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第107話 「覚悟」

「た、タイトルマッチ!?」

「ああ」

 

 あの日、私は会長に呼ばれて聞かされた。なんと私にタイトルマッチのオファーが来ていたとのことだ。

 

「でも今度のタイトルマッチはもう決まってたんじゃ?」

「実は挑戦者が怪我をしたらしくてな。代理としてオファーが来たんだ」

「……」

「まあ実際には卒業と同時に王者になればドラマが作れるっていう理由もあるとは思うが……どうする?」

 

 私の中に、その問いに対する迷いはなかった。

 

「……やります、やらせてください!!」

「前回からまだ二ヶ月程度だ、断ってもいい話だぞ?」

「いえ、やります!」

 

 今思えば私の中にはきっと覚悟が決まったんだと思う。彼に想いを告げ、王者になる。そして高校を卒業する、と。

 そしてもう一つ。もし彼が私の想いに応えてくれらのなら、私の想いが実ったのなら。

 

 私は今度の試合でリングを去る。

 

 そう決めていた。

 これからは余所見はしない。彼だけを見続ける。そのために格闘技はきっぱりと引退するつもりだった。

 

 それは叶わぬ夢になったけれど、覚悟の強さはきっと変わらない。

 

 

 そして今日、私はついにタイトルマッチの日を迎えることとなった。

 

 

「一年ぶりかあ」

 

 またここに来るなんて、あの時は思わなかったな。嫌なわけではないけど、どうしても乗り気にはなれなかったから。

 ここは後楽園ホール、僕が初めて先輩の試合を観に行った場所。

 あの日以来僕はここには来ていない。けど今日は別。

 

「えっと……どこだろう」

 

 迷いながら自分の座席を探す。ようやく見つけた座席を見つけるとそこには知り合いがいた。

 

「よう!」

「あ、瑞人君……」

 

 久しぶりに会ったのは先輩の弟である瑞人君。こうして顔を合わせたのは学園祭以来かな。

 と、その隣にいるのは……。

 

「あ、うちの父ちゃんと母ちゃん」

「そ、そうなんだ」

 

 そういえば席がどうしてもここしか取れなかったって言ってたっけ。別に悪いことをしたわけでもないのに、何故だか気まずさを感じざるをえない。

 もしかして、僕達の間にあったことも聞いているのだろうか。

 頭の片隅にそんな考えを残しながら他愛もない会話をする。

 

「あ、そろそろ始まるみたいだぜ」

 

 気が付けばもう始まる時間になっていたようだった。

 僕は途中から来たからそんなに長い時間を感じなかったけど、話していればあっという間。今日の先輩の試合は一番最後だとのことで、僕はかなり遅めに会場へ来たんだ。

 

 会場の照明が消え暗くなる。何事かと思ったけどどうやら試合が始まるみたい。

 すると会場の小さなスクリーンに映像が流れ始めた。

 

 

『こんな時代が来てくれて、本当に良かったなあって思いますね』

『せっかくのチャンスなんで……勝ちたいですね』

 

 どうやら選手紹介のビデオみたい。曲も相まってどんどん会場のテンションが上がっていくのが伝わってきた。

 

『第四代ストロー級王者、今野真紀!』

 

 まずは対戦相手の紹介から。

 

『プロ十二年目、愚直に生きるチャンピオン!』

『お客さんには満足して帰っていただく、っていう試合がしたいですね』

『戦いに囚われ、夫と別れた。幼き娘と二人暮らし』

 

 相手の人にもこういう事情があるんだ……。

 

『離婚してくれと。引退しようとも思ったんですけど、やっぱり強いママの姿を見せたかったので』

『ママは、いつでも本気!』

 

 お子さんと二人で暮らしてるなんて、きっと凄く苦労されてるんだろうなあ。僕は今までそんなことを考えもしなかった。

 

『挑戦者、颯るか!』

「姉ちゃんだ」

「うん」

『この少女も、戦いに囚われた一人』

 

 トレーニングしている映像が映る。汗だくになって必死に頑張っているその姿を、僕は今日まで見てこなかったんだよね……。

 いや、見ようともしなかったんだ。

 

『たまに後悔しそうになる時も……ありましたね』

『青春のすべてをリングに捧げた。楽しいものすべてを、犠牲にした』


 僕にはきっと永遠に理解はできないだろう。この人は僕が到底及ばないくらいの努力をしてきた、色んなものを犠牲にしてきた人なんだ。

 

『絶好調六連勝中プリンセス、しかし……』

『たまに、同じ年ごろの子が遊んでたりしてるの見て……ちょっと胸が痛くなったり。……まあでも自分が選んだ道ですからね』

 

 自分が選んだ、だから後悔はしていないんだ。その姿を僕は羨ましく感じた。

 

 ……僕も、こうなりたい!!

 

 いつの間にか手の中は汗だくになっていた。

 

『愛するものを捨て、切り開いてきた! 青春を捨て、突き進んできた! 意地と誇りが交差する!!』

『まだまだ、負けてられないですね』

『……勝ちたい、です』

『DEEV JEWELS ストロー級タイトルマッチ、今野真紀vs颯るか!!』

 

 映像はここで終わり、曲が流れだす。すると入場口から先輩が姿を現した。その表情には並々ならない覚悟を感じる。遠くからでもそれははっきり見えた。

 僕もそれに応えなきゃ……!

 

 相手選手も入場してきていよいよ試合が始まる。……これが僕が見届ける最後の試合になるのかもしれないんだ。

 どんなに怖くても目は逸らさない。

 僕も覚悟を決めるんだ。

 

閲覧ありがとうございます。

投稿ペースが遅くなって申し訳ないです。


今回の煽りVはエレファントカシマシの「ズレてる方がいい」という曲のイメージです。

滅茶苦茶良い曲なので聞いてみてください。


それと今回から入場曲が変更になった設定になってます。

新しい入場曲はQueenの「i was born to love you」です。有名な曲なので知っている方も多いかと思います。


感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です。

次回もよろしくお願いします!

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