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第13話 「新年の大バトル!?」

 テレビから流れる音とお姉ちゃんの笑い声をBGMに眠りそうになる。ウトウトした意識はもう何度途切れそうになっただろう。ストーブが効いた暖かい部屋の温度が余計に眠気を助長させている。

 けど零時までは起きていたい。なぜなら今日は大晦日。もうあと数十分で年が明けるんだ。

 

『松田 アウトー』

『ワハハハハハ!!』

「あははは!」

 

 毎年だけど、お父さんとお母さんは初日の出を見に出かけるみたいで今は寝ている。なのでリビングには僕とお姉ちゃんの二人っきり。ウトウトしている僕、そしてテレビを見ているお姉ちゃん。最早大晦日の恒例ともいえる光景になってきている。

 けどさらに眠くなってきちゃった……。いつもは十一時くらいには寝てるもんなあ。そもそも僕は夜更かし自体が得意じゃない。中学時代の修学旅行でもみんなは夜中まで起きていた中、僕は一番早く寝てしまっていたくらい。

 

「もう寝たら?」

「ううん……年明けまでは起きてる……」

「そんなこと言って、またここで寝ないでよ?」

「……うん……」

 

 去年はリビングで寝てしまい部屋までお姉ちゃんに運ばれるという姿を晒しちゃったから、今年は絶対に寝ないようにしないと。眠気と必死に格闘しながらそう誓う。

 頑張ってはいるけど、どうやらあまり長くは起きていられないみたい。

 

「ほらあと一分よ」

「うん……」

 

 いつの間にかそんな時間になってたんだ。

 思い起こせば今年は本当に色々あったなあ。高校生になったこともそうだけど、何よりも犬飼さんや先輩と出会えたことが。来年は……どうなるんだろう……。

 来年は今年以上に色んなことが起こるのか、それとも何もなく平穏に過ごせるのか……。

 

「お~い」

「ひゃんっ!」

 

 頬に冷たい感触が触れる。見ればお姉ちゃんがお酒の缶を当てている。そのおかげで眠りかけていたところで少し目が覚めた。まあすぐにまた眠気が襲ってくるんだけど。

 

「あけおめ、一和」

「あっ。あけましておめでとうございます、お姉ちゃん」

 

 お姉ちゃんに新年の挨拶を済ます。

 そう、年が明け新しい一年が始まった。この一年、果たして何が起こるのか。

 明日は新年の伝統、初詣に行こう。そう決めたと同時に僕の眠気も限界に達したみたい。

 

「じゃあおやすみなさい……お姉ちゃん……」

「ほいよ~」

 

 

「凄い人だなあ……」

 

 お昼、僕は家から少し離れた神社へ訪れていた。

 お正月だからやっぱり人は多い。そのくらいは覚悟の上ではあったけど、それでも沢山の人に囲まれている。誰かと来ていたらはぐれちゃいそうなほどだ。

 皮肉だけど、こういう時には一人でよかったなんて思っちゃうな。

 ちなみに前まではお姉ちゃんと一緒に来ていた時もあったけど僕が体が小さいせいか、はぐれないようにお姉ちゃんの手を掴んでいたという思い出がある。

  

「あ、もうすぐだ」

 

 何分並んだだろう、ようやく僕の番が近づいてきた。

 さて、何をお願いするのか。家内安全、健康、色々お願いしたいことはあるけど……。 

 でも今何を一番望むかと言われた時、僕は迷わずに言えることがある。

 それは――――現状維持。

 今の僕ははっきり言って今までの人生で一番楽しい。家族はみんな健康で、本来なら一生縁のないであろう人達と仲良くなれて……。これ以上のものを望むならきっとばちが当たる。だから現状維持。それ以上のものは望まないんだ。

 

 お賽銭箱にお金を入れて鈴を鳴らす。その後に二拝二拍手一拝。

 そして僕は心の中でしっかりと願った。今のままでいられますようにと。

 

「ふう、じゃあ帰ろうかな」

 

 人の多い中を抜けて神社の外へ。外に出れば少し楽になるかと思ったけど、人通りは変わらず多い。

 やっぱりお正月だからかな。家族連れも多いし、恋人同士で来てる人達もいっぱいいる。

 何とかこの人込みを抜けて帰ろう。そう思った矢先のことだった。

 

「――こ~!」

「――君!」

 

 誰かの声が耳に入ってきた。この声、凄く聞き覚えがある……。

 どこからともなく聞いたことある声、それも二人分?

 まさか……そんなまさか!!

 

「うそ……」

 

 

 

 

 瞬間、人混みの中立ちすくんでいる僕の両腕が同時に掴まれた。反対方向から同時に、つまり二人が同じタイミングで僕の腕を掴んだということ。

 そしてその二人とは――――。

 

「わんこ、こんなとこで会えるなんて超偶然じゃん!」

「一ノ瀬君! こんな場所で会うなんて奇遇じゃないか!」

 

「「ん?」」

 

 ああ、出会ってしまった……。いや、まだ何が起こると決まったわけじゃない、もしかしたら仲良くもなれ――。

 

「な、なんだ君は!?」

「あんたこそ、何なのよ!?」

 

 

 うん、結局こうなるよね……。ここにきて僕は自分の愚かさに気が付いた。こんなの浮気やら二股と一緒じゃないか……。

 初めてちょっと可愛がられたから浮かれていた自分がいたことを実感した。僕は馬鹿だ……!

 

「人のことを犬呼ばわりなんて、何を考えているんだ君は!」

「あたしのペットをどう呼ぼうが自由でしょ? そっちこそ何考えてんのよ泥棒猫!」

「なっ!? 猫を泥棒などと言うか!! この世にあんな可愛い生き物はいないぞ、それが分からないのか!!」

「いや、怒るとこそこ? 第一犬の方が何倍も可愛いし!」

 

 あれ? 僕がちょっと考え事をしている間に口論のテーマが変わっているような?

 いや、そんなことより止めないと!

 

「あ、あの――」

「待っててわんこ! 今この女を追っ払ってあげるから!!」

「安心しろ一ノ瀬君! 私が君を解放してみせる!!」

 

 どうやら収まりきらないみたい。とてもじゃないけど僕では仲裁はできない。

 どうしよう……。

 と、ここである案が思い浮かんだ。というより僕ができる手段はもうこれしかない。

 

 

「あ、あの……みんな見てます……」

 

 二人ははっとした表情になり周囲を見渡す。軽い人だかりができていて騒ぎになる寸前だった。

 さすがの二人もすぐに顔を赤くし静まる。

 けれど気持ちは収まりきらないみたいで……。

 

「場所を変えよう……」

「ええ……」

 

 

 

 あのまま近くのファミリーレストランに移動し、向かい合って腰掛ける。

 傍から見たらどう思われるんだろう……。

 座っている席は僕の隣に犬飼さん、向かい側に先輩。

 先輩に僕らの今までの経緯を話し、犬飼さんには先輩のことを話した。話を聞いた先輩がコーヒーをすすり息を落ち着かせる。

 

「……なるほど、話は大体分かった」

「でしょ? あたしの方が先に――」

「だが、そう言われてはい分かりましたと引き下がれないな。例え君に何と言われようとね」

 

 先輩は強気の姿勢を崩さずに言い放った。隣の犬飼さんがムッとした表情になったのを肌で感じる。

 このままだといけない。これも全部僕のせい、なんとか二人を止めなくちゃ……。

 

「ご、ごめんなさい! 全部僕が悪いんです!」

 

 深々と頭を下げる。仕方なくとかではなく、本当に心から謝りたいと思っていた。

 この状況を招いたのは僕が愚かだったからなんだ……。

 僕がまずしなきゃいけないこと、それはしっかり謝ること。

 

「僕、今まで女子にその、可愛い……とか言ってもらえたことなくて……つい嬉しくて。だから全部僕が悪いんです、本当にすいません!!」

 

 もう一度頭を下げ、しっかりと謝罪する。

 僕は二人の気持ちを弄んだも同然のことをしたんだ。なんでそのことに気が付かなかったんだろう。

 まして僕なんかが……! 考えれば考えるほど後悔の気持ちが溢れてくる。

 

 そこから数十秒ほど経った時、沈黙は破られた。

 

「……まあ、そこまで言われたら……ねえ?」

「ああ。元より私達は怒ってはいないがな」

 

 え……? 怒ってないなんて……。だって僕は二人の気持ちを――。

 

「ほら、顔上げなよわんこ」

「そうだ、俯いている姿など見せないでくれ」

 

 申し訳ない気持ちでいっぱいだった。けどそれを上回るくらいに分からない気持ちでいっぱいだった。何でこんなに優しいんだろうと……。

 そして同時に決心した。僕も二人の優しさに甘えていちゃダメだ、この優しさに報いるようにしないと!

 

「本当に……すいませんでした!」

「だからもういいって。それに……」

 

 犬飼さんはキリッとした表情で視線を先輩へ向ける。

 それはまさに宣戦布告のようだった。

 

「あたしは負ける自信なんてないから。わんこはあたしのペットだから!」

 

 その言葉を受けた先輩もまた表情を引き締める。きっと格闘技の試合の時もこういう顔をしているんだろう。そう思うくらいに空気が変わった。

 

 そして、高らかに宣言したんだ。

 

「望むところだ。私も絶対に負けん。一ノ瀬君は私のペットになってもらう!!」

 

 漫画のように火花が散っているのが見えた。あれ、止めに入ったはずなのに悪化してる……?

 

「というわけでわんこ!!」

「というわけで一ノ瀬君!!」

「……は、はい?」

 

 

「「どっちが君の御主人か、しっかり答えを出してね!!」」

「……はい……」

 

 間違いない、事態は悪化している。けど、これも僕の自業自得なんだ。

 なら僕には向き合う義務がある。二人の気持ちに対して。

 逃げることはできないんだ、ちゃんと答えは出そう。どちらが僕の――御主人様なのかを。

 

 

 

 

 しかし僕は知らなかった、そして知ることになる。この争いが御主人様から――もっと上の位置を争うものになっていくことを。そして、周囲のお客さんがみんな僕達に注目していたことを……。

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