聞こえてくるんだけど。
でも逃げない。やれるだけ、やる!
「スタート!」
ピストルの音が鳴り響き、生徒達が一斉にスタートした。
あたしも一目散に走りだす。先輩は三年生だから後ろの方、今のうちに距離を空けられたい。
けどペース配分も考えないと……。
◇
「はい、お疲れ様」
「はあ、はあ……!」
何とかゴールすることができた。
ゴールした瞬間、一気に力が抜けすぐにその場で大の字になって寝転ぶ。地面の上でもお構いなし。もう立つこともできそうにない。そのくらい疲れた。
そんなあたしに近寄り声をかける人がいた。
「お疲れ様」
「……」
声の主は先輩だった。あたしより大分早くゴールしてたみたい。
……やっぱ勝てないか……。
分かってはいたけど悔しい!
「すまない」
「いや、あたしが負けただけだし」
「けど意外だったよ。君がそこまで負けず嫌いだったなんて」
「……昔から熱くなりすぎるとこあってさ」
熱中したり力が入ると熱くなりすぎる。これがあたしの悪い癖。
それは決して悪いことだけじゃないだろうけど。
「まあ、そういう部分は嫌いじゃないよ」
「……同情してる感じ?」
「いや、本心だ」
この余裕たっぷりな感じ、何だか人としての器が大きいように感じる。
未だに起き上がれない状態のあたしに合わせて体育座りしている先輩を見てそう思った。
「まあ今日はあたしの負け。けど……」
「けど?」
力を振り絞り起き上がる。
髪と体操着についた砂を払い呼吸を整えた。
せめて形だけはちゃんとしたいから。
これは――――あたしの宣戦布告。
「わんこは渡さないから」
そう、そこは絶対譲れない。
他のことでは勝てなくても、わんこだけは渡したくない。
だって、わんこはあたしのペットなんだから!
「そうか……なら、私は勝ち取ってみせるさ」
自信たっぷりなのがチョームカつく。
……ま、悪い人ではないんだろうけど。
「姫ー!」
「大丈夫ー?」
遠くから声をかけてくる友達に手を振り、その場を後にする。
何か先輩と張り合うの、そんな嫌いじゃないかも。
ま、最後に勝つのは絶対あたしだけどね!
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