表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/111

第15話 「抜け駆けはアリ?ナシ?」

連続投稿3話目です!

 残りの冬休みは特に何もなく終わり、今日から三学期。不安なような、ドキドキするような……。

 けど三学期には僕が一番嫌なイベントが控えている。それはマラソン大会。運動神経の全くない僕にはマラソン大会なんて嫌で仕方ない。

 そんな憂鬱な気持ちを秘め三学期は始まった。

 

「起立、礼」

 

 今日は始業式だけで授業はなし。僕は携帯電話の通知をチェックする。けれども通知はなかった。珍しいな、二人とも声がかからないなんて。

 

「あ」

 

 そうか、先輩は試合が近いから練習があるんだ。もしかしたらもう帰っているのかも。犬飼さんだってお友達との約束があるんだろう。

 

「……帰ろう」

 

 ちょっと寂しいけどこればかりは仕方ない。僕はバッグを手に取り賑やかさの残る教室を後にする。チラッと廊下を奥まで見てみるけれど犬飼さんはいない。まあそんな日だってあるよね。

 今更一人で帰るのなんて寂しいわけ……。

 

「はあ……」

 

 落ち込んだようなため息が出る。そうだ、いくら頭で思っても心は騙せない。ここ最近の日々が僕は楽しかった。久しぶりに一人で下校するのが寂しく思うくらいには。

 

「先輩は練習として、犬飼さんは何をしてるんだろう」

 

 

 

 

 授業が終わってすぐにあたしは友達の誘いも断り教室を出て、校門で待ち伏せをしている。何のためにそんなことをするのか? それは――――。

 

「来た!」

 

 二年生の下駄箱から出てきたのは先日からあたしの可愛いわんこに付きまとう泥棒猫――颯るか。この人を深く知るためにあたしは待ち伏せしている。敵を知るためにこうして尾行を敢行してるってわけ。

 部活をやっていないあたしは他学年との繋がりはない。だから先輩がどんな人なのかを知る由もない。つまりは情報収集ってやつ。

 

「一人か……」

 

 どうやら一人で下校しているらしい。ということはわんこには声をかけなかったってことか。まあその方があたし的にはありがたいんだけど?

 そのまま校門を出て帰宅する先輩を気づかれないように尾行していく。特におかしなとこはない、何気ない下校風景。

 

「びっくりするくらい何もないわね……」

 

 優等生っぽい雰囲気だとは思ってたけど、ここまで何も起きないとは。ぶっちゃけ何か起きてくれた方が尾行してる側としてはありがたい。

 こんなんじゃわざわざつけてきた意味ないんですけど!

 

「成果なしか……ん!?」

 

 軽く諦めかけていたその時、先輩はある建物に入っていった。その建物に書いてあったのは――。

 

「格闘技ジム?」

 

 そう、格闘技のジムの看板だった。あたしはよく知らないけど、テレビでちらっと見たことがある。そういえば噂で聞いたことがあったっけ。うちの高校にプロの格闘家がいるって。

 

「あの人のことだったんだ」

 

 まさか噂の人だったとは。道理でと言ったらあれだけど、負けん気の強そうな人だったわけだ。そっと中を覗こうとすると窓に貼ってあったポスターに気が付いた。

 

「これ……」

 

 ポスターの横には『当ジム所属、颯るか出場予定』の文字が書かれた紙が貼ってある。しかも大会の日付は来月。

 

「……! そっか……」

 

 この瞬間全てがガッチリハマった。先輩は今日わんこに声をかけなかったんじゃない、かけられなかったんだ。試合が近いから練習第一で……。

 この事実を知ったら人はどう思うだろう? 今のうちにって思うかな? チャンスだっていうのが普通ではあると思う。でも、あたしはそんな気にはなれなかった。

 

「先輩……」

 

 

「急に電話してごめん、今大丈夫?」

『ええ、大丈夫ですけど』

 

 その日の晩、あたしはわんこに電話していた。理由は一つ。

 

「あのさ、悪いけどしばらくは一緒に帰れないっぽい」

『そうなんですか?』

「うん、ごめんねわんこ」

 

 あたしは決めた。先輩の試合が終わるまでは二人っきりの状況はやめておこうと。一緒に下校するのも、朝のお散歩も、しばらくはお預け。

 はあ、あたしバカだ。またとないチャンスなのに。

 

『いえ……何かあったんですか?』

「いや、ちょっとね。それに……抜け駆けはしたくないし」

『え?』

「ううん、なんでもない! じゃあおやすみ、わんこ!」

 

 そう言い残しすぐさま電話を切った。同時に深いため息がこぼれ出る。

 

「はあ……」

 

 絶好のチャンスだったのに。相手はライバルなのに。なんで遠慮しちゃうかな~……。

 ほんと、自分の甘さが嫌になる。何でもっと卑怯になれなかったんだろう。

 

「……見なきゃよかった……」


 あたしは一人ソファで体育座りしている。リビングにはテレビの音が虚しく響いていた。

閲覧ありがとうございます!


感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!

次回もよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ