表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/111

第12話 「思いもよらぬクリスマスプレゼント」

連続投稿3話目です!

「寒いなあ」

 

 次の日の朝、つまりクリスマス。窓を開けるとひしひしとした寒さが部屋に入ってくる。昨日カラオケで歌ったせいか、喉が凄く痛い。声が嗄れなかったのが幸いだけど。

 

「そっか、今日も僕だけか……」

 

 そう、お姉ちゃんもお父さん達も帰ってくるのは明日。せっかくのクリスマスに寂しく独りぼっちか……。去年まではお姉ちゃんと二人だったから感じなかったけど、一人の家はこんなに寂しいものだったんだ。まあ、例年みたいにお姉ちゃんにケーキやチキンを買いにいかされないで済むのはいいんだけどね……。

 

「昨日みたいなことそう起こるわけないよね……」

 

 誘う勇気も、誘える友達もいない。犬飼さんだって今日は用事があると言っていたし。というよりあの人は本来僕なんかと一緒にいる方が不思議な人だ。

 ああ、こういう時蓮ちゃんがいてくれたらなあ……。

 

「ん?」

 

 そんなことを思っていた矢先、携帯に通知がきていた。LIMEに新着メッセージがきているらしい。思えばもう犬飼さんと出会って一ヵ月以上も経つんだ。

 

「誰だろう――って、先輩!?」

 

 意外なことに、メッセージの送り主は先輩だった。一応アカウントは交換していたけど、実際に連絡がきたのは今日が初めて。先輩のメッセージに目を通す。

 

『急な連絡ですまない。今日って何か予定あるかい?』

 

 これは一体どういう意図だろう……。まあ多分犬飼さんみたいにペットとしての呼び出しだろうな。どうせ用事もないし、せっかく誘ってくれたのなら断るのは失礼。僕はすぐに返事を送った。

 

『いいえ、一日空いてます』

 

 そこから数分で先輩からの返信がきた。そこに書いてあった文は目を疑うようなもので――。

 

 

 

 まさかここにもう一度来ることになるなんて……。僕の前に建つのは先日訪れたばかりの先輩の家だった。先輩からの返信に書いてあったのは何と先輩のお家へのお誘い。

 

「でもなんで……」

 

 なぜ僕を呼んだのだろう。理由は聞かなかったから分からないけど、何か用事があるのだろうか。大して用事もないのに呼ぶわけ……いや、それもありえるんだ。だって僕は先輩の……ペットなんだから……。

 

 ドキドキしながらインターホンを押す。数秒後、中からドタドタとした音が聞こえると同時にドアが開いた。

 

「あ、い、いらっしゃい……」

「いえ」

 

 出迎えた先輩は部屋着にしては綺麗で、外出用でもおかしくないくらい可愛らしいものを着ている。……というよりどう見ても外出用……だよね? まさか僕が来るから敢えて綺麗な服に着替えてくれたのかな?

 

「ま、まあまずは上がってくれ」

「は、はい、お邪魔します……」

 

 

 

「ゆっくりしてくれていいよ、今日は親も弟もいないから」

「は、はい……」

 

 つい数日前に訪れた先輩の部屋。変わらず先輩の優しい香りが漂っている。固くなってしまっているのか、思わず正座して座り込んでいた。

 

「あの、今日はどういう……?」

「ああ、実は渡したいものがあってね。けどまあそれは後でいい。君に頼みたいのは……」

 

 先輩の顔が大分赤い。何をさせようとしているんだろう……。

 

「その、まずはこっちへ来てくれないか?」

 

 言われるがまま先輩の方へ近づく。先輩は横座り状態である。先輩のすぐ近くへ行くと優しさにあふれた香りがいっそう強く香ってくる。

 

「あ、あの……」

「私の……膝に座ってくれないか?」

「膝ですか……!?」

 

 これはつまり、ペットとしての命ということなのかな?こんな経験初めてだし、正直言って恥ずかしさはあるんだけど……。

 でもこれも僕の役目。

 

「は、はい。分かりました」

 

 ゆっくりと、恐る恐る先輩の膝の上に座り込む。その瞬間に体が密着して背中越しに先輩を感じていた。早くなっていく鼓動を感じ唾をごくりと飲み込む。

 こんな状況は初めてだった。

 

「こ、これでいいですか?」

「ああ……」

 

 背中越しなので当然顔は見えない。だけど鼻息が後頭部にかかってくる。それがくすぐったいやら緊張するやら……。

 

「はあ、この感じ……まるで……」

「ま、まるで?」

「にゃんこ……!」

 

 そうか、先輩猫が好きなんだ……。ということは僕の役割は猫っていうことなのか。犬飼さんの時は犬、先輩の時は猫か……。

 今更だけど、僕ってそんな風に見えてるのかな?

 

「はあ……」

 

 頭を優しく撫でてくる。同時に右腕を僕に巻き付くような形にし、ぎゅっと抱きしめていた。スキンシップは犬飼さんにもされてるけど一向に慣れそうにない。

 

「せ、先輩……」

「すまない、しばらくこのままでいさせてくれないか」

 

 いつもの凛とした様子からは想像できないくらい弱々しさを感じさせる声だった。一体どうしたんだろう……? 何かあったのかな?

 

「実は……君にこれを渡したいんだ」

 

 先輩はそっとある物を僕に見せる。それは――――。

 

「これは……チケットですか?」

「ああ」

 

 長方形の紙袋に入れられている。中を開くと入っていたのは何かのチケットだった。なんのチケットだろう? 僕は書かれている文字を読む。

 

「後楽園ホール、DEEV JWELS?」

 

 聞いたことがない。何のイベントなんだろう?困惑している僕を見てか先輩が口を開いた。

 

「これはね、格闘技の大会なんだ」

「格闘技……」

 

 そうだった、先輩は格闘技が好きなんだった。ということは一緒に見に行こうっていうお誘いかな? ……けど、僕は格闘技はあんまり好きにはなれない。先輩には申し訳ないけど暴力的なものは苦手なんだ。

 もちろん一緒に誘ってくれるのは嬉しいけど。でも、断るのも悪いしどうしよう……。

 

「あの、先輩――」

「実は! これに……私が出るんだ!!」

 

「……え?」

 

 先輩が? この格闘技の大会に? どういうことなんだろう? 

 一切状況が呑み込めず、僕の頭は全く追いついていない。

 

「黙ってて悪かった。実は私は……プロの格闘家なんだ……」

「せ、先輩が!?」

「ああ。いつまでも隠しているよりかは君に本当の私を見て欲しい。私はそう思った。だから君にこのチケットを渡そうと思ったんだ」

 

 信じられなかった。いつもの先輩は確かに凛々しさや強さを感じるけど、まさかプロの格闘技の選手だったなんて思いもよらなかった。

 ということは僕はプロの選手の前で好きじゃないなんて反応してたんだ……。知らなかったとはいえ……。

 

「……その、すいません」

「いや、何で君が謝る必要がある!? 黙っていたのは私の方だ。君があまりこういうのは好きじゃないと分かって、もしかしたら距離を置かれてしまうんじゃないかと……」

「そ、そんなことしません!」

 

 確かに驚いた。けれど……。

 

「格闘技はちょっぴり苦手ですけど……でも、僕は、先輩のことは好きです! 先輩も格闘技も、僕は否定しません! それに……自分の好きなものを一生懸命頑張ってプロ選手になれるなんて、誰にでもできることじゃないと思います! だから……せ、先輩は、かっこいいです!!」

 

 背中越しだからよかった、顔を見てだったらこんなことは絶対に言えなかった。誤解されたくない、勘違いして欲しくない。僕は先輩が何をしていようと、こんなに優しい、こんなにかっこいい、こんなに凄い先輩から離れるようなことは絶対にしないって。

 

 

「一ノ瀬君……」

 

 先輩はチケットをテーブルに置き、両腕で抱き着いた。ちょっぴり力が入っていたけど、決して痛くはない。

 

「……私は君に強要はしない。ペットだからといって命令もしない。来るのが嫌ならこのチケットは処分して構わない。今すぐに答えろとは言わないから……だから、今は受け取ってくれないだろうか?」

「……はい」

 

 僕はテーブルの上のチケットを手に取る。日付は二月、まだ時間がある。だけど僕はもう決めていた。

 先輩の気持ちに応えたい、と。

閲覧ありがとうございます!


感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!

次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ