木の実と花
少女は起きると外を見た。
まだ薄暗く、村の人々も大多数が活動していない時間だ。
「昨日は世話になっちゃったからなー。お礼したいんだけど……。」
改めて小屋を見渡すが渡せるものは無い。
少女は少し悩みながら小屋をクルクルと回る。
「うーん……あっ!」
少女は笑顔になって目を輝かせる。
「よし!」
少女は素早く支度をすると森へ躊躇すること無く入っていった。
昨日も訪れた聖堂には片刃の剣を持った青年が魔獣にトドメをさしている所だった。
「……何、しに来た……?」
「昨日また来るって言ったじゃん!」
青年は少し驚くような仕草をする。
「……そうか。」
「ところでお兄さんは何をしてるの?」
少女は興味深く魔獣を観察する。
どうやら一撃で心臓を破壊したようで綺麗なまま死体が残っていた。
「……ここらへん…は、…魔獣が…でるから…。」
「襲ってきんだ!怖いねぇ!」
魔獣をまじかで見る事など無いと思っていた少女には驚く事だったようだ。
魔獣が出てきたら村が総出となって討伐しに行く。
それが少女にとっての普通であり、少女にとっての畏怖の存在だったのだ。
「私ね、お兄さんにお礼がしたくて来たんだ!昨日はありがとう!」
ニッコリと笑う。
「別に……いい。」
「そんな事言わないで!ささ!これ食べて!」
少女の手には木の実と美しい花が乗っていた。
青年は少しだけ瞬くと少女の顔を見る。
「……いいのか?お前……大変…だろ?」
「いいの、いいの!気にしないで!」
「…そうか。……ありがとうな………。」
青年はゆっくりとした動作で少女から木の実と花を受け取る。
「じゃあ私、村のみんなの食料を取らなきゃだから!じゃあね!」
「………ああ。」
少女は走って村へ帰った。
残された青年は花を見ると聖堂へ歩きだし、ドアを開ける。
中心にある墓に花と木の実を添えて少し笑うとまたドアから外へ出ていった。
今日も一日村人の食料を集め終わった少女は小屋へ帰る途中婦人同士が話しているのを盗み聞きしていた。
「この村に騎士様が来るらしいのよ!」
「騎士様が!?なんでまた……。」
「なんか森に用があるって領主様が言っていたけど。」
「あの森に!?何かあるのかねぇ。」
「最近あのガキも出入りしてるっぽいし……何かあるんじゃない?」
少女はそこまで聞くと小屋へ戻る。
「ただいまぁ。……騎士様なんて信じない方が……いいのにね。」
少女は少しだけ俯き、顔を上げると沈んでいく夕日を眺める。
「明日、お兄さんの所、なんて言って行こうかな?」
少しだけ笑うと木の実を食べ始めるのだった。