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第98話 「置いて行かれる」

 蓮ちゃんが手に息を吐く。

 

「寒くなってきたね~」

「もうすっかり冬だしね」

 

 修学旅行から帰ってきてもう数週間、気が付けばもう十二月。その間も僕達の関係はほとんど変わることはなく過ごしていた。

 ……いや、それは違う。大きく変わったものがあった。

 それは犬飼さんの僕の呼び方が変わったこと。あの修学旅行の夜以降明確に変わったんだ。その結果先輩と蓮ちゃんはショックを受けていたけど、僕にはどうすることもできなくて……。

 

 そんなこんなでもう十二月中盤。あと少しで冬休みに入る。

 去年の冬休みは一緒にカラオケにいったり先輩が格闘技の選手だと知った。もう一年も前になるのが信じられないくらい。

 

 そして忘れてはいけないことは僕は二年生のうちに答えを出すと決めた。未だにちゃんとした結論は出せていないけど……。

 

「ん?」

「どうしたの?」

「あれって……」

 

 蓮ちゃんの視線の先にはカメラを持った人達がいた。それもデジタルカメラではなく、テレビ撮影に使われるような本格的なもの。

 見たところその人達は撮影の打ち合わせをしているようだった。その相手は――。

 

「せ、先輩?」

 

 制服に緑色のグローブ(蓮ちゃんに聞いたところによると試合で使うグローブみたい)を身に着けた先輩だった。当然僕達以外の生徒達も注視している。あんな本格的なカメラで撮影していれば誰でも注目してしまうのは無理ないだろうけど。

 するとスタッフの人が僕達に声をかけてきた。

 

「すいませーん、こちらを見ないようにお願いします!」

 

 そう言われた僕達は視線を逸らす。本当は横目で見たいたんだけど。

 

「じゃあいきまーす! 三、二……」

 

 ここからだと後ろ姿しか見えないからどういう風に撮影をしているのかは分からないけど、きっとかっこよく映っているんだろうなあ。

 その後、軽くパンチする姿を撮り撮影は終了した。撮影スタッフが引き上げていくと同時に僕達は先輩のもとへ駆け寄る。

 

「やあ、二人とも」

「先輩、あれは一体?」

 

 先輩は照れくさそうに頬をかく。

 

「実は、大晦日に試合が決まってね」

「お、大晦日ですか?」

「ああ。その試合のVTRの撮影だったんだ」

 

 一年の最後の日に試合だなんて凄いと思う気持ちと、想像もつかないほど大変なのを思い知っている気持ちが混同している。

 けど、やっぱり僕は見ることはないと思う。

 

「大晦日なんて凄いじゃないるか先輩!」

「そ、そうなんですか?」

「まあ、この国の選手なら誰しもが目指す舞台だからね。オファーをもらえたのは光栄だよ」

 

 色んな人達が憧れる舞台に立つだなんて。

 

「じゃあ那須山天津のサインもらってきて欲しいな~、なんて」

「もらえたら、ね」

 

 やっぱりこの人は凄いなあ。僕はどんどん置いて行かれるような気持になっていく。

 恋も、進路も、僕には決めたくても決められないものがたくさんあった。

 

 そして、冬休みが幕を開ける。 

 

閲覧ありがとうございます!

最近短めですいません。


冬休み編開始です。多分数話で終わると思います…と言えればいいのですが、どのくらいになるかは分からないのが実際のところ。


思ったこと、要望、質問等があれば感想いただけるとすごくありがたいです。

感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!

次回もよろしくお願いします!

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