竜王様と怯えた勇者
「姫様がお戻りになりました!」
兵士の一報が届いて飛び起きる。
「あっ、つっ……!」
「無理をするな。勇者でも骨が折れたばかりじゃ痛いだろ」
「な、なに……だいぶ回復してきた。少しすればよくなる」
「ほら、迎えに行くんだろ。掴まれ」
痛む体を押さえて返す。
とは言え、長い間旅をしてきた仲間だ。
やせ我慢をしてるのはわかっているのだろう。
肩を借りて部屋を出ると、彼女はそこにいた。
「姫さま、無事でなにより」
「ああ勇者様……良かった、本当に……」
「あー、感動の再会してるとこ悪いんだけど」
ふと視線を向けると、少女が座っていた。
赤い髪にこれまた赤い角と尻尾を生やした、おそらく竜種の亜人。
「この方が姫様を連れて来られたのです。私共ではいまいち話を理解できませぬが……」
「うむ、面倒だから単刀直入に行こう。魔王を倒すぞ勇者」
竜人の少女はそう言って立ち上がる。
その姿を見ただけでわかる。
たぶん、魔王と同じく彼女も計り知れない魔力を秘めている。
勇者だなんだと言われているだけの俺なんかよりも遥かに。
「俺に何が出来る?」
「勇者様……?」
少女は黙ってこちらを見つめる。
「見れば分かる。強いんだろ?
だったら俺なんかほっといて行けばいいじゃないか」
「おい、いくらなんでもそんな言い方……」
「あんなにボロボロにやられたんだぞ!!」
自分でも驚くほど声を荒げていた。
それなのに、言葉は止まらない。
「姫さまの力が効かなかった!
俺たちの武器も魔法も通じなかった!
あんなやつにこれ以上俺がどうしろっていうんだ!」
怒っている。
力があるのに、使わなかったやつに。
力があるのに、間違った使い方をしたやつに。
少女がゆっくりと口を開く。
「でも、やる気なんだろう?」
少女の金色の目が光る。
力を込めて手を握りしめた。
「相打ち覚悟か? いや、倒せなくても時間稼ぎかな」
けらけらと少女が笑う。
俺がどれだけ痛みを堪えてきたか。
俺がどれだけ恐怖と戦ってきたか。
何度も殴って、こいつに教えてやりたい。
「なに、私はそれを手伝いに来た。
勇者の仲間! やってみたかったんだよね!」
「ば、バカか?
姫様の力は効かない、俺たちじゃ勝てない、そう言ったろ!
秘密を探るにしたって、もうちょっとマシな方法があるだろ!」
「なんだ、考えてることがあるじゃないか」
「それは……」
本当にやれるかどうか分からない。
何か秘密があるのか、ないのかも。
それでも、姫さまを助けられればいいかと思っていた。
だが、姫さまは助けられてここにいる。
ならば、もしかしたら。
針の穴に糸を通すような、小さな可能性であっても。
「考えてることはある……でもその前に。
ひとつ、聞いてもいいか?」
「構わん、三つくらいまでいいぞ」
「……あんた、強いよな?」
少女はにっと歯を見せ笑う。
「超強い」